16. 50歳代に多い「口座は開いたのに、そこから動かせない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・徳田 椋が伝えたいこと
50歳代は、働き方や収入の形がある程度固まり、老後までに使える時間の長さも見えてくる時期です。この時期になると、制度の名前に「非課税」という言葉がついたものをいくつも目にするようになります。ただ、非課税で運用できる枠と、住民税が非課税になる世帯とは、まったく別の仕組みです。前半でみたように、前者は運用で得た利益に税金がかからない制度、後者は前の年の所得をもとに市区町村が判定する世帯の区分で、片方の枠を使ったからといって、もう片方に近づくわけではありません。保険会社と保険代理店で資産運用や保険の見直しのご相談に応じてきた立場から申し上げると、この時期に多いのは、制度の名前を知らないというより、口座だけ先に用意して、その先で手が止まってしまっているケースです。相談の場では次のような声を耳にします。
16.1 50歳代に多いお悩み相談は「枠も口座も一通りそろえたのに、中身を選ぶところで止まっている」

相談の場でも、口座や枠を用意するところまでは進んだのに、その先の一手が選べないまま時間だけが過ぎているという方に数多くお会いします。
16.2 【ファイナンシャルアドバイザー・徳田 椋が回答】止まっているのは、選ぶ力ではなく順番
途中で引き出せない仕組みといつでも動かせる仕組みで役割を分け、投資信託は運用先の中身が重複していないかを確認しておくことも大切です。運用の目的を明確にして、ご自身の目的に合った制度や金融商品を優先順位を決めてみるところから始めてみましょう。
16.3 ポイント1:どの種類の口座を、どんな手続きで開くのかまで確かめる
非課税で運用できる枠の口座は開いてあるのに動かせない、という方にまずお聞きするのは、その口座のほかに、通常の課税される口座を持っているかどうかです。非課税の枠には年間で使える上限があります。上限を超えて買いたいものが出てきたときや、非課税の枠にはなじまない持ち方をしたいときには、通常の口座が別に必要になります。この二つは同じ金融機関の中に並べて持つこともできますし、別々の金融機関に分けても構いません。開設の手続きそのものは、いまはオンラインで完結する形が主流で、顔写真つきの本人確認書類とマイナンバーが分かる書類の二点を撮影して送れば、多くの場合は数日で使えるようになります。もう一つ確かめておきたいのが、通常の口座を開くときに選ぶ区分です。利益が出たときの税金の計算と納付を金融機関にまとめてもらう形を選べば、原則として確定申告の手間が増えません。自営業の方のように毎年ご自身で申告をされている場合でも、事業の所得と運用の利益は別々に扱われますから、どちらの区分で開いておくかは最初に決めておくほうが後が楽です。手続きの中身が分かると、口座を増やすことへの心理的な重さがかなり軽くなります。
16.4 ポイント2:途中で引き出せない仕組みと、いつでも動かせる仕組みで役割を分ける
次に整理していただくのが、いま持っている二つの仕組みの性格の違いです。毎月の掛金を積み立てて老後に受け取る年金の仕組みは、原則として一定の年齢になるまで引き出せません。裏を返せば、途中の値動きに驚いて売ってしまうことができない仕組みだということです。一方、非課税で運用できる枠のほうは、必要になればいつでも売って現金に戻せます。この違いは、中に何を入れるかの判断に直結します。引き出せない仕組みは、置いておく期間が長くなることが決まっているわけですから、値動きの幅が大きくても、時間をかけて伸びていく可能性のあるものを入れておく余地があります。反対に、いつでも動かせるほうに値動きの激しいものばかりを入れてしまうと、下がった局面で不安になって売る、という一番避けたい行動が起こりやすくなります。ですから、いつでも動かせるほうには、短い期間の上下も見込んだうえで、値動きの性格が異なるものを混ぜておく。どちらの器に何を入れるかを先に決めておけば、個別の商品を選ぶ作業は、その枠の中での比較に変わります。選択肢が減るので、決めやすくなります。
16.5 ポイント3:投資信託は名前ではなく、毎月の運用報告の中身で見比べる
