地方移住を調べていると、必ず出てくるのが移住支援金です。
「最大100万円」「子どもがいればさらに加算」といった見出しを目にすると、まとまった金額が動く制度だと分かります。ただ、誰でも受け取れるわけではありません。
この制度は国の「地方創生移住支援事業」として、都道府県と市町村が共同で交付するものです。金額、対象になる人の条件、そして実際にどれくらい使われているのかを、内閣府の資料から確認していきます。
- 支給額は世帯100万円以内・単身60万円以内で、18歳未満の子ども1人につき最大100万円を加算
- 対象は東京23区に在住、または東京圏から東京23区へ通勤していた人
- 交付実績は累計1万4378件・3万557人。令和7年度は制度開始以来はじめて減少した
1. いくらもらえるのか
まず金額から確認します。
内閣府によると、支給額は世帯の場合が100万円以内、単身の場合が60万円以内です。18歳未満の世帯員を帯同して移住する場合は、18歳未満の者1人につき最大100万円が加算されます。
仮に夫婦と子ども2人の4人世帯で移住した場合、100万円に加えて子ども2人分で最大200万円、合計で最大300万円という計算になります。
ただし、金額は「以内」であり、実際にいくらになるかは都道府県が設定します。事業そのものが地方公共団体を主体として実施されるもので、実施期間や支給額といった制度の詳細は自治体によって異なります。
この点は最初に押さえておきたいところです。「移住支援金=100万円」と一律に決まっているわけではありません。
2. 対象は「東京23区に住むか、通勤していた人」
次に、誰が対象になるのかです。移住元の要件がかなり具体的に定められています。
対象となるのは、移住直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住していた人、または東京圏のうち条件不利地域を除く地域に住みながら東京23区へ通勤していた人です。加えて、直近1年以上は東京23区に在住または通勤していることが必要とされています。
雇用者として通勤していた場合は、雇用保険の被保険者としての通勤に限られます。
なお、東京圏に住みながら東京23区内の大学等へ通学し、23区内の企業等へ就職した人については、通学していた期間も移住元としての対象期間に加算できるとされています。
ここでいう東京圏とは、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の1都3県を指します。
つまりこの制度は、幅広い「地方移住者」を対象にしたものではなく、東京23区への一極集中を緩和することを狙った設計になっています。地方から別の地方へ移る場合や、大阪から地方へ移る場合は対象になりません。
3. 移住先と、就業の4つの要件
移住先にも条件があります。
対象は東京圏以外の道府県、または東京圏内の条件不利地域で、いずれも移住支援事業を実施している都道府県・市町村に限られます。条件不利地域とは、過疎地域や山村、離島、半島などに関する法律の対象地域を有する市町村などを指します。
手続きの面では、移住支援金の申請が転入後1年以内であること、申請後5年以上継続して移住先市町村に居住する意思があることが求められます。
そのうえで、就業などについて次の4つのいずれかに当てはまる必要があります。
1つ目は、地域の中小企業等への就業です。道府県のマッチングサイトに掲載されている求人に就業するか、プロフェッショナル人材事業または先導的人材マッチング事業を利用して就業する形になります。
2つ目は、テレワークによる業務の継続です。自己の意思で移住し、移住先で移住前の業務を引き続き行う場合が該当します。テレワークを導入している企業は50.1%まで広がっており、勤務先の制度が整っていれば選びやすい要件だといえます。
3つ目は、市町村ごとの独自要件です。地域の人々と関わりがある者(関係人口)として市町村が認め、地域の担い手となる要件を満たす場合が対象になります。内容は市町村によって異なります。
4つ目は、地方創生起業支援事業の活用です。1年以内に起業支援金の交付決定を受けていることが条件になります。
就業要件の2つ目に「テレワークによる業務継続」が入っているのを見て、少し身につまされました。私自身、勤務先を変えないまま地方に住んで働いています。制度が想定する働き方に、形としては近いところにいます。
ただ、この制度の対象にはなりません。移住元が東京23区であることが要件だからです。東京圏として扱われるのは東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の1都3県で、そこから外へ出る移動が支援の対象になります。
要件を追っていくと、この制度が「地方で働くこと」への補助ではなく、「東京23区から出ること」への補助なのだと分かってきます。同じようにリモートで働いていても、どこから動いたかで扱いが変わる。政策の目的からすれば筋は通っているのですが、当てはまらない側から見ると、線の引かれ方が少し不思議に感じられます。
4. 交付は累計1万4378件。令和7年度は初めて減少
制度がどれくらい使われているのかも公表されています。
