4. 0円口座が生まれる背景を考える

なぜ口座を開いたまま買付をしていない方がこれほどいるのか。調査結果そのものには理由は書かれていませんが、いくつかの見方ができます。

4.1 開設のハードルが下がったことの裏返しでもある

口座開設はオンラインで完結できるようになり、金融機関のキャンペーンをきっかけに開いた方もいるでしょう。開くこと自体が容易になった分、開設と買付の間に距離が生まれやすくなっています。

口座があるだけでは何も起きません。ただ、開いてあること自体は無駄ではなく、始めようと思ったときにすぐ動ける状態ではあります。

4.2 高年代ほど割合が高いことには理由がありそう

70歳代で50.1%、80歳代以上で73.5%という数字は、他の年代と明らかに水準が違います。旧制度の一般NISAで買い付けた分が非課税期間を終えて残高がなくなった口座や、相続や資産整理の過程で使われなくなった口座が含まれている可能性があります。

この点は調査結果からは読み取れませんので、断定はできません。年代が上がるほど0円の割合が高い、という事実の確認にとどめておきます。

5. 数字は分母を確かめてから使う

筆者は一次資料をもとにしたデータ記事を書きながら、校閲の仕事にも携わっています。統計の数字で最も間違いが起きやすいのは、割合の分母がすり替わっているときです。

5.1 同じ調査の中に、性格の違う集計が並んでいる

今回の調査でも、口座数の集計と投資枠の利用状況別の集計は数が一致しません。0円の割合を出すときにどちらを分母にするかで、結果は変わってきます。

記事や資料で「NISA口座の36.6%が0円」という表現を見かけたら、その分母がどちらなのかを一度確かめてみてください。出典にあたる手間を惜しまないことが、数字を誤って受け取らないための近道です。

5.2 高年代の口座は、資産の引き継ぎとも関わる

筆者は相続診断士と終活ガイドの資格を持ち、家族の介護にも関わってきました。その経験から言えるのは、使っていない口座ほど本人以外には見えにくいということです。

残高がなくても口座は残ります。金融機関がどこにいくつあるのかを紙に書き出しておくだけでも、後から確認する側の負担は軽くなります。

6. 口座数だけを見ても実態はつかめない

この調査を引用するときに、間違えやすい点を整理します。

6.1 口座数の分母が2つある

口座数の集計は2820万6434口座、投資枠の利用状況別の合計は2855万8925口座で、35万ほど差があります。前者は金融機関の変更に伴う変更前口座と廃止口座を差し引いた数で、後者はその処理をしていないためです。

0円の割合を出すときは、同じ表にある2855万8925を分母にする必要があります。2820万口座を分母に使うと、割合がわずかにずれます。

6.2 買付額は旧制度分を含んだ累計

7兆1384億円という金額は、平成26年から令和5年までの旧制度と、令和6年以降の現行制度の買付額を合計したものです。「新NISAが始まってから7兆円」ではありません。

また、これは買付額であって残高ではありません。値上がりや値下がり、売却による増減は反映されていない点も押さえておいてください。

6.3 年間の枠と、生涯の枠は別に決まっている

今回の集計に出てくる360万円は年間投資枠の上限です。内訳はNISAのつみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、両方を使えば年360万円まで投資できます。

これとは別に、非課税で保有できる限度額が生涯で1800万円と定められています。うち成長投資枠で使えるのは1200万円までです。年間の枠を使い切っている口座でも、生涯の枠にはまだ余地があるということになります。なお令和5年末までの旧制度で保有している分は、この1800万円とは別に管理されます。

7. 自分の口座を確かめる3つの手順

口座を持っている方は、まず現状の確認から始めましょう。

7.1 口座の状態と、今年の枠の使用額を見る

金融機関のウェブサイトやアプリで、NISA口座の残高と、その年に使った投資枠の金額を確認します。枠は1月から12月までの1年単位で、使い切らなかった分は翌年に繰り越せません。

口座があること自体を忘れていた場合は、どの金融機関で開いたかから確認が必要です。NISA口座は1人1口座で、金融機関の変更は年単位で手続きできます。

7.2 使う目的と時期を先に決める

運用益が非課税になるのがNISAの利点ですが、利益が出なければ非課税の効果もありません。いつ何に使う資金なのかを決めてから、金額と商品を選ぶ順序になります。

数年以内に使う予定のある資金は、値動きのある商品には向きません。元本割れの可能性がありますので、生活費や近い将来の支出とは切り離した資金で考えてください。

7.3 iDeCoとの違いを踏まえて使い分ける

NISAは運用で得た利益が非課税になる制度で、掛金の所得控除はありません。掛金が全額所得控除の対象になるのはiDeCoのほうです。両者は役割が違いますので、片方だけで判断せずに比べてみてください。

iDeCoは原則60歳まで引き出せず、受取時に課税される場合もあります。どちらが向いているかは収入や家計の状況で変わりますので、迷うときは金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談してみましょう。

8. まとめにかえて

NISA口座数は2820万6434口座まで増え、半年で4.6%伸びました。最も多いのは50歳代の553万1813口座で、40歳代から60歳代までで全体の半分を超えています。

一方、買付額が0円の口座は1044万6488で、全体の36.6%にあたります。30歳代の29.0%に対して70歳代は50.1%、80歳代以上は73.5%と、年代によって差がありました。口座数の伸びと、実際に使われているかどうかは別の話だということです。

まずは自分の口座がどちらなのかを確認するところから始めてみてください。使う目的と時期を決めてから金額を考える、という順序であれば、無理のない範囲で判断できます。

参考資料