60歳以降も働き続ける人が対象となる高年齢雇用継続給付は、2025年4月1日以降に支給要件を満たす人について、支給率が最高で賃金額の10%へと変更されています。秋にかけては、再雇用の条件や年度後半の働き方をあらためて確かめる機会が増える時期にあたります。

働き方や家族の状況が変われば、受け取れる公的なお金も、以前に契約したものが持つ意味合いも変わってきます。変わったときに確かめ直せるかどうかで、手元に残るものは違ってきます。この記事では、老齢年金に上乗せされる2つの給付、60歳以降に働く人が関わる雇用保険の3つの給付、医療・介護・生活の負担を抑える制度、2025年に成立した年金制度改正で見直された点を順に整理します。そのうえで、60歳以降も働き続ける場合に、賃金が下がったときと下がらなかったときとで雇用保険の給付が家計にどう効いてくるのかを、独自に試算します。

橋本 優理
相談の場では、「制度があるのは知っているが、自分が対象かどうかまでは分からない」というお話をよく伺います。公的な給付は要件の書きぶりが細かく、読んだ段階で判断がつきにくいものが多くあります。まずは仕組みの側から順に見ていきます。

なお、60歳・65歳以上の方が対象となる公的給付金に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説

1. 年金は請求書を出すところから|要件を満たしていても振り込みは自動では始まらない

60歳・65歳以上の方が対象となる公的な給付については、「【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説」でも幅広く整理されています。ここではまず、その入り口にあたる「手続きをしないと受け取りが始まらない」という組み立てから確かめていきます。

1.1 老齢・障害・遺族の年金にも、請求の手続きが要る

老齢・障害・遺族といった公的年金は、暮らしを支える土台になる制度です。ただし、受給資格ができた時点で自動的に振り込みが始まる仕組みにはなっていません。

実際に支払いが始まるのは、本人が「年金請求書」を出して請求の手続きを終えてからです。この一手間が残っている間は、要件のほうを満たしていても口座には何も入ってきません。

1.2 案内が届くものと、自分から動かないと始まらないものが混ざっている

国や自治体が用意する給付金・補助金についても、申請があってはじめて動くという組み立てが基本です。期限に間に合わなかったり書類が足りなかったりした場合には、受給額が減る、あるいは受け取れなくなるといった不利益が生じる可能性もあります。

ここで押さえておきたいのは、気づきにくさが本人の注意力の問題ではないという点です。年金は年金事務所、雇用保険はハローワーク、医療・介護や臨時の給付金は市区町村と、扱う窓口が制度ごとに分かれています。自分に関わるものが一覧で示される仕組みにはなっていないため、どの制度がどこの管轄なのかを知らないままだと、確かめる先にたどり着けません。

なお、制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容はハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認ください。

橋本 優理
ご相談では、「どこに聞けばよいのかが分からないまま時間が過ぎた」というお話を伺うことが少なくありません。制度を知らなかったというより、管轄が分かれていることが見えていなかった、という場面のほうが多い印象です。窓口の分かれ方だけ先に把握しておくと、確かめる順番を組み立てやすくなります。

2. 【老齢年金】本体に上乗せされる2つの制度|加給年金と老齢年金生活者支援給付金

老齢年金を受け取っている方が一定の要件に当てはまる場合、本体の年金に上乗せして受け取れる制度が2つあります。いずれも該当するかどうかは人によって変わりますので、ここでは仕組みと2026年度の金額を確かめておきます。

2.1 年下の配偶者や子どもがいる場合の「加給年金」

加給年金は、65歳を迎えた時点で厚生年金への加入期間が20年以上あり、かつ生計を維持している年下の配偶者や子どもがいる場合に、年金へ加算される制度です。年金版の家族手当にあたる位置づけ、と説明されることがあります。

加給年金の支給要件として示されているもの

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

こうしたタイミングを迎えた時点で、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいるかどうかを見て、当てはまる場合に年金へ上乗せされます。

一方、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っている場合、または障害厚生年金・障害基礎年金・障害共済年金などを受給している場合には、配偶者加給年金額が支給停止となる取り扱いになっています。

