公的年金は偶数月に支払われる仕組みで、8月は年金の定期支払日がある月にあたります。振込の通知や通帳の記録を見ながら、手元の貯蓄と毎月の暮らしのバランスを考え直す方が増える時期でもあります。

老後資金の話題になると、まず目に入るのが「平均貯蓄額」です。ただ、同じ集団を平均で見るか中央値で見るかによって、数字の印象はかなり変わります。総務省統計局の家計調査でも、65歳以上の世帯には貯蓄額の幅が大きいという傾向が示されています。

この記事では、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上)の平均貯蓄額、有職世帯も含めた65歳以上世帯の平均と中央値、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の家計収支、そして2026年度の年金額と平均受給額を順に確認していきます。

鶴田 綾
相談の場で「うちは平均より少ないのでしょうか」と聞かれることがよくあります。そのときにお伝えしているのは、平均という数字は集団全体を1つにならしたもので、真ん中の人の姿とは限らない、ということです。貯蓄額のように分布に幅が出やすい項目では、平均と中央値の両方、そして分布そのものを見ていただくと、自分がどのあたりにいるのかがつかみやすくなります。この記事では貯蓄・収支・年金の順に数字を並べていきます。

なお、65歳以上世帯の貯蓄額や家計収支、公的年金の平均受給額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
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1. 【65歳以上・無職の夫婦世帯】平均貯蓄2494万円は6年ぶりのマイナスに転じた

はじめに、世帯主が65歳以上で、かつ働いていない二人以上の世帯がどれくらいの貯蓄を持っているのかを見ていきます。数字の詳細は【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説でも整理されています。要点を引用して確認しておきましょう。

総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)における平均貯蓄額は2494万円です。この平均貯蓄額は、2024年の2560万円から66万円(▲2.6%)減少し、6年ぶりにマイナスに転じました。内訳をみると、最も割合が大きいのは「定期性預貯金」で778万円、次いで「通貨性預貯金」が766万円、「有価証券」が510万円、「生命保険など」が426万円、「金融機関外」が13万円と続きます。

金額そのものより先に押さえておきたいのが、内訳の並び方です。定期性預貯金778万円と通貨性預貯金766万円を合わせると預貯金だけで1500万円を超え、有価証券510万円と生命保険など426万円がそれに続きます。値動きのない資金が全体の6割前後を占めている形です。

6年ぶりの減少という変化も、増やす力が落ちたと決めつけられるものではありません。物価の上がり方や、有価証券の評価額の動き、実際に取り崩した分など、いくつかの要因が重なった結果として表れる数字です。前の年と比べて増えたか減ったかだけを見るより、どの区分が動いたのかまで見ておくほうが、家計の状況をつかみやすくなります。

鶴田 綾
この2494万円という数字を見て、「そんなに持っていない」と感じる方は少なくありません。ただ、ここに並んでいるのは無職の世帯を集めた平均で、退職金を受け取った直後の世帯も、受け取ってから年数が経った世帯も同じ集団に入っています。同じ65歳以上でも、退職金の有無や住まいの形によって金額の出方はかなり違います。金額の高い低いで一喜一憂するより、内訳のうち自分の家計に当てはまるのはどの部分かを見ていただくほうが、次に何を考えるかが決めやすくなります。

2. 有職の世帯も含めた65歳以上|平均2564万円と中央値1777万円の開き

次に、働いている世帯も含めた65歳以上の二人以上世帯に範囲を広げてみます。この区分では平均だけでなく中央値も示されているため、分布の様子まで確認できます。

有職世帯も含めた65歳以上の二人以上世帯では、平均貯蓄額は2564万円です。しかし、より実態に近いとされる中央値(貯蓄ゼロ世帯を除く)は1777万円となり、平均値と約790万円もの開きがあります。貯蓄額の分布をみると、2500万円以上の貯蓄を持つ世帯が全体の36.3%を占める一方で、300万円未満の世帯も14.9%存在します。一部の貯蓄額が非常に多い世帯が、全体の平均値を押し上げている構造が分かります。

