5. 5期の営業利益率が語る、高収益というイメージとの差
過去5期を並べてみたい。
2022年3月期は売上高3,496億円、営業利益682億円で、営業利益率は19.5%だった。ここが直近5期のピークにあたる。
翌2023年3月期は営業利益319億円で利益率10.0%へ半減し、2024年3月期は営業利益90億円、利益率2.8%まで落ち込んだ。2025年3月期も営業利益104億円、利益率3.1%と低位が続いている。
そして2026年3月期は売上高3,553億円、営業利益199億円で、利益率は5.6%まで戻した。売上高の伸びは+4.1%にとどまるが、営業利益は+91.2%、経常利益は+129.4%、当期利益は148億円で+535.9%の増益である。
売上の絵と利益の絵がまるで違う。5期を通して売上高は3,100億円台から3,500億円台のレンジに収まっているのに、営業利益は682億円から90億円まで振れた。
固定費の重い事業では、売上の小さな増減が利益を大きく動かす。この5期は、その仕組みが数字にそのまま出た並びになっている。
2026年3月期のROEは4.5%だ。2022年3月期の20.0%と比べると、資本効率の後退幅は利益率の落ち込み以上に大きい。株価が1カ月で2割振れる背景には、この利益の振れやすさがあるとみるべきだろう。
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出所:太陽誘電株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成
6. 投資の山を越えたキャッシュフローと、償却負担の重さ
利益がここまで振れた背景には、投資の重さがある。
設備投資額は2022年3月期の515億円から積み上がり、2024年3月期には799億円に達した。2025年3月期は627億円、2026年3月期は410億円と、直近2期で絞り込まれている。
その結果、投資キャッシュフローは2024年3月期の▲827億円から、2026年3月期は▲256億円まで縮んだ。一方で営業キャッシュフローは581億円と、5期で最も大きい。
手元に残る現金が増えたぶん、財務キャッシュフローは▲68億円の支出に転じている。投資局面を一巡させ、資金の流れが落ち着いてきた姿だ。
ここで押さえておきたいのは減価償却費である。2026年3月期は491億円で、同じ期の営業利益199億円の2倍を超える。増強した設備の償却負担が、いま損益を圧迫している構図だ。
償却は投資が先に立つ以上避けられない費用だが、その負担を上回る数量が来れば利益率は一気に戻る。通期予想の営業利益+125%は、その反転を織り込んだ数字とみるのが自然だろう。
自己資本比率は2026年3月期末で56.0%、1Q末には59.7%まで上がっている。電気機器の業種中央値62.2%にはまだ届かないが、投資の山を越えたぶん財務の余裕は戻りつつある。
7. 筆者コメント
同社の過去5期を眺めると、この会社が何で稼ぎ、何で削られてきたのかがはっきり見えてくる。
売上はほぼ横ばいで推移してきた。にもかかわらず利益は大きく揺れた。差を生んだのは需要の波と、能力増強の代償である償却負担だ。
私が興味深いと思うのは、この会社が減速局面でも投資を止めなかった点である。利益率が3%を割り込んだ期にも、設備投資は年間で数百億円の規模を保っていた。目先の損益を守るより、次の需要を取りに行く判断を続けたことになる。
ファイナンスの観点では、この判断の巧拙は投じた資本が将来どれだけの利益を生むかで決まる。まだ答えは出ていない。
だからこそ、今後の決算では利益の額そのものより、増やした設備がどれだけ回っているかに着眼して見てほしい。数量と利益率が同時に上を向いた四半期が来たとき、はじめてこの投資の答え合わせが始まる。
参考資料
8.1 免責事項
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石津 大希