「国民年金」「厚生年金」とは、それぞれどんな制度なのか——検索すると、多くの解説記事が「2階建て構造」という説明にたどり着きます。国民年金が1階、厚生年金が2階という理解は、確かに制度の基本です。
ただ、「厚生年金保険」という一つの名前の内側に、実はもう一段階の区分が存在することは、あまり知られていません。この記事では、2階建て構造とは別の角度から、「厚生年金とは何か」を掘り下げます。
この区分を知っておくと、ねんきん定期便やねんきんネットの記録を見たときに、なぜ特定の期間だけ表記が違うのか、といった細かな疑問にも自分で答えられるようになります。
なお、国民年金・厚生年金の基本的な仕組みや保険料については、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「厚生年金」という一つの名前の中にある、4つの区分
まず、「厚生年金保険」という制度の内側にある区分を確認します。この区分を知っているかどうかで、自分の年金記録の見え方が変わってきます。
1.1 民間企業・国家公務員・地方公務員・私学教職員の4区分
厚生年金保険の被保険者には、第1号から第4号までの区分があります。企業年金連合会の用語集によると、第一号厚生年金被保険者は「厚生年金保険の被保険者のうち、民間の事業所に使用される者」とされています。第二号は国家公務員、第三号は地方公務員、第四号は私立学校の教職員が該当します。数字の並びに優劣の意味はなく、単純に区分を示す番号として使われています。
普段「厚生年金」とひとくくりに呼んでいるものの中に、実はこうした区分が存在しているという事実は、会社員として働いている人にとっては特に意識する機会が少ない情報です。自分が第1号厚生年金被保険者に当たると知らないまま、単に「厚生年金に入っている」とだけ理解している人がほとんどでしょう。
一方、公務員や私立学校の教職員として働いている人にとっては、この区分は身近な話です。給与明細や共済組合からの通知に「厚生年金」という言葉が出てくるようになったのも、この一元化がきっかけになっています。呼び方の変化に戸惑った経験がある人も少なくないはずです。
2. 編集部整理:なぜ4つの区分に分かれているのか
それでは、なぜこのような区分が存在するのか、その背景を確認します。制度の名前が一つになった経緯を知ることで、今の仕組みがより理解しやすくなります。
2.1 かつては「厚生年金」と「共済年金」という別々の制度だった
日本年金機構の説明によると、「平成27年10月1日に『被用者年金一元化法』が施行され、これまで厚生年金と共済年金に分かれていた被用者の年金制度が厚生年金に統一されました」とされています。第2号(国家公務員)・第3号(地方公務員)・第4号(私学教職員)は、この一元化以前は「共済年金」という、厚生年金とは別の制度に加入していました。
2.2 厚生年金保険の被保険者区分・一元化以前の制度
前提条件:日本年金機構・企業年金連合会の公表情報に基づき、厚生年金保険の被保険者区分と一元化前の制度を編集部で整理1/2
出所:日本年金機構「被用者年金制度の一元化」・企業年金連合会「第一号厚生年金被保険者」などを基にLIMO編集部作成
- 第1号厚生年金被保険者:民間企業の従業員、一元化以前から厚生年金保険
- 第2号厚生年金被保険者:国家公務員、一元化以前は国家公務員共済(共済年金)
- 第3号厚生年金被保険者:地方公務員、一元化以前は地方公務員共済(共済年金)
- 第4号厚生年金被保険者:私立学校の教職員、一元化以前は私学共済(共済年金)
つまり、「厚生年金とは何か」という問いに対する答えは、一元化前と一元化後で意味合いが変わっています。今の「厚生年金保険」は、かつての厚生年金と共済年金という複数の制度が一つに統合された結果としての名前です。
一元化の目的については、被用者であれば同じ制度に加入するという公平性の観点や、少子高齢化が進む中で年金財政の基盤を安定させる狙いがあったとされています。制度の名前が一つになった背景には、こうした制度設計上の考え方があります。数字や名称の変化だけを見ていると気づきにくい部分です。
3. 【編集者の視点】
実務上のポイントは、この区分の違いが「保険料や年金額の計算方法そのもの」に直接影響するわけではないという点です。一元化後は年金額の計算方法が共通化され、保険料率も統一が進められました(※私学共済のみ令和9年まで保険料率の段階的な引き上げが続いています)。区分は主に「どの制度出身か」「どこが決定・支払を担当するか」を示すものです。過度に不安がる必要はありません。
