6. 【元自治体職員の実感】額面の年金額と、手元に残る金額は違う
ここまで見てきた平均年金月額は、いずれも額面の金額です。実際に口座へ入る金額は、ここから保険料などが差し引かれたあとの金額になります。
筆者は元自治体職員で、国民健康保険と後期高齢者医療の保険料を計算する仕事をしていました。年金から保険料を差し引く特別徴収のしくみを実務で扱っていたので、額面と入金額の差に驚かれる方が多いことも知っています。
6.1 年金から差し引かれるもの
年金からは、介護保険料、後期高齢者医療保険料または国民健康保険料、そして所得税や住民税が差し引かれることがあります。差し引かれる項目や金額は、年齢や所得の状況によって変わります。
窓口では「年金は増えたはずなのに入金額が減っている」という相談がよくありました。年金額の改定と保険料の改定はどちらも年度ごとに行われるため、両方が重なると実際の入金額の動きが読みにくくなります。
6.2 住民税の判定と保険料の計算は同じではない
給付金の要件にある「世帯全員が市町村民税非課税」は住民税の話ですが、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の計算は、住民税とまったく同じ計算ではありません。
住民税で使う配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除などは、国民健康保険料の所得割には適用されないためです。そのため住民税が変わっても保険料が動かないことがあり、この点は窓口でよく説明していました。
7. 【落とし穴】平均額を自分の見込額と取り違えてしまう
記事や資料で見る「平均15万円」という数字を、自分もそのくらい受け取れるだろうと受け止めてしまうことがあります。実際には分布に大きな幅があります。
先に見たとおり、厚生年金でも月額10万円未満の方が19.0%、女性では38.2%を占めていました。平均は全体をならした数字にすぎないという前提で見ておくほうが安全です。
7.1 世帯単位で見ると判定が変わることもある
給付金の要件は世帯単位で判定されます。本人の年金額が少なくても、同じ世帯に住民税が課税されている方がいると対象になりません。
配偶者と2人暮らしで、配偶者に一定の収入がある場合などは注意が必要です。逆に、配偶者を亡くしたあとに世帯の状況が変わり、新たに要件を満たすこともあります。
8. 【対応策】自分の見込額を確認したうえで、選択肢を検討する
不安を先取りする必要はありません。まずは自分の数字を把握するところから始めましょう。
8.1 見込額を確認する方法
受け取れる年金額を知るには、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」が手がかりになります。50歳以上の方には、現在の加入状況が続いた場合の見込額が記載されています。
「ねんきんネット」を使えば、パソコンやスマートフォンから条件を変えた試算もできます。働き方を変えた場合にどう変わるかを見ておくと、判断の材料が増えます。
8.2 年金額が少ない場合に検討できること
加入期間が40年に満たない場合は、60歳以降に国民年金へ任意加入して満額に近づける方法があります。ただし保険料の負担が発生するため、増える年金額と支払う保険料を見比べて判断したいところです。
受け取りを遅らせる繰下げ受給で金額を増やす選択肢もあります。一方で、税金や社会保険料、加給年金などに影響することもあるため、事前に年金事務所へ相談することをおすすめします。
なお、繰下げによって年金収入が増えると、年金生活者支援給付金の所得要件から外れることも考えられます。どちらが有利かは一人ひとりの状況で変わるので、単独で判断せず窓口で確認してみてください。
8.3 相談先
年金額や給付金の要件については、年金事務所やねんきんダイヤルが窓口です。住民税の課税状況や保険料の計算根拠は、市区町村の担当課で確認できます。
9. まとめにかえて
厚生年金の平均年金月額は15万289円でしたが、月額10万円未満の方も19.0%、女性では38.2%を占めていました。平均を自分の見込額と重ねずに、実際の数字を確認しておくことが出発点になります。
年金収入が少ない場合は、年金生活者支援給付金で月額5620円を基準とした上乗せを受けられることがあります。世帯全員の課税状況という要件があるため、本人の年金額だけでは判断できません。
まずは「ねんきん定期便」と通帳を並べて、額面と手元に残る金額の両方を確認してみましょう。そのうえで迷うところがあれば、年金事務所や市区町村の窓口に相談してみてください。
参考資料
太田 彩子