平均と中央値は、同じ集団を別の角度から見た数字です。平均はすべての世帯の金額を足して世帯数で割ったもの、中央値は金額の順に世帯を並べたときにちょうど真ん中に来る世帯の金額を指します。貯蓄額のように「下限はゼロで止まるのに、上限は青天井」という分布では、金額の大きい世帯が平均を上へ引っ張ります。これは統計上の性質であって、どちらか一方の数字が誤っているという話ではありません。

分布の内訳を見ると、2500万円以上が36.3%を占める一方で、300万円未満も14.9%あります。同じ65歳以上という区分のなかに、両端の世帯がどちらも一定の割合で含まれているということです。平均2564万円と中央値1777万円のどちらを自分の目安に置くかで、これから用意すべき金額の見え方は変わってきます。

鶴田 綾
平均と中央値のどちらを見ればよいのですか、というご質問もよくいただきます。相談の場では、どちらか一方に決めるのではなく、両方を並べて「自分はこの2つの数字の間のどこにいるか」を確かめていただくことが多いです。約790万円という開きは、それだけ世帯ごとの事情に幅があることの表れでもあります。ご自身の位置がつかめると、目標額の話も現実的な範囲に落ち着いてきます。

3. 65歳以上の夫婦のみ無職世帯の家計収支|毎月およそ4万2000円の取り崩し

貯蓄額の次に確認しておきたいのが、毎月の出入りです。手元にいくらあるかと、毎月いくら減っていくかは、セットで見ないと必要な準備額が見えてきません。

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入の合計が25万4395円(うち公的年金などの社会保障給付が22万8614円)、支出は消費支出26万3979円と非消費支出3万2850円を合わせて29万6829円。単純計算で毎月約4万2000円が不足し、この収支差が続くと1年間で約50万円、10年間で約500万円の不足となります。

実収入25万4395円のうち、22万8614円が公的年金などの社会保障給付です。割合にすると9割近くを占め、この世帯類型では収入の柱が年金であることがはっきり表れています。一方の支出は、消費支出26万3979円に、税や社会保険料にあたる非消費支出3万2850円が加わって29万6829円です。年金からも保険料や税が差し引かれるため、額面と手元に残る金額は一致しません。

差し引き毎月約4万2000円という不足は、年に直すと約50万円、10年で約500万円です。この金額を、これまでに積み上げてきた貯蓄から取り崩していく形になります。ここまでで、貯蓄額という「持っている量」と、毎月の不足という「減っていく速さ」の2つがそろいました。

鶴田 綾
毎月4万2000円という不足額を聞いて不安になる方もいらっしゃいますが、これは全国の平均をならした数字です。住まいが持ち家か賃貸か、車を持っているか、医療や介護の負担がどの程度あるかで、実際の不足額は大きく上下します。相談の場では、平均の数字をそのまま自分に当てはめるのではなく、直近1年分の通帳と家計の記録から、ご自身の毎月の差額を出していただくところから始めています。自分の数字が出せると、必要な準備額も自分の前提で計算できるようになります。

4. 取り崩す側と入ってくる側|2026年度の年金額はどこまで動いたか

収入の柱である公的年金の額は、物価や現役世代の賃金を考慮して年度ごとに改定されるルールになっています。2026年度分は、法律の改定に基づき前年度より国民年金(基礎年金)1.9%、厚生年金(報酬比例部分)2.0%増額され、4年度連続のプラス改定となりました。

4.1 2026年度に示された年金額の例

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分
    • ※ 昭和31年4月1日以前生まれの老齢基礎年金(満額1人分)は月額7万408円(対前年度比+1300円)

  • 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2
    • ※ 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

