60歳を過ぎても働き続ける人が増えています。おひとりさまなら、家計を支えるのは自分の収入と年金です。「働くと年金が減ると聞いたけれど、実際どうなのだろう」—そう気になっている方も多いのではないでしょうか。

働きながら受け取る年金には「在職老齢年金」というしくみがあり、その基準額が令和8年度(2026年度)に引き上げられました。まずは、同世代のおひとりさまがどれくらい貯めているのかを確かめ、そのうえで年金と給与の関係をみていきましょう。

今回は、60歳代の単身世帯の平均貯蓄額と中央値を確認し、働くシニアの年金が「減らない働き方」を考えます。

LIMO編集部年金解説班

「働くと年金が減るなら、収入を抑えたほうが得なのでは」と考える方は少なくありません。でも、止まるのは年金の一部だけで、しかも働き続けることで増える面もあります。大切なのは、思い込みで働き方を決めてしまわないこと。

自分の年金額と月収を具体的な数字で並べてみれば、いちばん手取りの残る働き方がみえてきます。

なお、年代別の貯蓄額に関する詳しい解説は、下記の記事もあわせてご参照ください。

【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」
【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」 差が生まれる3つの要因を確認
ココがポイント
  • 60歳代おひとりさまの平均貯蓄額と中央値
  • 働いても年金は受け取れる。ただし年金+給与が月65万円を超えると一部・全部が止まる(令和8年度に51万円→65万円へ引上げ)
  • 70歳まで働くと在職定時改定で毎年年金が増える

1. 【60歳代おひとりさまの平均貯蓄額】中央値はいくらか?

金融経済教育推進機構(J-FLEC)が2025年に公表した「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、単身世帯(60歳代)の金融資産保有額(平均・中央値)は次のとおりです。

※金融資産保有額とは、預貯金だけでなく株式、投資信託、生命保険などを含んだ金額です。ただし、日常的に使う普通預金の残高は含まれていません。

おひとりさま60歳代の貯蓄額1/1

おひとりさま60歳代の貯蓄額

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」をもとにLIMO編集部作成

  • 60歳代単身世帯:平均1364万円/中央値300万円

60歳代のおひとりさまは、平均1364万円・中央値300万円。2000万円以上を持つ人が21.1%いる一方、貯蓄のない世帯(非保有)も30.4%と3割にのぼります。準備できた人とそうでない人の差が大きい年代で、実感に近いのは中央値300万円のほうでしょう。

年金に加えて働いて収入を得ることが、家計の支えになります。

そこで気になるのが、「働くと年金が減るのではないか」という点です。次にそのしくみをみていきましょう。

LIMO編集部年金解説班
60歳代のおひとりさまは、準備できた人とそうでない人で差が大きい年代です。平均よりも、真ん中の人を示す中央値を目安にすると、わが家の位置がつかみやすくなります。年金に加えて「働いて得る収入」も家計の支えになりますから、次のページでは働き方と年金の関係をみていきましょう。

2. 働いても年金は受け取れる—月65万円を超えると一部が止まる

「働くと年金が減ると聞いたから、収入は抑えたほうがいいのだろうか」—60歳を過ぎた働き方で、まず引っかかるのがこの点ではないでしょうか。

日本年金機構によると、働きながらでも老齢年金を受け取ることができます。特別支給の老齢厚生年金や老齢基礎年金・老齢厚生年金は、給与収入があっても受け取れます。

2.1 働くと年金は月65万円超で一部停止

ただし条件があります。厚生年金保険に加入して働く場合、または加入事業所で70歳以上働く場合、老齢厚生年金と給与の合計が1月あたり65万円(令和8年度の支給停止調整額)を超えると、年金の一部または全部が支給停止となります。この65万円は令和7年度の51万円から14万円引き上げられた額です。

計算の中身も確かめておきましょう。判定に使うのは基本月額(加給年金額を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分の月額)と総報酬月額相当額(その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)の合計です。65万円を超えた場合、支給される額は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2」で計算されます。

なお老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されます。

2.2 止まるのは厚生年金部分だけ—70歳まで働くと増える

裏を返せば、止まるのは老齢厚生年金の部分だけだということです。しかも、65歳以上70歳未満で厚生年金保険に加入して働き続けると、納めた保険料の分が翌年の年金額に上乗せされます。これを「在職定時改定」といいます。

具体的には、毎年9月1日時点で厚生年金の被保険者である人について、前年9月から当年8月までの加入期間が新たに反映され、その年の10月分(12月受け取り分)から年金額が改定される仕組みです。増える額はその1年間の給与水準(標準報酬月額)によって変わり、日本年金機構は年額でおよそ1.3万円増える例を示しています。

「減るから働かない」と決める前に、自分の基本月額と月収を足して65万円と比べてみる。そのうえで働き方を選ぶのが、手取りと将来の年金額の両方を守る順番です。

3. 編集部からのアドバイス

60歳代おひとりさまの貯蓄は、平均1364万円・中央値300万円でした。年金に加えて働いて得る収入が、家計の大きな支えになります。在職老齢年金と上手につきあうための3つのポイントをお伝えします。

一つ目は、「自分の基本月額+月収」を月65万円と比べること。多くの会社員の場合、この合計が65万円を超えるのは高収入のケースで、超えなければ年金は全額受け取れます。まずは自分の数字で確かめましょう。

二つ目は、止まるのは老齢厚生年金の部分だけだと知っておくこと。老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されます。「年金がまるごと消える」わけではありません。

三つ目は、70歳まで働くことで年金が増える面に目を向けること。厚生年金に加入して働き続ければ、在職定時改定で毎年年金額が見直され、上乗せされていきます。働くことは、目先の収入だけでなく将来の年金も育てます。

LIMO編集部年金解説班

「働くと年金が減るなら損では」という受け止め方は、定年後の働き方を考える場面でよく聞かれるものです。ただ、基本月額と月収を実際に足してみると、65万円を超えるのは収入がかなり高い方に限られます。

超えない場合は年金を全額受け取れますし、超えても止まるのは老齢厚生年金の一部だけ。基礎年金は全額残ります。しかも70歳まで働けば、在職定時改定で年金そのものが毎年増えていきます。

おひとりさまは、収入も年金も自分一人で支えていく分、「働き損」の思い込みで働き方を狭めてしまうのは、いちばんもったいないことです。まずはねんきん定期便で自分の数字を確かめる。そのうえで、無理のない範囲で長く働くことが、手取りと将来の年金の両方を守る近道になります。

4. まとめにかえて

今回は、60歳代おひとりさまの平均貯蓄額(1364万円)と中央値(300万円)を確認しました。準備できた人とそうでない人の差が大きく、実感に近いのは中央値300万円のほうです。だからこそ、働いて得る収入が家計の大切な支えになります。

あわせて、働きながら年金を受け取る「在職老齢年金」のしくみをみました。年金と給与の合計が月65万円(令和8年度の基準額。前年度は51万円)を超えると年金の一部・全部が止まりますが、止まるのは老齢厚生年金の部分だけ。基礎年金は全額受け取れ、70歳まで働けば在職定時改定で毎年増えていきます。

思い込みで収入を抑える前に、ねんきん定期便で自分の基本月額を確かめ、月収と足して65万円と比べてみる。それが、手取りと将来の年金の両方を守る一歩になります。

参考資料

LIMO編集部年金解説班