2026年度の老齢年金生活者支援給付金は、給付基準額が月額5620円と、前年度より3.2%増額されました。10月は年金の定期支払いがある月にあたり、秋にかけては、公的なお金の受け取り方をあらためて確かめる機会が重なります。

公的な制度の要件には、「生計を維持している」「同一世帯」「扶養」といった言葉が並びます。同じ言葉でも、制度ごとに指しているものは違います。だからこそ、自分の場合に当てはまるかどうかは、確かめないと分かりません。この記事では、老齢年金に上乗せされる2つの給付、60歳以降の働き方に関わる雇用保険の3つの給付、医療・介護・生活の負担を抑える仕組み、2025年に成立した年金制度改正で示された見直しを、要件の文に出てくる言葉に目を向けながら順に整理します。そのうえで記事の後半では、この記事に出てくる5つの言葉について、指す範囲がどこまで読み取れるのかを独自に数えてみます。

中島 卓哉
相談の場では、「調べたときに書いてあった言葉を、自分の状況に当てはめてよいのか分からない」というお話をうかがうことがあります。制度の要件に出てくる言葉は、それぞれの制度の中で範囲が決められています。まずは、どういう言葉が出てくるのかから順に見ていきます。

なお、60歳・65歳以上の方が対象となる公的給付金に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説

1. 申請から始まる公的なお金|要件を読むときは、そこに出てくる言葉の指す範囲まで見ておく

60歳・65歳以上の方が対象となる公的な給付については、「【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説」で幅広く整理されています。ここでは、その入り口にあたる手続きの部分と、要件の文に出てくる言葉の読み方から確かめていきます。

1.1 公的年金は「年金請求書」の提出を経て受け取りが始まる

公的年金には老齢・障害・遺族の3つがあり、いずれも暮らしを支える土台になる仕組みです。ただし、受給資格ができたことと、振り込みが始まることとは、同じ時点では結びついていません。

受け取りを開始するには、自分自身で「年金請求書」を提出し、請求の手続きを済ませることになります。要件に当てはまっている状態と、実際に振り込みが始まっている状態は、この一手間をはさんで分かれています。

1.2 要件の文にある言葉は、制度ごとに指す範囲が定められている

給付金や補助金の側も、国のものか自治体のものかを問わず、申請を経て受け取る形が基本とされています。書類が揃わなかった場合や、期限を過ぎてしまった場合には、受け取れる額が減る、あるいは受け取れないまま終わるという結果になることもあります。

そこで、自分が対象になりそうかどうかを要件の文で確かめることになるのですが、ここで手が止まりやすい部分があります。要件の文には、「生計を維持している」「同一世帯」「扶養」「被保険者期間」「収入」といった言葉が出てきます。日常でも使う言葉なので、読んだ時点では分かった気になりますが、それぞれの制度の中で指している範囲は、その制度ごとに定められています。

たとえば「扶養」という言葉ひとつをとっても、税の扱いでの扶養と、健康保険での扶養は、判定の材料が同じではないと説明されています。「世帯」も、住民票の上での世帯と、給付の判定に使われる世帯が、そのまま重なるとは限らないとされています。つまり、要件の文が読めたことと、自分が当てはまるかどうかが分かったことは、別の話ということになります。言葉の指す範囲は制度ごとに定められており、改正されることもあるため、ご自身の場合にどう当てはまるかは所管の窓口でご確認ください。

中島 卓哉
要件の文を読み違えたというお話を伺うとき、原因は難しい専門用語のほうにはなく、むしろ見慣れた言葉のほうにあることが多いように感じます。見慣れているぶん、自分の思っている意味で読み進めてしまうためです。読むときに、その言葉が何の制度のものとして書かれているのかを一度確かめてみる。それだけでも、当てはめ方の迷いは減らせます。

2. 【老齢年金】上乗せされる2つの給付|「生計を維持している」「同一世帯」が判定に関わる

老齢年金を受け取っている方のうち、一定の要件に当てはまる方については、本体の年金に上乗せする形で受け取れるとされている制度が2つ設けられています。この2つは、判定に使われる言葉という点で見ると、「生計を維持している」と「同一世帯」という、それぞれ別の言葉が置かれています。まずは仕組みと2026年度の金額を確かめておきます。