ここに並んでいるのは、あくまで一定の前提を置いた「年金例」です。実際に支給される年金額は、現役時代の年金加入状況によって個人差が出ます。

また、年金額自体は国民年金1.9%、厚生年金2.0%増えていますが、「マクロ経済スライド」の発動により、実質的には目減りしている点には注意が必要です。

マクロ経済スライドとは、公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動と平均余命の伸びに基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除する仕組みです。増額の幅が物価の上がり方に追いついているかどうかは、改定率だけを見ても判断がつきません。改定の考え方やご自身への反映のされ方については、日本年金機構や年金事務所の案内でお確かめいただき、判断に迷う部分は関連する窓口にご確認いただくのが確実です。

鶴田 綾
改定率がプラスと聞くと「年金は増えている」と受け取りがちですが、同じ期間に生活に必要なものの値段も動いています。老後の計画を立てるときは、年金額が今よりも大きく増えることを前提に置かず、現在の水準を土台にして、そこからの差額を貯蓄で埋めるという考え方のほうが、あとから前提を置き直す回数が少なくて済むように思います。

5. 国民年金と厚生年金の平均月額|男女で開きが出るのはどの部分か

年金額の例を見たあとは、実際に受け取っている人たちの平均も押さえておきましょう。厚生労働省年金局が公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、2024年度末時点の平均年金月額が次のように示されています。金額の一覧は【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説でも詳しく整理されています。

※厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。また、厚生年金の月額には国民年金(老齢基礎年金)部分が含まれています。

5.1 グラフで見る受給者の分かれ方

国民年金の平均年金月額2/4

国民年金の平均年金月額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

厚生年金の平均年金月額3/4

厚生年金の平均年金月額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

5.2 国民年金(老齢基礎年金)の平均月額と男女別の内訳

〈全体〉平均年金月額:5万9310円

  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

5.3 厚生年金(国民年金部分を含む)の平均月額と男女別の内訳

〈全体〉平均年金月額:15万289円

  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

※厚生年金の金額には、国民年金(老齢基礎年金)の金額を含みます。

平均だけを取り出すと、国民年金のみの受給では男性が6万円台、女性が5万円台に収まり、厚生年金(国民年金部分を含む)では男性が16万円台、女性が11万円台という並びになります。国民年金は納めた月数だけで金額が決まるため男女の差は小さく、厚生年金は加入期間と現役時代の収入の掛け算で積み上がるため、働き方の違いがそのまま金額の差として表れます。

また、グラフから分かるように、受給権者の間で年金額には大きな個人差があります。ここでも平均は集団をならした1つの数字にすぎませんので、ご自身の年金見込み額は「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認しておきましょう。

鶴田 綾
ご夫婦でお越しになると、お二人の見込み額を足して世帯の収入として見ていくことになります。厚生年金の男女別の平均をそのまま足すと月28万円台になりますが、実際には共働きの期間や働き方の変化によって、この形に当てはまるご家庭ばかりではありません。世帯としていくら入ってくるのかは、お二人分の「ねんきん定期便」を並べて確かめるのが早道です。

6. 「日常生活費もまかないにくい」と答えた60歳代・70歳代の割合

数字の面から見てきた家計の状況は、当事者の実感としてはどう表れているのでしょうか。J-FLEC(金融経済教育推進機構)が2025年12月に公表した「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」を見ると、二人以上世帯のうち「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と答えた割合は、60歳代で32.6%、70歳代で30.6%にのぼります。

6.1 ゆとりのなさを感じる理由として挙がった項目

「年金にゆとりがない」と感じる理由とは?4/4

「年金にゆとりがない」と感じる理由とは?

