5. 減収でも営業利益が3割増えた仕組み

2026年3月期通期は、売上高2,976億円で前期比▲8.3%の減収だった。それでいて営業利益は547億円、前期比+34.9%の増益で着地している。

からくりは費用側にある。売上総利益は1,589億円で前期の1,626億円から小幅に減ったが、粗利率は50.1%から53.4%へ切り上がった。そのうえで販売費及び一般管理費が1,220億円から1,042億円へと大きく縮んでいる。

売上総利益の減少幅より販管費の減少幅が大きければ、営業利益は増える。減収増益はこの引き算の結果だ。

販管費の中身を見ると、最も重いのは支払手数料の325億円で、次いで給料及び手当の277億円、広告宣伝費の107億円という並びになる。研究開発費は25億円にとどまる。開発費の多くが原価側に載る業態であることを踏まえても、販管費の主役が手数料と人件費である点は覚えておきたい。

利益の伸び方は、営業利益より下でさらに大きくなる。経常利益は644億円で前期比+57.5%だ。会社の説明によると、為替相場が前期末と比べて円安に振れ、為替差益が72億円発生したことが効いている。

一方で、組織再編費用121億円を特別損失として計上したこともあり、当期純利益は296億円、前期比+21.3%にとどまった。営業段階から下へ降りるにつれて、為替と一時費用が交互に効いている形である。

この増益が本業の構造改善によるものなのか、費用の一時的な抑制なのかは、この先の四半期で分かれてくる。ただ、1Qの営業利益170億円という数字を見る限り、少なくとも失速はしていない。

6. 営業利益率18.4%とROE8.7%のあいだにあるもの

過去5期の営業利益率を並べてみる。2022年3月期16.2%、2023年3月期12.9%、2024年3月期9.1%、2025年3月期12.5%、そして2026年3月期は18.4%だ。いったん一桁まで落ちてから、5期で最も厚い水準まで戻した形になる。情報・通信業の営業利益率中央値8.5%と比べても、倍以上の水準である。

ところがROEは同じ動き方をしていない。19.4%、16.4%、4.7%、7.5%、8.7%。利益率が最高圏に戻っても、資本効率は5期前の半分以下にとどまったままだ。

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出所:株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 有価証券報告書をもとに筆者作成

差を生んでいるのは自己資本の積み上がりである。自己資本比率は5期を通じて7割台から8割台で推移し、直近は79.6%。手元の現金は2,757億円で、総資産4,380億円の6割を超える。

潤沢な現金は不作の年を耐える力になる。実際、営業利益が325億円まで落ちた2024年3月期でも財務は揺らがなかった。

もっとも、コーポレートファイナンスの観点では、使われないまま置かれた資本は資本コストだけを食う。デットキャパシティ(負債を負う余力)を丸ごと遊ばせている状態が最適かどうかは、別に考える必要がある。

資金の動きも合わせて見ておきたい。直近通期の営業キャッシュフローは515億円、投資キャッシュフローは▲62億円、財務キャッシュフローは▲184億円だった。設備投資は80億円にとどまる。稼いだ資金の使い道が、まだはっきりとは定まっていないようにも映る。

7. 筆者コメント

費用構造と資本構成を並べて見ると、この会社の論点は「稼ぐこと」ではなく「稼いだあと」にあるように思える。

粗利率を切り上げ、販管費を絞り、利益率を業種の倍以上まで持ち上げた。損益計算書の側は十分に強い。強くないのは貸借対照表の使い方のほうだ。

総資産の6割を超える現金は、次の一手が決まった瞬間に武器になる。逆に決まらなければ、資本効率を押し下げ続ける重りにもなる。同じ資産が、意思決定ひとつで武器にも重りにも変わる。

ゲーム会社は当たり外れが大きいから厚い手元資金が要る、という説明はよく分かる。ただ、その理屈は5期前の高いROEとも両立していた。厚い現金が資本効率を押し下げる構図は、ここ数年で強まったものだ。

決算短信の損益だけでなく、キャッシュフロー計算書と自己資本の増え方を並べて追う。この会社を見るなら、その手順をおすすめしたい。

参考資料

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石津 大希