2.1 「生計を維持している」配偶者や子どもが対象になる「加給年金」

厚生年金に20年以上加入していた方が65歳を迎えたとき、生計を維持している年下の配偶者や子どもがいる場合に加算されるとされているのが加給年金です。位置づけとしては、年金版の家族手当にあたるものと説明されています。

ここで判定に関わってくるのが「生計を維持している」という言葉です。何をもって生計を維持しているとするのか、その具体的な範囲までは、この記事の範囲では読み取れません。同居しているかどうかで決まるのか、収入の多寡で決まるのかといった点は、要件の文だけでは判断がつかない部分にあたります。この点は所管の窓口で確かめる項目として残しておくのが確実です。

加給年金の支給要件として示されている内容

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

上記のタイミングで「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいるとき、年金への上乗せが生じる形になります。ここでの「子」は、年齢と障害の状態で範囲が示されており、言葉の指すところが要件の中で読み取れる形になっています。

一方で、配偶者加給年金額が支給停止となる場合も定められています。配偶者の側が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っているとき、あるいは障害厚生年金・障害基礎年金・障害共済年金などを受給しているときが、これにあたるとされています。

2026年度の加給年金額として示されている金額

加給年金の加給年金額2/8

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

2026年度の年額として示されている加給年金の金額は、次のとおりです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

あわせて、配偶者の加給年金額には特別加算額が支払われ、その額は3万6000円から17万9900円と幅があります。どの額になるかは、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日によって決まるとされています。同じ配偶者分という言い方をしていても、1年あたりの額は一律ではないということです。

配偶者側の老齢基礎年金へ引き継がれる「振替加算」

配偶者が65歳を迎えると、加給年金はそこで終わります。ただし一定の要件を満たしていれば、以後は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれるとされています。上乗せを受ける相手が、本人から配偶者へと移る組み立てです。

2.2 「同一世帯の全員が非課税」が条件に入る「老齢年金生活者支援給付金」

所得や世帯収入が一定の基準を下回る方に対して、生活の底上げを目的として支給されるとされているのが老齢年金生活者支援給付金です。対象になるのは老齢基礎年金を受け取っている方で、根拠となる法律は年金本体とは別に置かれており、位置づけとしては「給付金」にあたります。

この給付金の条件には「同一世帯」という言葉が入ります。ここでいう世帯が、住民票の上での世帯とどう対応するのかまでは、この記事の範囲では読み取れません。あわせて「収入」という言葉も出てきますが、こちらについては何を含み、何を含まないのかが要件の中で示されています。同じ条件の並びの中でも、範囲が示されている言葉と、示されていない言葉が混ざっているということです。

対象となる方の条件として示されている項目

年金生活者支援給付金制度について3/8

年金生活者支援給付金制度について

出所:日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」

老齢年金生活者支援給付金の対象になるのは、次の3つをすべて満たす方とされています。

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が、昭和31年4月2日以後生まれの方は82万6500円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は82万4100円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 いずれも令和8年10月分からの金額。この額を超える場合でも、昭和31年4月2日以後に生まれた方で92万6500円以下、昭和31年4月1日以前に生まれた方で92万4100円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

※1に置かれている一文が、まさに「収入」という言葉の範囲を示している部分です。障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれないと書かれているため、受け取っている年金のすべてを足して考える必要はない、という読み方ができます。

2026年度の給付基準額と、支給額の計算方法

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/8

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額として2026年度に示されているのは月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。実際に支給される額のほうは、この基準額を出発とし、保険料の納付状況等に応じて算出される形です(下記①と②の合計額)。

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

※②で保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。

この計算式にも「被保険者月数480月」という言葉が置かれています。ここでの被保険者は国民年金のもので、あとで出てくる雇用保険の被保険者期間とは別のものを指します。同じ「被保険者」でも、どの保険の話なのかによって数える中身が変わる、という一例です。

中島 卓哉
この2つは、上乗せという点では並びますが、判定に使われている言葉が異なります。加給年金では「生計を維持している」、老齢年金生活者支援給付金では「同一世帯」という言葉が置かれています。どちらも日常で使う言葉なので読み飛ばしやすいところですが、自分の場合にどう当てはまるかを尋ねるときは、この言葉を挙げて聞いてみると話が早く進みます。

要件に書かれた言葉を読み解いていくと、そこに出てくる金額が自分の受給額とどう並ぶのかも気になってきます。2026年度に示されている年金額の水準についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
来月、6月15日支給分から年金が増える!厚生年金+基礎年金「月15万円(年180万円)」を超える人はどれくらい?2026年度最新金額と106万円の壁見直しを解説

