「株式投資はリスクが高い」という漠然としたイメージだけで、一歩を踏み出せずにいる人は少なくありません。
実際にどんな種類のリスクがあるのか、そして個人投資家は実際にどれくらいの割合で損をしているのか。具体的な数字を知らないまま「怖いもの」として遠ざけてしまうのは、かえって判断を誤らせます。
本稿では、株式投資につきまとう代表的なリスクの整理に加えて、日本証券業協会が毎年実施している個人投資家5000人規模の調査データを使い、相場急落時に実際に投資家がとった行動や、直近1年間の売買損益の実態を具体的な数字で確認していきます。
1. 株式投資の「4つのリスク」と、見落とされがちな信用取引
まずは基本の整理から始めます。株式投資に特有のリスクとして代表的に挙げられるのは、大きく4つです。
1.1 価格変動・信用・為替・カントリーという定番の4分類
金融経済教育推進機構(日本証券業協会などが発起人)が公開する解説では、国内株式のリスクとして「価格変動リスク」と「信用リスク」の2つ、外国株式にはこれに加えて「為替変動リスク」「カントリーリスク」の2つが挙げられています。
価格変動リスクとは、換金する際の受取金額が当初支払った金額を下回る場合があるという、株式投資の最も基本的なリスクです。
信用リスクは、投資した会社が破たんする可能性を指します。海外株式ではこれに加えて、為替レートの変動による差損(為替変動リスク)と、発行体の所在する国・地域の政治・経済環境による価格変動(カントリーリスク)が加わります。
1.2 【株式投資の4つのリスク】
国内株式に共通するリスク
- 価格変動リスク:値下がりによる損失の可能性
- 信用リスク:投資先企業の破たん
海外株式で追加されるリスク
- 為替変動リスク:円換算での差損
- カントリーリスク:政治・経済情勢による価格変動
もう一つ、見落とされがちなリスクがあります。証券会社から資金や株式を借りて売買する「信用取引」です。
日本取引所グループの説明によれば、信用取引は顧客が委託保証金を証券会社に担保として預託し、資金または証券を借りて売買する取引で、委託保証金の約3倍までの売買ができる点が主なメリットとされています。
自己資金の範囲でしか売買できない現物取引とは異なり、借りた分だけ損益の振れ幅が大きくなる、性質の違うリスクを抱える取引です。仕組みや追加保証金(追証)の具体的な注意点は、掘り下げると一本の記事になるほど奥が深いため、本稿では「現物取引とは別次元のリスクがある」という認識にとどめます。
2. リスクを抑える王道は「長期保有」。個人投資家の実際の行動
価格変動リスクへの一般的な対処法として語られるのが、時間を分けて買う・複数の銘柄に分散する・長期的な視点を持つ、という3つです。
2.1 平均保有期間は5年2か月、10年以上が最多という実態
建前論に聞こえるかもしれませんが、日本証券業協会が2026年7月に公表した個人投資家5000人への調査では、実際の株式保有者の株式保有期間は「10年以上」が28.1%で最も多く、5年以上保有している人が45.2%と、4割を超えています。
推計の平均保有期間は62.1か月、およそ5年2か月です。株式の投資方針についても「概ね長期保有だが、ある程度値上がり益があれば売却する」という回答が47.5%と半数近くを占めています。
短期的な値動きに一喜一憂するイメージが先行しがちですが、実際に株式を保有している人の多くは、値動きの荒さをやり過ごすために時間を味方につけているというのが実態です。
なお、株式投資を始める際の証券口座の選び方や、単元未満株・NISA成長投資枠といった制度の基礎については、株式投資の始め方を解説した記事で詳しく整理しています。
3. 「株は損する人が多い」という不安と、実際の「勝敗」
「株はほとんどの人が損をする」というイメージを持つ人は少なくありません。実際のところはどうなのでしょうか。
3.1 2025年の売買損益、利益が出た人は損失が出た人の約10倍
日本証券業協会の2026年7月公表調査によれば、2025年の1年間における有価証券の売買損益は、「売買益が出た」人が51.1%、「売買損が出た」人が5.1%でした。
売買益が出た人の割合は、売買損が出た人の割合の約10倍にのぼる計算になります(編集部試算)。
残りの内訳は、「ほぼ損益はゼロであった」人が7.7%、「昨年中は有価証券を売買(取引)しなかった」人が36.1%です。売買(取引)しなかった人には、含み損を抱えたまま塩漬けにしているケースも含まれ得るため、この数字だけで「大半が得をしている」と単純化することはできません。
