10. 60歳代に多い「積み立ててきたお金を、いつから受け取り始めればよいのか決めかねている」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・鶴田 綾が伝えたいこと

積み立てを続ける期間をどこまでにするかは決めていても、そこから受け取りに切り替える時期までは決まっていない、という状態はよくあります。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

10.1 60歳代に多いお悩み相談は「積み立ててきたお金を、いつから受け取り始めればよいのか決めかねている」

60歳代(ご相談者)
勤めを終えて、まとまったお金を受け取ったところです。老後まで引き出せない制度で積み立ててきた分は、70歳まで続けるつもりでいます。妻の分の非課税制度の口座も、これから開きたいと考えています。ただ、積み立ててきたお金を、いつから受け取り始めればよいのかが決めきれていません。

勤めの区切りを迎えた前後は、積み立てを続ける期間と、受け取りを始める時期という2つの決めごとが同時に出てきます。前者は制度の上限まで、と決めやすい一方で、後者は自分で決める余地が広く、そのぶん決めかねやすいところです。まだ働けるうちは手をつけないほうがよいのだろうか、というお声も少なくありません。

10.2 【ファイナンシャルアドバイザー・鶴田 綾が回答】受け取り始める時期で税の扱いが変わる場合があることを先に確かめ、公的年金を受け取り始める時期との重なりを見て、生活費が足りるかどうかから逆算する

鶴田 綾
積立てたお金の受け取り時期については、受け取り始める時期によっての税金の扱い方などを確認した上で決めた方が良いでしょう。
例えば、積み立てたお金を受け取った時期と同じタイミングで退職金などまとまったお金も受け取った場合、所得税で税金が多くとられる可能性があります。
また、公的年金を受け取り始めてから、積み立てたお金も年金形式で受け取り始めた場合、収入が多いと見なされ、かえって税金が高くなったり、健康保険などの負担が増えることもあります。
そのため、積み立てたお金の受け取り方や受取時期によって、税金がどのようにかかってくるのか、また、受け取ることで社会保険料などの負担が増えたりしないか?をきちんと把握して、なるべく税負担等を抑えられる方を選ぶと良いでしょう。
難しい場合は、IFAや税の専門の相談窓口などに相談してみるのも一案です。

10.3 ポイント1:受け取り始める時期によって、税の扱いが変わる場合がある

老後まで引き出せない制度で積み立ててきたお金は、受け取るときに税の対象として扱われます。このとき、勤めを終えたときに使える控除との関係で、受け取り始める時期によっては、その控除を使えないまま課税されるという場合があります。相談の場では、この点をご存じないまま「上限まで続けてから、あとで考える」と決めておられる方にお会いすることが少なくありません。どの受け取り方を選ぶか、勤めを終えた時期から何年たっているか、ほかにどんな受け取りがあるかによって扱いは変わりますので、有利か不利かをこの場で言い切ることはできません。ここは思い込みで進めずに、受け取り方や時期によって税の扱いが変わる場合があるため、税務の窓口や公的機関の情報でご確認をお願いしています。順序としては、取り崩しの時期を決める前に確かめておく、という位置づけになります。

10.4 ポイント2:公的年金を受け取り始める時期との重なりも見ておく

もうひとつ見ておきたいのが、公的年金を受け取り始める時期との重なりです。積み立ててきたお金を受け取る時期と、公的年金が入り始める時期が同じ年に集まると、その年に入ってくるお金の全体像が変わります。逆に、時期をずらせば、年ごとの入り方も変わります。どちらがよいという一般解があるわけではなく、勤めを続けるかどうか、配偶者の受け取りがいつ始まるか、といった事情によって重なり方は一人ひとり違います。相談の場でも、まずはご夫婦それぞれについて、どの収入がいつから入り始めるのかを時間の並びで書き出すところから始めています。並べてみると、取り崩しに頼る必要がある時期と、そうでない時期が見えてきます。なお、公的年金を受け取り始める時期の選び方や、受け取ったお金の税の扱いは制度にかかわる部分です。ご自身の場合にどうなるかは、年金の窓口や税務の窓口、公的機関の情報でお確かめください。

10.5 ポイント3:始める時期は、生活費が足りるかどうかから逆算する

制度や税の確認を終えたあとに残るのが、では実際にいつから始めるか、という問いです。ここは、毎月の暮らしにかかるお金と、入ってくるお金との差から逆算していく考え方があります。入ってくるお金だけで暮らしがまかなえている間は、急いで取り崩しを始めなくてもかまいません。差が出るようになった時点が、取り崩しを始める時期のひとつの目安になります。相談の場では、家計の月ごとの収支を1年分ならして眺めていただき、差が出始めるのはいつごろかを見ていく、という整理に行き着くことが少なくありません。ここで気をつけたいのは、運用しているお金には価格の変動があり、受け取る時点の値動きによっては元本割れとなる可能性もあるという点です。ですから、始める時期の目安を立てておくと同時に、当面の暮らしに使う分は元本の安定を優先した置き方にしておく、という組み合わせで考えていきます。時期を1つに決め切らず、幅を持たせておくという進め方もあります。

取り崩しを始める時期は、年齢で一律に決まるものではなく、税の扱い、公的年金の入り方、家計の収支という3つを重ねたところに見えてきます。配偶者名義で非課税制度の口座を開く手続きそのものは、必要な書類をそろえれば進められますので、時期の見通しと並行して進めていただいてかまいません。ご家庭ごとに事情は異なりますので、具体的な判断は、状況を確かめながら専門家とご一緒に進めていただければと思います。

11. まとめにかえて

積み立てをいつまで続けるかは決めやすい一方で、取り崩しをいつから始めるかは決めかねやすいものです。この記事では、受け取り始める時期によって税の扱いが変わる場合があること、公的年金を受け取り始める時期との重なりも見ておくこと、始める時期は生活費が足りるかどうかから逆算することの3点を、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。

この3つには順序があります。税の扱いは、あとから知って時期を選び直すことがむずかしい場合があるため、先に確かめておく位置づけです。公的年金との重なりは、ご夫婦それぞれの収入がいつから入り始めるのかを並べてみることで見えてきます。そのうえで、家計の収支に差が出始めるのはいつごろかという見通しを立てると、取り崩しを始める時期はおのずと絞られてきます。逆にいえば、この順序を飛ばして時期だけを先に決めてしまうと、あとから条件が合わなかったと気づくことになりかねません。

運用しているお金には価格の変動があり、受け取る時点によっては元本割れとなる可能性があります。また、受け取り方や時期による税の扱い、公的年金を受け取り始める時期の選び方は、制度にかかわる部分であり、条件によって結果が大きく変わります。この記事でお伝えしたのはあくまで考える順序ですので、ご自身の場合にどうなるかは、税務の窓口や年金の窓口、公的機関の情報でご確認ください。判断に迷う部分は、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

鶴田 綾