3. 【雇用保険】働き方が変わるときの3つの給付|「被保険者期間」はどの保険のものかで中身が変わる

続いて、就労に関連する給付金や手当を見ていきます。シニアの就労を支える制度は整いつつありますが、収入のほうは一般的に60歳を境として下がる傾向があります(※)。仕事探しや就労の継続が若い頃と同じ調子では進まない場面もあり、健康や家庭の事情から働き方を変える方もいれば、働くこと自体を選ばない方もいます。この章で扱うのは、雇用保険に加入して働いた期間がある方に関わってくる仕組みです。要件の文に出てくる「被保険者期間」は、いずれも雇用保険のものを指しています。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 支給残日数の割合で給付率が決まる「再就職手当」

再就職手当は、早期の再就職を促すために設けられている手当です。失業から再就職まで、あるいは失業から事業開始までの期間が短いほど、支給額が多くなる組み立てになっています。

再就職手当の対象と支給要件

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

支給残日数で分かれる給付率

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/8

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

「支給残日数」という言葉は、要件の文の中でかっこ書きの説明が添えられており、就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数を指すと示されています。読んだだけで範囲が分かる言葉と、そうでない言葉が混ざっている、というのはこういう部分です。

なお、「就業促進定着手当」という別の名前がつく場面もあります。再就職手当を受け取ったうえで再就職先に6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合が、その対象です。呼び名が変わるので、別の仕組みとして分けて覚えておくと確かめやすくなります。

3.2 雇用保険の被保険者期間が5年以上の人が関わる「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満という年齢のあいだに、60歳到達時と比べて賃金が減った状態で働き続ける場合に支給されるとされている給付です。

高年齢雇用継続給付の対象と支給条件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

ここでの「被保険者期間」には、雇用保険のという言葉が前に付いています。年金の加入期間とは別に数えるものだと、要件の文の側から読み取れる形です。

2025年4月1日以降に見直された支給率

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/8

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

10%という数字は上限として置かれているもので、実際の支給率は賃金がどの程度下がったかに応じて決まるとされています。自分の場合にどの率が当てはまるのかは、早見表とあわせて窓口で確かめておくのが確実です。

3.3 離職前1年間の被保険者期間が判定に入る「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上になってから失業した場合に支給されるとされている給付です。

高年齢求職者給付金の対象と支給要件

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

この要件では、「失業の状態」という言葉に説明が添えられています。仕事を離れていれば当てはまるという意味ではなく、就職したいという意思と、いつでも就職できる能力があり、実際に求職活動を行っていることまでを含むと示されています。言葉の範囲が書かれている例として、分かりやすい部分です。

被保険者だった期間で分かれる支給日数

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

受け取り方の面でも違いがあります。65歳未満の人が受け取る失業手当は4週間に一度ずつ失業認定を経て給付される形ですが、高年齢求職者給付金のほうは一括で支給されるとされています。

3.4 「特別支給の老齢厚生年金」と失業手当の調整で止まるのはどの年金か

高年齢雇用継続給付には、金額を見る前に押さえておきたい取り扱いがあります。厚生年金に加入したまま老齢年金を受け取り、あわせてこの給付を受ける場合、在職による年金の支給停止とは別に、標準報酬月額の4%(※)を上限とする額が年金から支給停止となる仕組みです。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

もうひとつ、ハローワークで手続きをして雇用保険の基本手当(失業手当)を受給した場合の扱いがあります。ここで支給停止の対象になるとされているのは、65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」です。求職の申込みを行った日の属する月の翌月から、失業給付の受給期間が経過する月、または所定給付日数を受け終わる月のいずれか早い月までの期間、全額支給停止となります。

止まるのは老齢年金のすべてではなく、この名前が付いた年金だという点が、ここでの読み分けにあたります。65歳到達日以後に退職した場合の高年齢求職者給付金については、65歳以降の老齢年金が雇用保険の給付と調整されないため、同時に受け取ることができるとされています。取り扱いは制度によって異なり、改正されることもあるため、ご自身の場合にどう当てはまるかは所管の窓口でご確認ください。