ただし、経過的な取り扱いや、一元化前の加入期間の扱いなど、細かな部分では区分によって異なるルールが残っている場合があります。自分の年金記録を確認する際は、この区分の存在を知っておくと、通知書や記録の見方への理解が深まります。
特に、一元化前から公務員として働いていた期間がある人は、その期間の記録が「共済組合」の名称で残っている場合があります。名称が違うからといって記録が失われているわけではなく、単に出身制度が異なるだけだと理解しておくと安心です。
4. 統一後も、窓口は元の制度ごとに分かれている
制度としては一つになった一方で、実際の手続き窓口には今も違いが残っています。この点を知らないまま窓口に行くと、想定と違う案内を受けて戸惑うこともあります。
4.1 決定・支払は、日本年金機構または各共済組合等がそれぞれ行う
日本年金機構は、一元化後の運用について「これまでどおり、日本年金機構または各共済組合等がそれぞれ行います」と説明しています。つまり、制度としては厚生年金に一本化されていても、実際の年金の決定・支払という実務は、元の共済組合等がそのまま担っている場合があります。
この仕組みは、制度の名前を統一する一方で、長年蓄積されてきた各共済組合の実務体制をいきなり作り変えるのではなく、段階的に運用を続けられるようにする配慮とも考えられます。
その一方で、届出等の手続きについては、日本年金機構(年金事務所)または各共済組合等のどの窓口でも受け付けるワンストップサービスが導入されています。手続きの入口は共通化されつつ、決定・支払の実務は出身制度ごとに分かれている、という二重構造になっています。
4.2 【一元化後・窓口と実務の分担】
- 届出等の手続き窓口:日本年金機構・各共済組合等のどこでも受け付けます(ワンストップ)
- 年金の決定・支払:日本年金機構または各共済組合等が出身制度ごとに担当します
- 制度としての位置づけ:厚生年金保険に統一されています
※本記事は、編集部が日本年金機構・企業年金連合会が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、「一元化された=すべての手続きが日本年金機構だけで完結する」と思い込まないことです。届出はどの窓口でも受け付けてもらえますが、実際の年金の決定や支払を担当するのは、自分がどの区分に該当するかによって変わります。
特に、国家公務員や地方公務員として働いた期間がある人は、退職後に年金の相談をする際、日本年金機構だけでなく、元の共済組合にも確認が必要になる場合があります。自分の職歴の中に公務員や私学教職員としての期間がないかを、あらかじめ振り返っておくとスムーズです。
複数の勤務先を経験している人ほど、相談先が一箇所では済まないことがあります。相談前に、自分の職歴を年代順に書き出しておくと、どの期間についてどこに確認すればよいかを整理しやすくなります。手間はかかりますが、後の確認がぐっと楽になります。
6. 自分がどの区分に当たるか確認する方法
最後に、自分がどの被保険者区分に該当するかを確認する方法を整理します。
6.1 ねんきん定期便・ねんきんネットで加入記録を確認する
自分のこれまでの職歴を振り返り、民間企業のみで働いてきた場合は第1号、国家公務員・地方公務員・私立学校の教職員としての期間がある場合は、その期間について該当する区分が記録されています。ねんきん定期便やねんきんネットで、加入していた制度の記録を確認できます。
記録を見て「共済組合」や「厚生年金」といった異なる表記が並んでいても、それぞれが別々に扱われて消えているわけではなく、通算した記録として管理されています。まずは表記の違いに驚かず、期間ごとの内容を落ち着いて確認することが大切です。分からない点は、遠慮せず窓口で質問してみましょう。
6.2 複数の区分にまたがる場合は、年金事務所や共済組合に相談する
転職などで民間企業と公務員の両方を経験している人は、複数の区分にまたがって加入期間が記録されている場合があります。将来の年金額や手続き先について不明な点があれば、年金事務所または該当する共済組合に相談することをおすすめします。
相談の際は、勤務先が変わった時期と、当時の雇用形態(民間企業・国家公務員・地方公務員・私学教職員のいずれか)をメモにまとめておくと、確認がスムーズに進みます。
なお、関連して国民年金と厚生年金の重複についても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
7. まとめ