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

ゆとりのなさを感じる理由としては、物価上昇や医療費・介護費負担の増加が上位に挙げられています。3割前後という割合は、貯蓄の平均額だけを見ていては見えてこない部分です。

完全にリタイアしたあとの世帯は、現役時代に比べて収入が減るのが一般的です。物価の動きが続けば、家計への負担感は今後も強まっていくと見込まれます。

加えて、現役時代は毎月給料日があったのに対し、老後の年金は「偶数月に2カ月分まとめて支給」となるため、家計管理のサイクルそのものが変わります。ひと月分ずつに割り振って使う感覚に切り替えるまでに時間がかかったという声も聞かれます。支給のサイクルに合わせて、日ごろの生活費のやりくりに工夫を加えておくとよいでしょう。

鶴田 綾
2カ月に一度まとめて入るお金を、どう2カ月に割り振るかは、リタイア直後に多くの方がつまずくところです。振込のあった月に使いすぎてしまい、翌月に足りなくなる、という流れは珍しくありません。相談の場では、振込額を2で割った金額を「ひと月の収入」として書き出し、その範囲で暮らせているかを確かめるという方法をご案内することがあります。数字の見方をひとつ変えるだけで、家計の感覚がつかみやすくなる場合もあります。

7. 貯蓄・収支・年金の3つを重ねる|自分の位置を確かめる順番

ここまでで3種類の数字がそろいました。65歳以上の無職世帯(二人以上)の平均貯蓄額2494万円、有職世帯を含めた65歳以上の平均2564万円と中央値1777万円、そして65歳以上の夫婦のみ無職世帯における毎月約4万2000円の不足です。あわせて、収入の柱となる年金の平均月額も確認しました。

この3つは、それぞれ別のことを教えてくれます。貯蓄額は「いま手元にどれだけあるか」、家計収支は「毎月どれだけ減っていくか」、年金額は「毎月どれだけ入ってくるか」です。3つがそろってはじめて、手元の資金が何年もつのかという見通しが立ちます。

そして、この見通しを立てるときに置く目安が平均なのか中央値なのかで、答えの印象は変わります。分布に幅がある項目では、平均は上位の世帯に引き上げられやすい一方、中央値は真ん中に並ぶ世帯の姿を映します。どちらか一方が正しいというものではなく、2つの数字を並べて、自分がその間のどこにいるのかを確かめる材料として使うものです。次の章では、この2つの目安を実際に置き換えて、必要な準備の見え方がどう変わるかを数字で確かめてみます。

年金の受給額が世帯によってどれくらい分かれるのかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント

8. 【独自試算】平均2564万円を目安に置く場合と中央値1777万円を目安に置く場合で、必要な準備の見え方はどう変わるか

同じ「毎月約4万2000円の不足」という前提でも、手元の貯蓄をどの水準に置いて考えるかで、残る金額の見え方は変わります。ここでは、有職世帯を含む65歳以上の二人以上世帯の平均2564万円と中央値1777万円という2つの数字を目安に置き、それぞれで何がどう見えるかを試算してみます。

前提は次のとおりです。

  • 毎月の不足額:4万2000円(家計調査の65歳以上・夫婦のみ無職世帯の収支差をもとにした概数)
  • 取り崩す期間:65歳から20年(85歳まで)・25年(90歳まで)・30年(95歳まで)
  • 目安に置く貯蓄額:平均2564万円/中央値1777万円
  • 運用による増減、物価の変動、税金・手数料は考慮しない単純計算

8.1 取り崩す期間の長さで必要になる金額

毎月4万2000円の不足が続くとした場合、期間ごとに必要な金額は次のようになります。

  • 20年(240カ月):約1008万円
  • 25年(300カ月):約1260万円
  • 30年(360カ月):約1512万円

1年あたりでは約50万円ですから、10年で約500万円、30年では約1500万円という積み上がり方です。期間が10年延びるごとに、必要額はおよそ500万円ずつ増えていきます。

8.2 2つの目安に対して手元に残る金額

上の必要額を、平均2564万円と中央値1777万円からそれぞれ差し引くと、手元に残る計算上の金額は次のようになります。

  • 平均2564万円を目安に置いた場合:20年で約1556万円、25年で約1304万円、30年で約1052万円が残る計算
  • 中央値1777万円を目安に置いた場合:20年で約769万円、25年で約517万円、30年で約265万円が残る計算