中島 卓哉
雇用保険の給付についてご相談を受けるとき、「加入期間は足りていますか」という話になることがよくあります。このとき、年金の加入期間を思い浮かべたまま話が進んでしまう場面があります。同じ「被保険者期間」でも、どの保険のものを数えるのかで結果は変わります。年金のことは年金事務所、雇用保険のことはハローワークというように、尋ねる先を言葉ごとに分けておくと、確かめやすくなります。

4. 【医療・介護・生活】4つの負担軽減の仕組み|「世帯」が判定の単位になる場面が重なる

医療費と介護費用は、年齢を重ねるほど家計への負担が増していく支出です。この負担に対しては、公的医療保険や介護保険の側に、自己負担へ上限を設ける形や、あとから払い戻す形の仕組みが置かれています。ここで取り上げる4つのうち、複数の制度で「世帯」という言葉が判定の単位として出てきます。ただし、その世帯が何を指すのかは、制度によって説明のされ方が違います。

4.1 年齢と所得で決まる「高額療養費制度」の自己負担限度額

「自己負担限度額」が年齢や所得に応じて定められており、月の初めから末日までの医療費の自己負担額がその額を上回った場合に、上回った分があとから払い戻される仕組みです。

一般的な所得層とされる70歳未満・年収約370万〜約510万円の区分では、ひと月の自己負担限度額の基本が「約8万5800円+(医療費から28万6000円を引いた額)の1%」と示されています。

知っておきたいのは、事前の手続きをしていない場合の流れです。退院時に窓口でいったん大きな金額を立て替えることになり、払い戻しを受けられるのは3〜4ヶ月後になります。マイナ保険証の利用、あるいは「限度額適用認定証」を事前に申請しておくという方法をとれば、2026年現在では、窓口での支払いを最初から上限額までにとどめることが可能とされています。

4.2 介護サービスの自己負担分だけを数える「高額介護サービス費」

介護保険サービスを利用して支払った1ヶ月分の自己負担額(1割〜3割)を合計し、所得に応じて定められた上限額を上回っていた場合に、その上回った分が払い戻される仕組みです。

ここで見落とされやすいのが、何を数えるのかという範囲です。この計算の対象からは、「介護施設での食費・居住費(部屋代)・日常生活費」や「特定福祉用具購入費・住宅改修費」が完全に除外されるという扱いが置かれています。

制度の名前だけを見ると介護にかかる費用の全体が対象のように読めますが、上限が設けられているのは介護サービスの自己負担分に限られます。この区別をせずに「高額介護サービス費があるから、特別養護老人ホームに入っても月額数万円で済む」という前提で見積もっていると、対象外の食費や居住費が毎月10万円以上加算され、資金が足りなくなる原因になりえます。制度の名前と、実際に数える範囲が同じとは限らない例にあたります。

4.3 「高額医療・高額介護合算療養費制度」が世帯で合算する範囲と期間

対象になるのは、毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間にかかった医療費と介護費用です。その自己負担額を世帯単位で合算し、基準額を上回った場合に払い戻しを受けられる仕組みになっています。

ここでも「世帯」という言葉が単位として置かれていますが、その範囲がどこまでを指すのかは、この記事の範囲では読み取れません。同じ住まいで暮らしていれば足せるのか、加入している医療保険が同じであることが前提なのかといった点は、要件の文だけでは判断がつきません。

年間を単位として計算する仕組みのため日ごろの意識からは離れやすいところですが、支給の対象となる世帯には、原則として医療保険者のほうから案内が送られます。ただし、計算期間の途中に「75歳になり後期高齢者医療制度に移行した」「退職して会社の健康保険から国民健康保険に切り替わった」といった保険の異動をはさんだ場合は、事情が変わります。データが分断されるために案内が届かず、過去の保険者へ自ら申請して合算の手続きを行わないまま時効(2年)を迎え、消滅してしまうことがあると説明されています。こうした期限があるかどうか、あるとしてどのくらいの長さかは制度ごとに違い、改正されることもありますので、最新の内容は所管の窓口でご確認ください。

4.4 住民票上の世帯と判定が一致しない「臨時給付金・自治体の支援」

物価高騰への対策として、政府や自治体が「住民税非課税世帯」を対象に7万円や10万円の臨時給付金を支給することがあります。財源にあたるのはその時々の補正予算や地方交付金で、恒久的に置かれた制度ではなく一時的なものという位置づけです。