2026年度に示されている加給年金の額

加給年金の加給年金額2/8

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

加給年金の年金額(2026年度の年額)として示されているのは、次のとおりです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

これに加えて、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。同じ配偶者分でも、生年月日によって1年あたりの額に幅が出るということです。

配偶者側の年金へ引き継がれる「振替加算」

配偶者が65歳を迎えた時点で加給年金は打ち切られますが、一定の要件に当てはまるときは、配偶者自身の老齢基礎年金へ「振替加算」として一定額が引き継がれる扱いになります。本人に付いていた加算が、配偶者の側へ移っていくという流れです。

2.2 所得や世帯収入が基準を下回る場合の「老齢年金生活者支援給付金」

老齢年金生活者支援給付金は、老齢基礎年金を受け取っている方のうち、所得や世帯収入が一定の基準を下回る場合に、生活の底上げを目的として支給されるものです。年金本体とは別の法律にもとづいて支給される「給付金」という位置づけになります。

対象になる人として示されている条件

年金生活者支援給付金制度について3/8

年金生活者支援給付金制度について

出所:日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は82万6500円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は82万4100円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で82万6500円を超え92万6500円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で82万4100円を超え92万4100円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

給付基準額と、実際の金額の求め方

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/8

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。実際に支給される額は、この基準額をもとに、保険料の納付状況等に応じて算出される仕組みです(下記①と②の合計額)。

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

※②で保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。

基準額がそのまま全員に支払われるのではなく、納付済みの月数がどれだけあるかによって金額が動く組み立てになっています。自分の場合にいくらになるのかは、納付記録を確かめないと分かりません。

橋本 優理
上乗せの制度は要件の条文が細かいので、読んだところで「自分は違う」と結論を出してしまいやすいところです。ただ、加入期間や配偶者の年齢、前年の所得といった判定の材料は、記録を取り寄せれば確かめられるものが大半です。当てはまるかどうかを自分で決めきる前に、記録を見てから窓口で尋ねるという順序にしておくと、判断の材料がそろいます。

3. 【雇用保険】60歳以降の働き方と結びつく3つの給付|再就職手当・高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付金

就労に関連する給付金や手当についても見ていきます。シニアの就労を支える制度は広がってきていますが、収入のほうは60歳を境に下がっていくのが一般的な傾向です(※)。就職活動や就労の継続が若い頃と同じようには進まないこともあり、健康や家庭の事情から働き方を変える方も、働くこと自体を選ばない方もいます。ここで扱うのは、あくまで雇用保険に加入して働いた期間がある場合に関わってくる仕組みです。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 早期の再就職と結びつく「再就職手当」

再就職手当は、早期の再就職を促すための手当で、失業から再就職まで、あるいは失業から事業開始までの期間が短いほど支給額が多くなる組み立てになっています。

再就職手当の支給要件として示されているもの

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

支給残日数によって分かれる給付率

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/8

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受け取ったあとに再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前の水準を下回っているときは、「就業促進定着手当」の対象になるとされています。名称が変わるため、別の制度として整理しておくと確かめやすくなります。

3.2 賃金が下がった状態で働き続ける場合の「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が働き続けるにあたって、賃金が60歳到達時よりも減少した場合に支給されるとされている給付金です。この記事の試算で扱うのも、この給付にあたります。

高年齢雇用継続給付の支給要件として示されているもの

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

支給率は2025年4月1日以降に見直されている

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/8

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

ここで示されている10%は上限にあたる数字で、実際の支給率は賃金の低下の度合いに応じて決まる組み立てになっています。低下率がいくらのときに何%になるのかは早見表で確かめる形になりますので、自分の場合の率については窓口で確認するのが確実な進め方です。

3.3 離職の時点で65歳以上だった人に向けた「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上の方が失業した際に支給されるとされている給付金です。

高年齢求職者給付金の支給要件として示されているもの

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

被保険者であった期間で分かれる支給日数

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

65歳未満の人が受け取る失業手当は4週間に一度ずつ失業認定を受けてから給付されるのに対し、高年齢求職者給付金は一括で支給される点が異なります。

3.4 年金と雇用保険の給付のあいだには調整の仕組みがある

もうひとつ、金額を考える前に知っておきたい点があります。老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して高年齢雇用継続給付を受け取る場合には、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる取り扱いがあります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