- 厚生年金保険には、民間企業・国家公務員・地方公務員・私学教職員という4つの被保険者区分があります。
- かつて公務員等は「共済年金」という別の制度に加入していましたが、平成27年10月に厚生年金へ統一されました。
- 統一後も、実際の決定・支払は日本年金機構または各共済組合等がそれぞれ担っています。
- 届出等の手続きは、どの窓口でも受け付けるワンストップサービスが導入されています。
- 複数の区分にまたがる職歴がある場合は、年金事務所や共済組合への相談が確実です。
「国民年金・厚生年金とは何か」という問いには、「2階建て構造」という説明だけでは語りきれない部分があります。厚生年金保険という一つの名前の中に、かつて別々の制度だった経緯を反映した4つの区分が今も存在しており、この構造を知っておくと、自分の年金記録や手続き先への理解がより深まります。
制度の名前が一つになっても、成り立ちの違いまで消えたわけではありません。表面的な名称だけでなく、その背景にある区分まで理解しておくことが、正確な制度理解につながります。一つずつ確認していけば十分に把握できる内容です。
自分の加入記録や手続き先について不明な点がある場合は、ねんきんネットで確認するか、年金事務所や共済組合に相談することをおすすめします。制度の名前だけでなく、その成り立ちまで理解しておくと、今後の手続きにも役立つはずです。
あわせて、企業年金と厚生年金の違いも参考にしてみてください。
8. よくある質問
8.1 Q. 厚生年金保険の4つの区分は、保険料や年金額に違いがありますか。
A. 一元化後は年金額の計算方法が共通化され、保険料率も18.3%への統一が進められました。ただし、私学共済(第4号)のみ令和9年(2027年)まで保険料率の段階的な引き上げが続いており、現在もわずかに違いがあります。区分は主に、どの制度出身か、どこが決定・支払を担当するかを示すものです。
8.2 Q. 「共済年金」という制度は、今もありますか。
A. 平成27年10月の一元化により、共済年金は厚生年金保険に統一されました。現在は厚生年金保険の第2号〜第4号という区分として位置づけられています。
8.3 Q. 自分がどの区分に当たるか、どこで確認できますか。
A. ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入期間の記録を確認できます。民間企業・国家公務員・地方公務員・私学教職員のいずれの期間があるかによって、該当する区分が変わります。
8.4 Q. 手続きは、どの窓口に行けばよいですか。
A. 届出等は日本年金機構(年金事務所)または各共済組合等のどの窓口でも受け付けています。ただし実際の決定・支払は、出身制度ごとに日本年金機構または各共済組合等が担当します。
8.5 Q. なぜ被用者年金制度は一元化されたのですか。
A. 被用者であれば同じ制度に加入するという公平性の観点や、年金財政の基盤を安定させる狙いがあったとされています。平成27年10月の「被用者年金一元化法」の施行によって実現しました。
8.6 Q. 一元化前の共済組合での加入期間は、記録から消えてしまいますか。
A. 消えません。一元化前の期間も通算した記録として管理されており、ねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。表記が異なっていても、記録自体が失われているわけではありません。
8.7 Q. 転職して公務員から民間企業に移った場合、区分はどうなりますか。
A. 転職後の期間からは、新しい勤務先に応じた区分(民間企業なら第1号)に切り替わります。それぞれの期間ごとに、該当する区分が記録として残るため、過去の期間が失われる心配はありません。
8.8 Q. 私学教職員(第4号)は、他の区分と何が違いますか。
A. 一元化以前は私学共済という別の制度でしたが、現在は厚生年金保険の第4号として位置づけられています。年金額の計算方法は他の区分と共通ですが、保険料率のみ令和9年(2027年)まで段階的な引き上げの途中にあるという点が異なります。
8.9 Q. 自分がどの区分に当たるか、家族に説明するにはどうすればよいですか。
A. まずはねんきん定期便やねんきんネットの加入区分の記載を一緒に確認するのが確実です。「厚生年金」という同じ名前の中に、勤め先の種類に応じた区分があるという前提を共有しておくと、世代間で呼び方が違っていても話がかみ合いやすくなります。特に一元化前の記録がある家族の場合は、旧制度の名称と現在の区分の対応関係を確認しておくと安心です。
参考資料
齊藤 慧