この制度は、「世帯」という言葉について、この記事の中でもっとも踏み込んだ説明が置かれている部分にあたります。「住民税が課税されている方(別居の家族などを含む)の税法上の扶養親族等のみで構成されている世帯」は、世帯分離をして住民票上は非課税の単身世帯になっていても、給付の対象外(不該当)とされる、という説明です。判定に影響するのは、住民票上の世帯がどうなっているかではなく、税法上の扶養がどうなっているかのほうだということになります。

つまり、住民票の上で世帯を分けたことと、給付の判定で非課税世帯として扱われることは、別の話ということになります。ここには「扶養」という言葉も出てきますが、税法上のものだと明記されており、後で触れる健康保険の扶養とは別に読む必要があります。あわせて、世帯を分けるという選択には、会社の健康保険の扶養から外れて国民健康保険料と介護保険料が単独で請求されるといった、負担が増える側の変化が伴う場合もあると説明されています。実施の時期も内容も自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の案内を確かめるのが確実です。

中島 卓哉
「世帯」という言葉は、この4つの中で何度も出てきますが、指しているものが同じとは限らないとされています。住民票を動かせば判定も動くと受け取られやすい部分ですが、臨時給付金の説明を読むと、税法上の扶養の状況も見られると書かれています。世帯の形を変えることを考えるときは、変わる側と変わらない側の両方を、市区町村の窓口で並べて確かめておくと迷いにくくなります。

5. 2025年6月成立の年金制度改正|「こどもがいる場合」「同一生計」という言葉が要件に並ぶ

「年金制度改正法」が成立したのは2025年6月です。狙いとして大きいのは、働き方や家族構成の多様化に合わせて年金制度を整えることでした。具体的な中身としては、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に関連する社会保険の加入要件の拡大や、遺族年金に関する見直しが盛り込まれています。ここでも、要件を分ける言葉として「こどもがいる場合」「同一生計」といった表現が使われています。

5.1 年齢と「こども」の有無で分かれる遺族厚生年金の見直し

遺族厚生年金の見直し8/8

遺族厚生年金の見直し

出所:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

遺族厚生年金の現在のしくみでは、受給者が男性か女性かによって、次のような扱いの差が置かれていました。

現行の遺族厚生年金で分かれている扱い

  • 女性
    • 30歳未満で死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳未満で死別:給付なし
    • 55歳以上で死別:60歳から無期給付

2028年4月からは、この差を解消する方向での見直しが施行される予定とされています。

2028年4月からの施行が予定されている要件

「原則5年間の有期給付」の対象になる要件は、男女それぞれについて細かく定められています。

  • 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません。)
  • 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
  • こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。

ここでの「こども」は、18歳年度末までという線が引かれています。加給年金で出てきた「子」の範囲とは書き方が異なるため、同じ人が両方の制度に関わる場面では、それぞれの要件の文にあたって確かめることになります。

5.2 「有期給付」と「継続給付」は、それぞれ何を指す言葉か

支えが要る状況にある方への給付についても、どのくらいの水準で、どういう要件のもとに支給されるのかが具体的に示されています。この2つは似た言葉ですが、指している場面が違います。

  • 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
  • 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20〜30万円を超えると全額支給停止となります。

継続給付の要件に出てくるのは「就労収入」という言葉で、働いて得た収入を指すものとして範囲が絞られています。年金として受け取っている額も足すのかどうかで迷いやすいところですが、この文の書き方からは働いて得た分が判定の材料になると読み取れます。

遺族基礎年金についても、今回の改正で見直しが盛り込まれています。2028年4月からは、同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかったケースについても、こども自身が単独で遺族基礎年金を受け取れるようになるとされています。なお、ここでの「同一生計」が何を指すのかについては、この記事の範囲では読み取れません。

5.3 働きながら受け取るときの「在職老齢年金」と、65万円という基準額

働きながら年金をもらうと年金が減額される仕組みが「在職老齢年金」です。就労意欲を阻害しているとの指摘を受けて、減額される基準額が65万円へ引き上がりました。

ここで挙げた内容には、施行の時期がこれから先のものも含まれています。取り扱いは制度や自治体によって異なり、改正されることもあるため、最新の内容は所管の窓口でご確認ください。

中島 卓哉
改正の内容は、施行までに時間があるものほど、聞いた時点では自分から遠い話に感じられます。ただ、ここで並んでいる「こどもがいる場合」「同一生計」「就労収入」といった言葉は、家族の状況が変わったときにあらためて関わってきます。いま結論を出す必要はありませんが、どの言葉が要件を分けているのかだけ見ておくと、そのときに調べ直す手がかりになります。

