5. 売上の87%を占める主力事業。利益率17.8%が連結を上回る理由

連結の数字を事業ごとに割ってみる。2026年5月期のセグメント別の姿はこうだ。

Sansan/Bill One事業は売上高468億円で構成比87.1%、営業利益83億円、営業利益率17.8%。売上は前期比+23.9%、営業利益は同+132.9%と伸びた。名刺管理と請求書処理という2つの柱を、この一つのセグメントが抱えている。

Eight事業は売上高67億円で構成比12.5%、営業利益2億円、営業利益率3.5%。売上は前期比+33.0%で、伸び率だけを見れば主力を上回る。利益率はまだ薄いが、営業利益は前期比で3.8倍に伸びており、収益化が進み始めた段階にある。

「その他」は売上高2億円で営業損失▲1億円。規模は小さい。

興味深いのは、主力事業の営業利益率17.8%が連結の15.2%を上回っている点だ。つまり連結の利益率は、主力の水準よりも低いところに着地している。利益率の薄いEight事業と、損失の出ている「その他」、そして全社共通の費用が、主力の稼ぎを削っているという構図になる。

これは弱さではなく、順番の問題だと読み取れる。主力で利益を作り、その利益で次の柱を育てる。Eight事業の営業利益が前期比3.8倍に伸びたことは、その育成が形になり始めた兆しと考えられる。

6. 自己資本比率36.4%の中身は、借入ではなく前受金214億円

貸借対照表に目を移すと、一見して気になる数字がある。2026年5月期末の自己資本比率は36.4%。情報・通信業325社の中央値66.9%と比べれば、半分程度の水準だ。

数字だけを見れば負債の重い会社に映る。ところが中身は違う。有利子負債は長期借入金と1年内返済予定の借入金、社債を合わせて27億円程度にとどまる。一方で現金は368億円ある。差し引きでは大きなネットキャッシュを抱えている。

では負債の主役は何か。前受金214億円である。総資産549億円に対して4割近くを占めており、これが自己資本比率を押し下げている最大の要因だ。

前受金は借金ではない。サービスを提供する前に代金を受け取ったぶんが、まだ売上に振り替わっていない状態で負債に立っているだけである。会計上は負債だが、返済を求められるものではなく、時間が経てば売上になる。

年払い・前払いの課金構造を持つ会社では、成長するほどこの負債が膨らむ。自己資本比率が低いのは、事業が伸びている証でもあるという逆説がここにある。自己資本比率という1本の指標だけで財務の性格を判定すると、この構造を読み損なう。

キャッシュフローも同じ方向を示す。2026年5月期の営業CF(営業活動によるキャッシュフロー)は96億円、投資CFは▲6億円、財務CFは▲33億円だった。営業で稼いだ現金が投資額を大きく上回り、余った現金で借入の返済と自己株式の取得を進めている。自己株式は前期末の3億円から10億円へ増えた。成長投資と還元を同時に回せる局面に入っている。

6.1 販管費390億円の重心は人件費165億円

費用構造も押さえておく。2026年5月期の販売費及び一般管理費は390億円。その内訳で最も重いのが人件費165億円で、売上高の3割にあたる。次に大きいのが広告宣伝費67億円で、売上高の1割強を占める。

この2つで販管費の6割近くが説明できる。設備でも仕入でもなく、人と広告に費用が寄っている。つまり利益率の改善は、原価の圧縮ではなく、売上の伸びが人件費と広告費の伸びを上回ったことで生まれたと読み取れる。

逆に言えば、売上の伸びが鈍った局面では、この2つが固定費として利益を削る。人件費は削りにくく、広告費は削れば売上の伸びに跳ね返る。利益率15.2%という到達点は、成長の速度に支えられている構造でもある。

7. 筆者コメント

過去5期の売上と従業員数を並べると、この会社の増益の性質が見えてくる。

5期前の連結従業員は1,205人だった。直近は2,336人で、ほぼ2倍になっている。同じ期間に売上は2.6倍。人を1人増やすごとに、売上はそれより速く増えた計算になる。

ここが利益率改善の正体だろう。人力オペレーションを組み合わせるという事業の立て付けは、一見すると人数と売上が比例する労働集約的な構造に思える。ところが実際の数字は、人の増え方より売上の増え方のほうが速い。データ化の仕組みそのものが、人の手を増やさなくても回る部分を広げてきたと考えられる。

もっとも、この関係は永久には続かない。人1人あたりの売上が上がり続けるには、仕組みの改善が人の追加より速くなければならない。生成AIの活用は、まさにその速度を上げる打ち手として位置づけられているはずだ。

だから私は、この会社の決算を見るとき従業員数の欄に目を落とす。売上と人数の伸び率、この2つの比較こそが、利益率の持続性を測る素朴で有効な物差しになる。ぜひその視点も持ってみてほしい。

参考資料

8.1 免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
  • 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
  • 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。

石津 大希