また、雇用保険の基本手当(失業手当)をハローワークで手続きして受け取る場合、65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」は全額支給停止となります。停止が続くのは、求職の申込みを行った日の属する月の翌月から、失業給付の受給期間が経過する月、または所定給付日数を受け終わる月のいずれか早い月までの期間です。一方、65歳到達日以後に退職した場合の高年齢求職者給付金については、65歳以降の老齢年金が雇用保険の給付と調整されないため、同時に受け取ることができるとされています。

この記事では、こうした調整が入る場合の金額までは計算していません。調整の有無や程度は年金額や標準報酬月額によって変わりますので、実際の見込みについてはハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認ください。

橋本 優理
雇用保険の給付は、受け取れるかどうかだけでなく、いつ手続きをするかによっても結果が変わってきます。ご相談では、退職や再雇用の日取りが決まってから調べ始める形になりがちです。働き方が変わる時期を検討している段階で、年金の見込額と手当の日額を並べて確かめておくと、選べる幅が残ります。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容はハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認いただければと思います。

4. 【医療・介護・生活】払い戻しと上限額の制度|対象でも案内が届かない場面がある

医療費と介護費用は、年齢が上がるにつれて家計に占める比重が増していく支出です。公的医療保険や介護保険には、そうした負担に対して、自己負担に上限を置いたり、あとから払い戻したりする仕組みが組み込まれています。

4.1 ひと月の窓口負担が膨らんだときの「高額療養費制度」

ひと月(月の初日から末日まで)にかかった医療費の自己負担額を合計し、年齢や所得に応じて定められた「自己負担限度額」を上回った分が、あとから払い戻される制度です。

一般的な所得層(70歳未満・年収約370万〜約510万円)にあたる場合、ひと月の自己負担限度額は、基本の形として「約8万5800円+(医療費から28万6000円を引いた額)の1%」と示されています。

注意しておきたいのが、事前の手続きを済ませていない場合の流れです。退院の際に窓口で大きな金額をいったん立て替えることになり、払い戻しが手元に戻るのは3〜4ヶ月後になります。マイナ保険証を使うか、あらかじめ「限度額適用認定証」を申請しておけば、窓口での支払いを当初から上限額の範囲にとどめられるとされているのが2026年現在の取り扱いです。

4.2 介護の自己負担に上限を設ける「高額介護サービス費」

介護保険サービスの利用にあたって支払った自己負担額(1割〜3割)を1ヶ月ごとに合計し、所得に応じて決まる上限額を上回った部分が払い戻される制度です。

注意が要るのは、何が合計に入るのかという範囲のほうです。「介護施設での食費・居住費(部屋代)・日常生活費」や「特定福祉用具購入費・住宅改修費」は、この計算の対象からは完全に外れるとされており、実務のうえでも見落とされやすい部分です。

「高額介護サービス費があるから、特別養護老人ホームに入っても月額数万円で済む」と考えて資金計画を立てていると、計算の対象から外れる食費や居住費が毎月10万円以上上乗せされ、想定していた資金では足りなくなることがあります。上限があるのは介護サービスの自己負担分だという区別が要ります。

4.3 医療と介護を合算する「高額医療・高額介護合算療養費制度」

毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間にかかった医療費と介護費用の自己負担額を世帯で合算し、基準額を超えた場合に払い戻しを受けられる制度です。

計算が年単位で行われるぶん意識から遠ざかりやすいものの、支給の対象になる世帯には、原則として医療保険者から案内が送られます。ただし「75歳になり後期高齢者医療制度に移行した」「退職して会社の健康保険から国民健康保険に切り替わった」というように、計算期間の途中で保険の異動があると、データがつながらないために案内が届きません。その場合は過去の保険者へ自分で申請して合算の手続きを取らないかぎり、時効(2年)を迎えて権利が消えてしまうことがあると説明されています。案内が来ないこと自体は、対象外である証明にはなりません。

