決算の数字が良くても、株価がすぐには動かないことがある。逆に、しばらく間を置いてから急に動き出すこともある。スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)の9月1日の値動きは、後者に近かった。終値3,161円は直近1カ月で最も高い水準である。ただし、利益の伸びと資本効率の戻りは、同じ速さでは進んでいない。この時間差に、いまの同社の姿がよく表れている。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 9月1日の終値は3,161円。前営業日の2,955円から7%上昇し、直近1カ月で最も高い水準となった
  • 2027年3月期1Qは営業利益170億円。通期予想490億円に対する進捗は3割を超えている
  • 直近通期の営業利益率18.4%は業種中央値の倍以上だが、ROEは8.7%と業種中央値を下回る

1. 1カ月で16%高。9月1日に水準が切り替わった

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の終値をたどると、起点の8月3日は2,729円だった。そこから8月5日には2,665円まで下げており、この1カ月で最も低い水準はここにある。

流れが変わったのは8月中旬である。8月12日の終値は2,974円まで戻した。もっとも、そこから2週間ほどは2,900円前後での小動きが続き、8月31日の終値も2,955円だった。

そして9月1日の終値が3,161円である。前営業日から206円、率にして7%の上昇となった。8月3日の水準からは16%高く、直近1カ月では最も高い。

この日の買いを一つの材料に絞ることはできない。相場全体の地合いもあれば、需給の偏りもある。ただ、後述する1Qの利益の出方が改めて意識された可能性は高い。株価は材料が出たその日ではなく、材料の意味が咀嚼された頃に動くことがしばしばある。

2. PER36.8倍・PBR3.22倍が織り込んでいるもの

直近時点のPER(株価収益率)は36.8倍、PBR(株価純資産倍率)は3.22倍である。

情報・通信業と聞くと、重い資産を持たずに高い資本効率で稼ぐ業種、というイメージが先に立つ。ところが同社の直近通期のROE(自己資本利益率)は8.7%で、情報・通信業の中央値11.1%を下回っている。

一方で自己資本比率は79.6%と、業種中央値の66.9%を大きく上回る。総資産4,380億円に対して現金は2,757億円だ。分母がこれだけ厚ければ、ROEが伸びにくいのは道理である。

PBRは、ROEとPERの掛け算でおおむね説明がつく。ROEが業種中央値を下回るのにPBRが3倍台を保っているのは、市場が足元の利益水準そのものではなく、その先に出てくる利益を見ているからだろう。

もっとも、その「先に出てくる利益」は約束されたものではない。同社の収益は、デジタルエンタテインメント、アミューズメント、出版、ライツ・プロパティ等の各事業からなる。中核はゲームであり、大型タイトルの出来不出来が一期の損益をまるごと動かす。従業員数は4,290人と、売上規模の割に身軽な組織でもある。

身軽さは開発が当たったときの利益率を押し上げる一方、外したときの落ち込みも速い。PER36.8倍という水準は、その振れを引き受けたうえで、次のタイトル群に期待を置いた値付けだと読み取れる。

3. 2027年3月期1Qは営業利益170億円、通期予想への進捗は3割超

2027年3月期1Qは、売上高784億円、営業利益170億円、当期純利益132億円だった。

前年同期にあたる2026年3月期1Qは、売上高592億円、営業利益90億円、当期純利益48億円である。売上高は3割強伸び、営業利益は1.9倍、当期純利益は2.8倍になった計算だ。

会社の通期予想は、売上高2,980億円、営業利益490億円、当期純利益310億円である。営業利益は前期比▲10.5%の減益計画だ。

その計画に対し、1Q時点の進捗率は営業利益で34.7%、当期純利益では42.7%に達している。四半期を均せば25%が目安になるから、出足は計画を上回るペースだ。

ここで注意したいのは、ゲーム事業の四半期業績が発売タイトルの巡り合わせで大きく振れることである。1Qの進捗が良いからといって、そのまま通期へ外挿できるわけではない。会社が減益計画を置いたままにしているのも、そのボラティリティ(業績の振れ幅)を前提にした姿勢と読める。

株価が反応したのは、この減益計画と実績の差が埋まりつつあることに対してではないだろうか。減益計画を掲げたまま出足だけが強い局面は、投資家にとって最も見立てを変えやすいタイミングでもある。

4. 筆者コメント

なぜ利益がこれだけ伸びているのに、資本効率の数字は戻り切らないのか。

答えの半分は分母にある。自己資本比率79.6%という財務は、たしかに崩れにくい。ただ、負債をほとんど使わない資本構成が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。

もう半分は時間の問題だろう。ROEは1年分の利益で測る指標であり、四半期単位の急回復がすぐに反映されるわけではない。いまの1Qのペースが続けば、この数字の見え方は変わってくる。

株価が1カ月で16%上がったのは、その「変わってくる」部分を先に買ったからだと考えられる。PBR3.22倍という水準は、足元のROEではなく、資本効率が切り上がる姿を前提に置かないと説明しにくい。

だとすれば、これから確かめるべきは日々の株価の上下ではない。四半期ごとの利益が本当に積み上がるかどうかだ。決算をそういう目で追ってほしい。