ここまで決まってから、ようやく中身の比較に入ります。よく聞かれるのが、全世界に広く投資するものと、アメリカの代表的な株価指数に連動するもののどちらがよいか、という問いです。前者は世界中の株式に幅広く分けて持つ形で、そのなかにはアメリカの企業も相当な割合で含まれています。後者はアメリカの主要な企業に絞って持つ形です。どちらが正解ということはなく、一つの国に集中する度合いをどこまで受け入れるかの違いだと考えてください。値上がりを狙う会社を中心に集めたものと、割安さを重視して集めたものの違いも同じで、伸びるときの勢いと、下がったときの落ち方の性格が違います。そして、どれを選ぶにしても、必ず確認していただきたい資料が二つあります。一つは、その投資信託が実際にどの銘柄をどれだけ持っているかを載せた月ごとの運用報告です。名前からは分からない偏りが、ここを見ると分かります。もう一つが、保有している間ずっとかかる運用の費用です。同じような値動きをする商品でも、この費用の水準には差がありますし、長く持つほどその差は結果に効いてきます。名前や人気ではなく、この二つを並べて見比べる。それだけで、選べないという状態からは抜け出せます。
16.6 ポイント4:いま入っている保険まで並べたうえで、二つの枠に配置する
最後に、運用の話だけで完結させないことをおすすめしています。以前に入った保険がそのままになっている、という方は多く、その中には、保険料の一部が運用に回る種類の契約が含まれていることもあります。この場合、ご本人が意識していないところで、すでに値動きのある資産を持っていることになります。ですから、運用の配分を決める前に、加入している契約の保障の中身と、運用に回っている部分があるかどうかを保険証券で確かめておきます。手元に証券が見当たらなければ、契約している会社に問い合わせれば再発行してもらえますし、保障の内容だけならオンラインの会員ページで確認できることも増えました。全体が並んだら、非課税で運用できる枠の中の使い分けを決めます。この枠は、こつこつ積み立てていく部分と、まとまった額でも買える部分の二つに分かれていて、両方を同じ年に使えます。毎月の積み立ては前者で続けながら、後者では、株式とは値動きの向きが違いやすいものを少し入れておく、という組み方もあります。たとえば金のように、株式が振るわない局面で相対的に持ちこたえることのある資産を、全体の一部として持っておく形です。保険で持っている分と、二つの枠に置く分を同じ紙の上に並べてはじめて、どこに何を足すべきかが見えてきます。
口座を開いたところで止まってしまうのは、意志が弱いからではなく、決める順番が示されていないからだと感じています。手続き、役割分担、中身の比較、そして全体の配置。この順に一つずつ片づけていけば、最後に残るのは商品を選ぶ作業だけになります。これは一つの考え方であり、どの口座をどう使うのが適しているかや、税金の扱いがどうなるかは、収入の形や加入している契約の条件によって異なります。また、冒頭でも触れたとおり、非課税で運用できる枠を使うことと、住民税が非課税になる世帯にあたるかどうかは、まったく別の判定です。運用の非課税枠を使っても住民税の判定には影響しませんので、そこは切り分けて考えてください。ご自身の状況にあてはめる段階では、契約や口座ごとの条件を専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
17. まとめにかえて
神戸市の設定では、ひとりだけの世帯で合計所得45万円、同一生計配偶者か扶養親族が1人いる世帯で101万円が上限でした。年金収入に置き換えると、65歳以上で155万円と211万円、65歳未満で105万円と171万3334円になります。この式に並んでいるのは人数と決まった額だけで、口座をいくつ持っているかという要素は入っていません。試算では、非課税で運用できる枠のなかで利益が出ても判定に使う所得額は45万円のまま動かず、同じ利益を課税される口座で確定して申告すると、利益と同じ幅だけ所得が持ち上がることを確かめました。まずは課税証明書と口座の年間取引の書類を並べ、そのうえで市区町村の窓口で自分の位置を確かめてください。
参考資料
- 【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
- 【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説
- 総務省「個人住民税」
- 神戸市 よくある質問と回答「住民税(市県民税)が課税されない所得額はいくらですか?」
- 神戸市「住民税(市県民税)がかからない人」
- 厚生労働省「令和6年国民生活基礎調査」(e-stat)
- 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」II 各種世帯の所得等の状況
- 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」用語の説明
- さいたま市 さいたまこそだてWEB
- こども家庭庁「物価高対応子育て応援手当」
- 内閣府「「強い経済」を実現する総合経済対策」
- マイナポータル「01 わたしの情報を取得する」
徳田 椋