4.4 世帯の課税状況で対象が分かれる「臨時給付金・自治体の支援」

物価高騰への対策として、「住民税非課税世帯」を対象に7万円や10万円の臨時給付金が、政府や自治体から支給されることがあります。支給の財源はその時々の補正予算や地方交付金で、恒久的に続く制度ではなく一時的な給付という位置づけです。

対象になるかどうかの判定では、税法上の扶養がどうなっているかが効いてきます。「住民税が課税されている方(別居の家族などを含む)の税法上の扶養親族等のみで構成されている世帯」に当たる場合、世帯分離をして住民票上は非課税の単身世帯になっていても、給付の対象外(不該当)とされるためです。住民票の上でどういう世帯になっているかだけでは決まらない、ということです。

5. 2025年6月成立の年金制度改正|遺族の給付と、働きながら受け取る年金の扱い

働き方や家族構成が多様になったことに合わせて年金制度を整えることは、2025年6月に成立した「年金制度改正法」が掲げる大きな狙いのひとつにあたります。盛り込まれた内容には、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に関連する社会保険の加入要件の拡大のほか、遺族年金に関する見直しが含まれています。

5.1 遺族厚生年金の男女差をめぐる見直し

遺族厚生年金の見直し8/8

遺族厚生年金の見直し

出所:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

現在の遺族厚生年金のしくみでは、受給者の性別によって次のような男女差がありました。

現行の遺族厚生年金の組み立て

  • 女性
    • 30歳未満で死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳未満で死別:給付なし
    • 55歳以上で死別:60歳から無期給付

男女で扱いが分かれているこの部分については、2028年4月から見直しが施行される予定とされています。

2028年4月から施行が予定されている要件

男女それぞれについて、「原則5年間の有期給付」の対象になるかどうかを分ける要件が、細かく定められています。

  • 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません。)
  • 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
  • こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。

5.2 有期給付と継続給付として拡充される部分

支えを必要とする状況が続く方に向けた給付についても、金額の水準と、満たすべき要件の両方が具体的に示されています。

  • 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
  • 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20〜30万円を超えると全額支給停止となります。

今回の改正には、遺族基礎年金についての見直しも同時に盛り込まれています。同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかったケースであっても、2028年4月以降は、こどもが単独で遺族基礎年金を受け取れるようになるとされています。

5.3 在職老齢年金の基準額は65万円に

一方で、働きながら年金をもらうと年金が減額される「在職老齢年金」の仕組みについては、就労意欲を阻害しているとの指摘を受け、減額される基準額が65万円に引き上がりました。

これらは施行の時期が先の内容を含みます。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容はハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認ください。

年金として受け取る額と、そこから社会保険料や税金が引かれたあとの手取りの関係についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説

橋本 優理
改正の内容は、施行までに時間があるものほど、聞いた時点では自分から遠い話に感じられます。ただ、遺族の給付や働きながら受け取る年金の扱いは、家族の状況や働き方が変わったときにあらためて関わってくる部分です。今すぐ何かを決める必要はありませんが、どの年代のどういう状況が対象になるのかだけ押さえておくと、そのときに調べ直す手がかりになります。

6. 状況が変われば、受け取れるものも契約の意味合いも変わる|変わったときに確かめ直す

ここまで見てきた制度に共通しているのは、受け取れるかどうかが「そのときの状況」で決まるという点です。加給年金は配偶者の年齢で終わりが来ますし、高年齢雇用継続給付は賃金が下がったかどうかで扱いが分かれます。老齢年金生活者支援給付金は前年の所得と世帯の課税状況を見ますし、遺族の給付は家族の状況によって形が変わります。年齢が上がった、働き方が変わった、家族の構成が変わった。そのたびに、受け取れるものの中身は入れ替わっていきます。

そして、この見方は公的な制度だけのものではありません。以前に契約したままになっているものについても、契約した当時と今とでは、その契約が果たす役割は変わっているはずです。加入したころに想定していた状況と、いまの家族の状況や働き方が同じとは限りません。金額や期間が変わっていなくても、意味合いのほうは動いています。