【図表1】移住支援金の交付実績の推移(令和元年度〜令和7年度)1/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
内閣府の交付実績によると、令和元年度から令和7年度までの累計は1万4378件、移住人数は3万557人でした(令和8年3月末時点)。
年度別の件数を見ると、令和元年度は71件でしたが、令和3年度に1184件、令和4年度に2495件と急速に伸び、令和6年度には3626件に達しています。
注目したいのは令和7年度です。件数は3170件で、前年度から456件の減少。移住人数も7829人から6771人へ1058人減りました。制度開始以来、はじめての減少です。
なお、この件数と人数には、令和6年度に新設された地方就職学生支援事業の交付実績も含まれています。
7年間の累計3万557人という数字は、制度としては一定の規模です。ただし2025年に都道府県をまたいで移動した日本人が251万5731人であることを踏まえると、移住する人全体のなかではごく一部にとどまります。支援金は移住を後押しする仕組みであって、人の流れそのものを大きく変えるものではない、という位置づけで見ておくのが妥当でしょう。
5. 使われているのは東京圏に隣接する県が中心
道府県別の実績を見ると、もうひとつ特徴が浮かびます。
【図表2】道府県別の累計交付件数トップ102/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
累計交付件数が最も多いのは静岡県の1465件。次いで群馬県1152件、栃木県900件、長野県884件、新潟県779件と続きます。
上位10道県のうち、茨城県・栃木県・群馬県・山梨県・長野県・静岡県の6県は東京圏に隣接する県です。
制度の対象が東京23区からの移住者であることを考えれば、自然な結果ともいえます。仕事や家族の事情で首都圏との行き来を残したい場合、隣接県は現実的な選択肢になります。
逆にいえば、「東京から遠く離れた地方へ移る」というイメージと、実際に制度が使われている場所には、そこそこの開きがあるということです。移住先を検討するときの参考になる視点だと思います。
6. 5年以内に転出すると返還になる
最後に、見落とされやすい点に触れておきます。
移住支援金には返還制度があります。申請から5年以内に移住先から転出した場合や、虚偽の申請をした場合などが対象です。
申請時に「5年以上継続して居住する意思」が求められることと表裏の関係にあります。受け取ったあとで合わなかったとしても、5年以内に離れれば返さなければならない可能性があるということです。
この点は、拠点を完全には移さない働き方とは相性がよくありません。主な生活拠点を残したまま別の地域にも拠点を持つ暮らし方は二地域居住と呼ばれ、2024年11月施行の改正法で国の政策としても位置づけられましたが、移住支援金は移住先への定着を前提とした制度です。どちらを選ぶかで、使える制度も変わります。
なお、支給額、実施期間、市町村ごとの独自要件、返還の具体的な条件は、いずれも自治体によって異なります。申請を検討する段階では、必ず移住先の都道府県・市町村の窓口で最新の要綱をご確認ください。
7. まとめにかえて
今回は、内閣府の資料から移住支援金の制度と実績を確認しました。
- 支給額は世帯100万円以内・単身60万円以内、18歳未満の子ども1人につき最大100万円を加算
- 対象は東京23区の在住者、または東京圏から東京23区へ通勤していた人
- 交付実績は累計1万4378件・3万557人、令和7年度は初めて減少
- 上位10道県のうち6県は東京圏に隣接する県
金額の大きさに目が向きがちですが、この制度の本体は要件のほうです。自分が対象になるのか、移住先が実施しているのか、5年住み続けられるのか。順番に確認していくと、支援金は移住を決める理由ではなく、決めたあとの後押しだということが見えてきます。
8. 【執筆者コメント】「もらえる制度」ではなく「続ける制度」だった
最初に金額を見たときは、単純にすごい額だと思いました。4人世帯なら最大300万円です。
ただ、要件を順に読んでいくと印象が変わります。移住直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住または通勤。直近1年以上は必須。この時点でかなり絞られます。
そして5年以内に転出したら返還。つまり、もらった瞬間に完結する制度ではなく、5年間住み続けてはじめて完了する制度だということです。「支援金がもらえるから移住する」という順番だと、たぶん苦しくなります。
意外だったのは、交付件数の上位が静岡・群馬・栃木・長野といった顔ぶれだったことです。私は群馬県に住んでいるので、2位というのは実感としても腑に落ちました。東京から新幹線や高速道路で行き来できる距離は、制度を使う人にとって現実的な落としどころなのだと思います。
令和7年度に初めて減ったのがどういう意味なのかは、正直まだ読み切れません。制度が一巡したのか、対象になる人が減ったのか。来年度の数字を見るまでは判断を保留しておきます。
参考資料
中沢 新