3.2 【2025年の売買損益】
売却して損益が確定した人(合計63.9%)
- 売買益が出た:51.1%
- ほぼ損益はゼロであった:7.7%
- 売買損が出た:5.1%
売却しなかった人
- 昨年中は有価証券を売買(取引)しなかった:36.1%
4. 【編集者の視点】
この数字を見て「思ったより損をしている人が少ない」と感じた方は多いはずです。ただし気をつけたいのは、このデータが「売却して損益が確定した人」の内訳だという点です。
株式は売却するまで損益が確定しません。含み損を抱えたまま売らずに持ち続けている人は、この5.1%にはカウントされていません。損失を「見なかったことにする」塩漬け株が、実際にはもっと多く存在する可能性があります。
同じ調査では、有価証券を売却した理由として「利益確定を考えたため」が76.9%だったのに対し、「損失を出し、損切りを行うため」は25.0%にとどまっています。
売る決断そのものが、利益が出ているときのほうが圧倒的にしやすいという、人間心理の傾向がここにも表れています。防衛策として有効なのは、買う前に「いくらまで下がったら売るか」というルールをあらかじめ決めておくことです。
感情が動いた後に決めるのではなく、冷静なうちに決めておく。これだけで、損切りができずに含み損を膨らませるという典型的な失敗を避けやすくなります。証券会社によっては、あらかじめ指定した価格で自動的に売却する注文方法も用意されているため、口座開設時に確認しておくとよいでしょう。
5. 相場が急落した瞬間、個人投資家が実際にとった行動
「暴落が起きたら、多くの投資家が慌てて売ってしまうのではないか」というイメージも根強くあります。しかし実際のデータを見ると、印象はかなり異なります。
5.1 投資額を「減らした」人はわずか5%程度
日本証券業協会が2025年7月に公表した調査では、2024年8月の相場急落と、2025年4月の米国関税措置等を受けた相場急落について、それぞれ投資行動の変化を尋ねています。
2024年8月の急落時、「有価証券の投資額を変えなかった」人は43.4%、「相場急落を踏まえた投資行動は取っていない」人は29.8%で、合計すると73.2%が大きな行動を起こしていません。
一方で「投資額を増やした」人は20.5%いたのに対し、「投資額を減らした」人はわずか5.1%にとどまりました。増やした人は減らした人の約4.0倍にのぼります(編集部試算)。
2025年4月の急落でも傾向は同じです。「変えなかった」44.7%、「行動を取っていない」32.6%で合計77.3%。「増やした」16.8%に対し「減らした」は5.3%で、増やした人は減らした人の約3.2倍でした。
5.2 【相場急落時の投資行動】
2024年8月の急落時
- 増やした:20.5%
- 変えなかった+行動を取っていない:合計73.2%
- 減らした:5.1%
2025年4月の急落時
- 増やした:16.8%
- 変えなかった+行動を取っていない:合計77.3%
- 減らした:5.3%
同じ調査では、年代が若いほど「投資額を増やした」割合が高く、年代が上がるにつれ「相場急落を踏まえた投資行動は取っていない」割合が高くなる傾向も示されています。
6. 【編集者の視点】
このデータから読み取れるのは、「暴落時に慌てて売る」という行動は、実は少数派だという事実です。ただし、これを「だから何もしなくていい」という結論にするのは早計です。
「行動を取っていない」人の中には、下落局面をどう捉えればよいか判断できず、思考停止のまま様子見をしている人も含まれている可能性があります。積極的に「変えないと決めた」のか、「決められずに変わっていない」のかは、この数字だけでは区別できません。
大切なのは、暴落が起きてから慌てて考えるのではなく、投資を始める前に「どんな下落が起きても、この資金は当面使わない生活防衛資金には手を付けない」という前提を作っておくことです。
この前提さえあれば、価格変動リスクは「怖いもの」ではなく「一時的に振れる数字」として受け止めやすくなります。逆にこの前提がないまま投資額を増やすと、本来のリスク許容度を超えた無理な買い増しになりかねない点にも注意が必要です。
7. 気づかないうちに進む「銘柄の入れ替わり」というリスク
「投資した会社が破たんする可能性がある」という信用リスクの説明を読んでも、どれくらいの頻度で起きることなのか、実感を持ちにくいという方も多いはずです。
7.1 プライム市場の上場会社数は8か月で45社減った
日本取引所グループが毎日更新している統計によれば、東証プライム市場の上場会社数は、2026年1月末時点で1594社でした。それが2026年9月4日時点では1549社まで減っています。