どの期間で見ても、2つの目安の差はおよそ790万円で変わりません。ただ、残る金額に対する割合で見ると印象は違ってきます。30年で見た場合、平均を目安にすると約1052万円が残る一方、中央値を目安にすると約265万円です。前者では医療や介護、住まいの修繕といった突発的な支出にも一定の幅が残りますが、後者ではその幅が小さくなります。同じ不足額でも、どちらの数字を自分の目安に置くかで、備えとして考えるべき範囲が変わってくるということです。

なお、この試算は毎月の不足額が一定で続くと置いた単純計算です。実際には、就労を続ける期間、住まいが持ち家か賃貸か、医療や介護の負担がいつからどの程度発生するかによって、不足額そのものが上下します。

8.3 2つの目安の差を積立で用意するとしたらいくらか

平均と中央値の差である約790万円を、65歳までに積立で用意すると考えた場合、毎月いくらになるのかも計算してみます。想定利回りは年3%、毎月末に一定額を積み立てて複利で運用したものとし、税金・手数料は考慮していません。月利は年利を12で割るのではなく、年利から12乗根を用いて求めています(月利=(1+年利)の12分の1乗-1)。年3%の場合、月利は約0.2466%です。

  • 10年(55歳から65歳まで):毎月約5万7000円
  • 15年(50歳から65歳まで):毎月約3万5000円
  • 20年(45歳から65歳まで):毎月約2万4000円

同じ約790万円でも、期間が10年から20年に延びると毎月の金額はおよそ半分以下になります。金額を上げることが難しいときは期間を延ばす、期間が取れないときは金額を上げる、という調整の見取り図として使える形です。もっとも、これは差額をすべて積立で埋めると置いた場合の目安であり、就労期間を延ばす、支出を見直すといった別の方法と組み合わせて考えることもできます。

※上記は前提を置いた目安の試算であり、将来の金額を示すものではありません。想定利回りは期間中一定と仮定したもので、実際の運用成果は市場環境によって変動し、想定を下回ることも、積立元本を割り込むこと(元本割れ)もあります。物価の変動、税金・手数料は考慮していません。取り崩し期間中の運用も考慮していない単純計算です。

9. 監修者コメント:平均と中央値は、同じ集団を別の角度から見た数字

村岸 理美

平均と中央値は、どちらかが本当の姿を示していて、もう一方が実態から離れている、という関係ではありません。平均は集団全体の金額を世帯数でならした値で、中央値は金額順に並べたときの真ん中の値です。貯蓄額のように下限がゼロで止まり、上限に区切りがない項目では、金額の大きい世帯が平均を上へ引き上げます。これは統計上の性質として起こることで、2564万円という平均も、1777万円という中央値も、それぞれ同じ集団の別の側面を示しています。

試算でお示しした約790万円という差は、目安の置き方によって計算結果がどれだけ動くかを表したものです。この差を見て「平均に届いていないから足りない」と受け取る必要はありませんし、逆に「平均を超えているから十分」と考える材料にもなりません。どちらの数字も、ご自身の家計の実際の数字に置き換えたときにはじめて意味を持ちます。

試算に使った毎月4万2000円という不足額も、全国の平均をならした概数です。住まいの形、就労を続ける期間、医療や介護の負担がいつから発生するかによって、実際の金額は上下します。試算の役割は将来の金額を当てることではなく、前提をひとつ動かすと結果がどちらへどれだけ動くのかを見えるようにすることにあります。前提を置き直しながら、数年おきに計算しなおしていくという進め方もあります。

また、運用を組み合わせる場合には価格の変動があり、受け取る時点によっては元本を下回る可能性もあります。年金の受給額や税・社会保険料の扱いは制度にかかわる部分で、条件によって結果が変わりますので、ご自身の場合にどうなるかは年金の窓口や公的機関の情報でお確かめください。判断に迷う部分は、関連する窓口や専門家に確かめながら進めていくという方法もあります。