なお、運用の要素を含む契約では価格変動リスクがあり、受け取る時点の値動きによって金額が変わって元本割れとなる場合もあります。額が決まっているのか、そのときの状況によって変わるのかという違いも、公的な給付と自分で契約したものを並べて見るときの区別のひとつになります。

確かめる先は分かれています。公的な制度についてはハローワーク・年金事務所・市区町村が窓口になり、自分で契約したものについては手元の証券や毎年届く通知書、契約先の窓口が確かめる先です。変わったときに確かめ直す、という点では同じ動き方になります。

橋本 優理
ご相談では、公的な制度のお話と、ご自身で契約されたもののお話が、別々の悩みとして持ち込まれることが多くあります。ただ、伺っていくと、どちらも「状況が変わったあとに確かめる機会がなかった」というところで重なります。節目が来たときにひととおり見直す、という決め方にしておくと、確かめる回数を増やさずに済みます。

7. 雇用保険の給付をめぐって寄せられやすい3つの質問

ここでは、雇用保険の給付と年金の関係について相談の場で挙がりやすい質問を3つに絞って整理します。どれも当てはまるかどうかは一人ひとり事情が異なりますので、最終的な判断は所管の窓口で確かめていただくものとしてお読みください。

7.1 失業手当を受け取っている間、配偶者の社会保険の扶養に入れるのか

失業手当(基本手当)の「日額」によって扱いが分かれます。失業手当は非課税で所得税の計算からは外れますが、健康保険の扶養審査になると「収入」として厳格に数えられます。60歳未満なら日額3612円(年収換算130万円未満)、60歳以上なら日額5000円(年収換算180万円未満)を超えている場合、手当を受給している期間中は配偶者の扶養に入れず、自分で国民健康保険に加入して保険料を支払う必要があります。

7.2 案内が届かない場合は、対象ではないということなのか

そうとは限りません。年金生活者支援給付金のようにハガキで案内されるものがある一方、加給年金、高年齢雇用継続給付、失業手当といったものは、いずれも「自己申告(申請主義)」の扱いです。条件を満たしていても役所から案内は来ません。年金事務所やハローワークへ自分で足を運び、対象に当たるかどうかを尋ねるところが手続きの入り口になります。

7.3 特別支給の老齢厚生年金と失業手当は、どちらを選ぶほうがよいのか

個別の「年金額」と「失業手当の日額・給付日数」を比較計算しないと答えは出ません。現役時代の給与が高く失業手当の日額が高い人はハローワークで手続きをしたほうが多くなり、逆に給与が低めで年金加入歴が長い人は、失業手当を受けずに年金をもらい続けたほうがトータルの受取額が多くなる場合もあります。退職前に最寄りの年金事務所で年金見込額を出し、ハローワークの失業手当計算ツール等で試算してみるという進め方があります。

8. 【独自試算】60歳以降も働き続けた場合、賃金が下がったときと下がらなかったときで雇用保険の給付は家計にどう効くか

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の人が働き続ける際に、賃金が60歳到達時の75%未満となった場合に支給されるとされています。では、賃金が下がらなかった場合と下がった場合とで、家計に入る金額はどう変わるのでしょうか。ここでは、この記事で扱った数字だけを使って並べてみます。

前提は次のとおりです。この給付に該当するかどうかは、雇用保険の被保険者期間・年齢・賃金の下がり方などによって人それぞれ変わります。この試算は「仮に該当した場合」と置いたうえでの計算にとどまります。働き方や職種を特定するものではなく、健康や事情によって働かないという選び方も同じように含めて考えるべき前提です。

  • 60歳到達時の賃金月額は、国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」の年齢階層別の平均給与のうち50歳代後半男性735万円を、単純に12で割った61万2500円に置く(賞与などの区分は分けない、あくまで置き方の一例)
  • 支給条件は「賃金が60歳到達時の75%未満」、支給額は「最高で賃金額の10%相当額」という記載にもとづく
  • 実際の支給率は賃金の低下の度合いに応じて決まるため、ここでは上限の10%が適用された場合という置き方で計算する。実際にこの率になるとは限らない
  • 在職による年金の支給停止や、標準報酬月額の4%に相当する額の支給停止といった年金との調整は計算に入れない
  • 税金・社会保険料は考えない。1年間(12カ月)分で見る