6. 同じ言葉でも、制度ごとに指しているものが違う|自分の場合に当てはまるかは確かめないと分からない

ここまで見てきた制度を並べると、要件の文に同じ言葉が何度も出てくることが分かります。「世帯」「生計を維持している」「扶養」「収入」「被保険者期間」。どれも日常でも使う言葉です。ただ、それぞれの制度の中で指している範囲は同じではなく、また、その範囲が要件の文に書かれている場合と、書かれていない場合とがあります。

ここから言えるのは、要件の文が読めたことと、自分が当てはまるかどうかが分かったことは別だ、ということです。読んで意味が通ったのであれば、それは読み方が正しかったからで、そのうえでもう一段、「この制度でいう世帯は、自分の場合どこまでを指すのか」という確かめが残ります。この一段を窓口で埋めれば、当てはまるかどうかの見当がつきます。

そして、この読み方は公的な制度に限った話ではありません。自分で契約したものについても、同じ言葉が別の意味で使われる場面があります。たとえば「利回り」という言葉は、どの期間の、何に対する割合なのかによって示す中身が変わります。数字が並んでいても、前提の置き方が違えば結果も違ってきます。書かれていることを読むだけでなく、その言葉が何を指しているのかまで確かめる。手順としては同じ形になります。

なお、運用の要素を含む契約には価格変動リスクがあり、受け取る時点の値動きしだいで金額が変わって、元本割れとなる場合もあります。金額があらかじめ決まっているのか、そのときの状況によって変わるのか。この違いも、公的な給付と自分で契約したものを並べるときの見分け方のひとつになります。

中島 卓哉
ご自身で調べてこられた方ほど、「書いてあることは分かったのに、自分に当てはまるのかが分からない」というところで止まっていらっしゃいます。これは調べ方の問題ではなく、言葉の指す範囲が制度ごとに決まっていて、そこまでは記事や案内に書かれていないことがあるためです。分からないまま抱えるより、「この制度でいう世帯は、自分の場合どこまでですか」と言葉を挙げて尋ねてしまうほうが、話が早く進みます。

7. 言葉の意味の取り違えが起きやすい3つの場面

ここでは、公的な給付の要件に出てくる言葉をめぐって、相談の場で挙がりやすい質問を3つに絞って整理します。どれも、該当するかどうかはその方の状況によって変わってきます。実際の判断については所管の窓口で確かめていただく前提で、お読みいただければと思います。

7.1 失業手当は非課税だが、健康保険の扶養では「収入」として見られるのか

判断の分かれ目になるのは、失業手当(基本手当)の「日額」です。所得税の計算という面では、失業手当は非課税のため対象に入りません。ところが健康保険の扶養審査のほうでは、これが「収入」として厳格にカウントされます。同じ「収入」という言葉でも、税の計算と健康保険の審査で扱いが分かれるところです。基準となるのは、60歳未満なら日額3612円(年収換算130万円未満)、60歳以上なら日額5000円(年収換算180万円未満)です。この基準を上回っていると、手当を受給している期間中は配偶者の扶養に入ることができず、国民健康保険に自分で加入して保険料を負担する形になります。

7.2 案内が届かないことは、要件に当てはまらないことを意味するのか

案内が届かないことと、要件に当てはまらないこととは、別のものとして説明されています。年金生活者支援給付金のようにハガキが届くものもある一方で、加給年金、高年齢雇用継続給付、失業手当などは、すべて「自己申告(申請主義)」だとされています。条件に当てはまっていても案内が送られない制度がある、ということです。年金事務所やハローワークに出向いて、対象になるかどうかを尋ねるところが、手続きの入り口になります。

7.3 特別支給の老齢厚生年金と失業手当は、何を比べて判断するのか

比べる材料になるのは、その方の「年金額」と「失業手当の日額・給付日数」です。この2つを並べて計算してみないと答えは出ません。現役時代の給与が高く、失業手当の日額も高い人であれば、ハローワークで手続きをしたほうが多くなるとされています。反対に、給与が低めで年金加入歴が長い人であれば、失業手当を受けずに年金を受け取り続けたほうが、合計では多くなることもあります。進め方としては、退職前に最寄りの年金事務所で年金見込額を出し、ハローワークの失業手当計算ツール等で試算してみるという順序があります。