5. 純資産27億円まで削られた資本が、どこまで戻ったのか

財務の薄さの由来を、5期の並びで確かめておきたい。有価証券報告書ベースの推移である。

売上高は1,242億円、1,457億円、1,308億円、1,262億円、1,255億円。営業利益は105億円、40億円、▲6億円、56億円、67億円と動いた。

問題は資本の側だ。純資産は459億円、505億円、27億円、100億円、136億円。自己資本比率は31.5%、35.3%、2.5%、10.1%、13.8%と推移している。

2024年3月期の落ち込みが際立つ。同期は減損損失220億円を含む特別損失354億円を計上し、税金等調整前当期純損失は453億円に達した。純資産505億円が1年で27億円まで削られた。自己資本比率2.5%は、上場企業としては極限の水準である。

そこからの2期で、純資産は136億円まで戻った。会社は前期について、親会社株主に帰属する当期純利益47億円の計上などにより純資産が前期末比35億円増加し、自己資本比率は13.8%となって前期末比3.5ポイント上昇したとしている。

資本を戻したのは利益だけではない。会社は財務政策のなかで、事業再生計画遂行の前提となる第三者割当増資を完了し、全取引金融機関との間で債権者間協定書を締結したとしている。今後は短期運転資金を自己資金と金融機関からの短期借入で、設備投資などの長期資金は第三者割当増資による自己資本を基本として運営する方針だ。

ここで一つ、指標の読み方に注意が要る。前期のROEは40.4%と表示される。非鉄金属業種の中央値9.0%を大きく上回る数字だが、これを収益性の高さと受け取るのは誤りだ。分母である自己資本が極端に小さいから、そう出るにすぎない。

資本が薄い会社のROEは高く出やすく、資本が積み上がるほど下がっていく。計画どおり自己資本が厚くなれば、ROEはむしろ低下する。資本効率の指標を単独で見ると、この局面の会社は実像と逆に映る。

6. 投資を絞り、借入を返す。キャッシュの向きが変わった

資本の回復と並行して、キャッシュの使い道も入れ替わっている。5期のキャッシュ・フローを並べてみよう。

営業活動によるキャッシュ・フローは▲51億円、110億円、37億円、28億円、19億円。投資活動によるキャッシュ・フローは▲84億円、▲81億円、▲76億円、▲3億円、▲9億円。財務活動によるキャッシュ・フローは155億円、▲13億円、76億円、50億円、▲108億円である。

読みどころは2つある。1つは投資の絞り込みだ。設備投資額は67億円(2024年3月期)から15億円、13億円へと落ちている。年80億円前後を投じていた頃とはまるで別の会社の姿だ。

もう1つは財務キャッシュ・フローの反転である。前期は108億円の支出となった。会社の説明では、これは主に110億円の長期借入金の返済が実行されたことによる。前期までは資金を借り入れて回していたが、当期は返済に転じた。

その結果、現金及び現金同等物は98億円減って111億円となった。総資産989億円に対して現金111億円、有利子負債624億円。借入を返した分だけ手元も薄くなっている。

営業キャッシュ・フローの水準も気になるところだ。前期は19億円で、前々期の28億円から減った。会社は、利益による収入は計上されたものの、金属価格の上昇によって棚卸資産の増加による支出が増えたため前期比で収入減となったとしている。

利益が増えているのに営業キャッシュ・フローが減る。製錬という商売の性格がここに出ている。相場が上がれば在庫の金額も膨らみ、その分だけ資金が滞留する。相場の上昇は損益にはプラスに働くが、資金繰りには必ずプラスとは言えない。

投資を絞って借入を返すという流れは、財務の再建としては正攻法だ。ただし投資を絞り続ければ設備は古くなる。この局面がいつまで続くのかは、資本の積み上がりの速度が決めることになる。

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出所:東邦亜鉛株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:東邦亜鉛株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

7. 製錬1,039億円への一極化と、販売先2社で3割弱という集中

再編の結果、事業の形も変わった。前期のセグメント別の姿を見ておきたい。なお会社は前期から報告セグメントの区分を変更している。

製錬事業部門の売上高は1,039億円で前期比40%の増収、経常利益は37億円で同6%の増益。連結売上高1,255億円の大半をこの部門が占める形になった。会社によれば、鉛製品は上期の操業不調などから生産量が減少して9.3%の減収となったが、銀製品が銀相場の高騰による国内販売価格の上昇で78.9%の増収となり、金製品の販売数量の増加も加わった。

金属リサイクル事業部門は売上高92億円で同71%の減収、経常利益は14億円で前期の12億円の損失から黒字転換した。この部門は事業再生計画に基づき亜鉛製錬事業を再編して生まれたもので、亜鉛製錬の主要設備は2025年3月末に停止している。売上が消えて利益が出たのは、亜鉛製錬再編に伴う保有資産売却の施策効果が大きく貢献したためだ。

環境・リサイクル事業部門は売上高69億円で同9%の増収ながら、経常利益は9億円で同45%の減益。主力製品の酸化亜鉛は、タイヤメーカーの生産が回復したものの、2025年9月に発生した小名浜製錬所における火災事故の影響で減産減販となり、販売量はほぼ横ばいにとどまった。減益の主因もこの火災事故による製造コストの増加である。

電子部材・機能材料事業部門は売上高35億円で同24%の減収、経常利益4億円で同5%の減益。その他事業部門は売上高106億円で同4%の増収、経常利益3億円で同35%の減益となった。

並べてみると、稼ぎ頭は製錬に一極化している。そして製錬の利益は金属相場と買鉱条件で決まる。多角化していた頃に比べ、外部環境への感応度は上がったと考えられる。

販売先の集中も進んだ。前期の主な相手先別の販売実績は、阪和興業が179億円で総販売実績の14.34%、住商マテリアルが168億円で13.41%。この2社で3割弱を占める。前期以前は構成比10%以上の相手先がなく記載が省略されていたのだから、集中が表に出てきたのは前期からだ。

従業員数の推移も再編の規模を映している。5期で1,051人、1,057人、1,007人、785人、663人。2期で3分の1以上減った。事業の撤退が、人の側でも完遂されたということだろう。

8. 筆者コメント

資本の局面が変わろうとしているのが、この会社の直近の姿だ。純資産が27億円まで削られた期を底として、増資と利益で136億円まで戻した。ここから先は、削るフェーズではなく積むフェーズになる。

積むフェーズの企業は、指標の見え方が反転する。資本効率は下がる方向に動き、成長率は投資の絞り込みで抑えられる。表面の数字は、むしろ悪くなっていくように見えるかもしれない。

それでも財務の耐久力は上がっていく。この二つは同時に起きる。どちらを重く見るかで、同じ決算がまったく違って読める局面だ。

私が気にしているのは、投資を絞ったまま設備の老朽化とどう向き合うかである。製錬は設備産業だ。設備投資を年十数億円の水準に抑え続ければ、いずれ操業の安定性に跳ね返る。前期に起きた火災事故と操業不調が、無関係だと言い切れる根拠は手元にない。

資本を積むことと、設備を維持すること。相反する二つをどう配分するのか。決算を追うときは、利益の増減より設備投資額と営業キャッシュ・フローの関係に目を向けることをおすすめしたい。この会社の次の局面は、そこに先に現れる。

参考資料

9.1 免責事項

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石津 大希