ケースA:60歳以降も賃金が下がらなかった場合(月61万2500円のまま)

  • 60歳到達時に対する割合は100%で、「75%未満」という支給条件に当てはまらない
  • 高年齢雇用継続給付:0円
  • 1年間の賃金:735万円

ケースB:賃金が60歳到達時の75%になった場合(月45万9375円)

  • 条件は「75%未満」とされているため、75%ちょうどでは当てはまらない
  • 高年齢雇用継続給付:0円
  • 1年間の賃金:551万2500円

ケースC:賃金が60歳到達時の70%になった場合(月42万8750円)

  • 「75%未満」に当たるため、仮に該当すれば給付の対象になり得る
  • 上限の10%で置いた給付:月4万2875円、1年間で51万4500円
  • 1年間の賃金:514万5000円。賃金の減少額は年220万5000円

ケースD:賃金が60歳到達時の60%になった場合(月36万7500円)

  • 上限の10%で置いた給付:月3万6750円、1年間で44万1000円
  • 1年間の賃金:441万円。賃金の減少額は年294万円

並べてみると、まず見えてくるのは、賃金が下がらなければこの給付は動かないという点です。ケースAとケースBはいずれも0円で、賃金が下がったこと自体が支給の前提になっています。しかもケースBのように75%ちょうどでは条件に当たらないため、「下がったかどうか」ではなく「どこまで下がったか」で扱いが分かれます。

もうひとつは、給付が減った分を埋めるものではないという点です。ケースCでは、賃金の減少額が年220万5000円であるのに対し、上限で置いた給付は年51万4500円で、減少額に対する割合は約23%にとどまります。ケースDでは減少額が年294万円まで広がる一方、給付は年44万1000円に下がり、割合は15%になります。支給率が「下がったあとの賃金」に対してかかる組み立てのため、賃金が下がるほど給付の額そのものは小さくなっていきます。

賃金と給付を足した1年分で見ると、ケースCは565万9500円、ケースDは485万1000円です。賃金が下がらなかったケースAの735万円とは、それぞれ169万500円、249万9000円の差があります。給付が入ったとしても、下がる前の水準には届かないという並びになります。

この試算で確かめられるのは、金額の大小そのものより、給付が「賃金が下がったときに、その一部を補う」位置づけで組み立てられているという構造のほうです。60歳以降の収入をどう見積もるかを考えるときには、給付をあてにして計算するのではなく、給付が入る場合と入らない場合の両方で見ておくという置き方ができます。

なお、この試算は一定の条件を置いた目安であり、実際の支給率・支給額や、そもそも対象になるかどうかは、被保険者期間や賃金の下がり方によって一人ひとり異なります。支給要件・賃金の低下率・支給率・年金との調整のいずれについても、この記事の内容だけで判断できるものではありません。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わるため、最新の内容はハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認ください。

和田 直子
この試算で並んでいるのは、賃金が下がった分に対して給付がどのくらいの割合を占めるのか、という構造です。上限の支給率で置いてもなお、ケースCで約23%、ケースDで15%という水準になっています。ここから読み取れることのひとつは、60歳以降の収入の見通しを立てるときに、給付を先に見込んでしまうと実際との差が出やすい、という点かと思います。確かめ方にはいくつかの入り口があります。雇用保険の被保険者期間や賃金の低下率について、ハローワークで自分の場合の支給率を尋ねてみる。年金との調整がどう関わるかを、年金事務所で見込額とあわせて確認しておく。働き方を変える時期が決まる前の段階で、この2つを並べておくという順序も選べます。そして、状況が変われば受け取れるものが変わるという点は、ご自身で契約されてきたものにも同じように当てはまり、そちらは手元の証券や通知書、契約先の窓口が確かめる先になります。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わりますので、最新の内容はハローワークや年金事務所など所管の窓口でご確認いただければと思います。