8か月ほどの間に45社、率にして約2.8%の会社がプライム市場から姿を消した計算になります(編集部試算)。
この減少には経営破たんによる上場廃止のほか、別の市場区分への移行やM&Aによる非公開化も含まれ、内訳は統計から分かりません。
それでも、保有銘柄が「ずっとそこにある」という前提が、必ずしも当たり前ではないことは、この数字から見えてきます。
8. 【編集者の視点】
信用リスクへの防衛策としてよく語られるのが「分散投資」です。複数の銘柄・業種に分けて保有していれば、一社の経営不振が資産全体に与える影響を小さくできます。
ただし分散させるだけで安心してしまうのも危険です。保有している会社が決算発表のたびにどう評価されているか、証券会社の取引アプリなどで年に数回は確認する習慣を持つことをおすすめします。
上場廃止の中には、業績悪化による経営破たんのように資産価値がほぼ失われるケースもあれば、買収による非公開化のように株主に対価が支払われるケースもあります。同じ「上場廃止」という言葉でも中身は大きく異なるため、自分の保有銘柄で発表があった際は、その理由まで確認する癖をつけておくと安心です。
※本記事は、編集部が日本証券業協会・日本取引所グループが公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 株式投資の代表的なリスクは、価格変動リスク・信用リスクの2つに、海外株式では為替変動リスク・カントリーリスクが加わります。
- 信用取引には、現物取引とは異なるレバレッジ特有のリスクがあります。
- 個人投資家の株式の平均保有期間は5年2か月で、10年以上の長期保有が最も多くなっています。
- 2025年に有価証券の売買益が出た人は51.1%で、売買損が出た人5.1%の約10倍にのぼります。
- 相場急落時に投資額を減らした人はわずか5%程度で、多くは行動を変えていません。
- 東証プライム市場の上場会社数は8か月で45社減少しており、銘柄は絶えず入れ替わっています。
株式投資のリスクは、種類を知らないまま漠然と怖がっている限り、必要以上に大きく見えてしまうものです。一つひとつの正体を数字で確認していくと、身構えるべきポイントと、思ったほど心配しなくてよいポイントの両方が見えてきます。
大切なのは、リスクをゼロにすることではなく、生活防衛資金には手を付けない範囲で、受け止められる振れ幅を事前に決めておくことです。不安があれば、証券会社の窓口や金融経済教育推進機構の相談窓口も活用してください。
10. よくある質問
10.1 Q. 株式投資で最も注意すべきリスクは何ですか?
A. 特定の一つに絞ることは難しいですが、基本となるのは価格変動リスクです。海外株式であれば、これに為替変動リスクとカントリーリスクが加わります。信用取引を使う場合は、現物取引にはないレバレッジ特有のリスクも別途生じます。
10.2 Q. 株式投資で損をする人はどれくらいいますか?
A. 日本証券業協会の2026年7月公表調査では、2025年の有価証券(株式・投信・公社債等)の売買損が出た人は5.1%、売買益が出た人は51.1%でした。ただし含み益や含み損はこの数字に含まれません。
10.3 Q. 相場が暴落したら、株はすぐに売るべきですか?
A. 日本証券業協会の調査では、実際に相場急落時に投資額を減らした人は5%程度にとどまり、多くは行動を変えていません。ただし、これは「何もしなくてよい」という意味ではなく、投資を始める前に自分の許容できる下落幅をあらかじめ決めておくことが重要です。
10.4 Q. リスクを抑えるにはどうすればよいですか?
A. 一般的には、時間を分けて買う、複数の銘柄・業種に分散する、長期的な視点を持つ、という3つが基本とされます。実際に個人投資家の株式の平均保有期間は5年2か月で、長期保有が主流になっています。
参考資料
- 日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査(調査結果概要)」(2026年7月公表)
- 日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査(調査結果概要)」(2025年7月公表)
- 金融経済教育推進機構「投資の時間 株式投資のリスクって何?」
- 日本取引所グループ「信用取引制度の概要」
- 日本取引所グループ「上場会社数・上場株式数」(2026年9月4日時点データ)
LIMO編集部ウェルスマネジメント班
