公的年金は、偶数月の15日前後に2カ月分がまとめて振り込まれる仕組みです。通帳に記載される金額は大きく見えても、ひと月あたりに割り戻してみると、日々の生活費との距離が見えてきます。

2026年度の年金額は4年連続のプラス改定となりましたが、増えた金額で生活費を賄えるかどうかは別の話です。とくに一人暮らしのシニア世帯では、収入と支出のバランスがどうなっているのかが気になるところでしょう。

この記事では、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から65歳以上の単身無職世帯の家計収支を確認し、あわせて2026年度の年金額と、多様なライフコースに応じた受給額の例を見ていきます。

鶴田 綾
老後の収支を考えるとき、「年金がいくらもらえるか」だけを見て終わってしまう方が少なくありません。

ただ、本当に知りたいのは「その金額で暮らせるのか」ではないでしょうか。だからこそ、年金額と生活費は必ずセットで見ていただきたいところです。

この記事では、まず実際の家計データで支出の水準を押さえ、そのうえで年金額の例と突き合わせていきます。

順番としては、支出から先に見るほうが判断しやすくなります。

なお、65歳以上単身無職世帯の家計収支およびライフコース別の年金額に関する詳しい解説は、下記の2記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
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【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
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ココがポイント
  • 65歳以上の単身無職世帯は、ひと月の実収入13万1456円に対して支出が16万1435円。差し引き2万9980円の赤字で、平均消費性向は125.3%に達します。
  • この家計データには介護費用が含まれておらず、住居費も1万1416円と低めです。健康状態や住まいの条件によっては、支出がさらに上乗せされます。
  • ライフコース別の年金額は、厚生年金期間が中心の男性で17万6793円、国民年金期間が中心の女性で6万1771円。現役時代の働き方によって11万円以上の差が生まれます。

1. 65歳以上・単身無職世帯の家計収支|ひと月2万9980円の赤字という現実

まずは、一人暮らしのシニア世帯が実際にどのような収支で暮らしているのかを確認します。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、65歳以上の単身無職世帯のひと月の家計収支データを見ていきましょう。

1.1 65歳以上《単身》無職世帯ひと月の家計収支

収入の9割は年金|実収入13万1456円

■うち社会保障給付(主に年金):12万212円

実収入13万1456円のうち、12万212円が社会保障給付です。割合にすると約9割で、一人暮らしのシニア世帯の家計は、ほぼ公的年金で支えられていることになります。

支出は収入を上回る|合計16万1435円

■うち消費支出:14万8445円

  • 食料:4万2545円
  • 住居:1万1416円
  • 光熱・水道:1万5565円
  • 家具・家事用品:6069円
  • 被服及び履物:3049円
  • 保健医療:8388円
  • 交通・通信:1万3601円
  • 教養娯楽:1万6132円
  • その他の消費支出:3万1681円
    • うち諸雑費:1万4052円
    • うち交際費:1万6956円
    • うち仕送り金:591円

■うち非消費支出:1万2990円

  • 直接税:7072円
  • 社会保険料:5912円

支出合計16万1435円の内訳は、食費や住居費などの「消費支出」が14万8445円、税金や社会保険料などの「非消費支出」が1万2990円です。

赤字2万9980円・平均消費性向125.3%が示すもの

  • ひと月の赤字:2万9980円
  • エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合):28.6%
  • 平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合):125.3%

収入13万1456円に対して支出が16万1435円ですから、差し引き2万9980円の赤字です。平均消費性向125.3%という数字は、使えるお金の1.25倍を支出しているという意味で、その差は貯蓄の取り崩しなどで埋めていることになります。

エンゲル係数は28.6%。食料費が消費支出のおよそ3割を占めており、削りにくい支出が家計の中で大きな比重を持っていることがわかります。

ただし、この家計収支データには注意すべき点があります。まず、支出に「介護費用」が含まれていません。住居費も1万1416円と低めで、これは持ち家で住宅ローンを完済している世帯が多く含まれるためと考えられます。賃貸住まいであれば、この項目は大きく変わってきます。

また、「非消費支出」が示すとおり、年金暮らしが始まっても税金や社会保険料の支払いは続きます。多くのシニアがこれらを年金から天引きで納めている点も踏まえると、年金収入と日常の生活費だけでなく、こうした固定費まで含めた生活設計が必要になります。

1.2 【独自試算】毎月2万9980円の赤字は、貯蓄を何年で削るか

赤字2万9980円という金額は、単月で見ればそれほど大きくないように感じるかもしれません。ただ、老後は長く続きます。この赤字を貯蓄で埋め続けた場合、どれくらいの期間もつのかを試算してみましょう。

  • 1年あたりの赤字:2万9980円 × 12カ月 = 35万9760円
  • 65歳から90歳までの25年間の累計:899万4000円

つまり、この水準の赤字が続くと、25年間で約900万円が必要になります。逆に、手元の貯蓄額から「何年もつか」を計算すると次のようになります。

  • 貯蓄500万円:約13年10カ月 → 65歳から取り崩すと78歳ごろに尽きる
  • 貯蓄1000万円:約27年9カ月 → 同じく92歳ごろ
  • 貯蓄1500万円:約41年8カ月 → 同じく106歳ごろ

この試算で押さえておきたいのは、赤字額が変わると期間が大きく動くという点です。介護が必要になったり、賃貸で家賃負担が続いたりすれば、月々の赤字は2万9980円では収まりません。仮に赤字が月6万円になれば、期間は単純におよそ半分になります。

※総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の65歳以上単身無職世帯の平均値を用い、赤字額が一定で推移すると仮定した単純計算です。物価変動、年金額の改定、医療・介護費の増加、運用による増減、退職金や相続などの収入は考慮していません。実際の家計は個人ごとに異なります。

鶴田 綾
この家計データを見るときは、「平均」であることを念頭に置いてください。持ち家か賃貸か、都市部か地方かで、住居費も光熱費も大きく変わります。住居費が1万1416円という数字は、持ち家の世帯が平均を押し下げている可能性が高いと考えられます。

ご自身が賃貸で暮らす予定なら、この項目は実際の家賃に置き換えて計算し直す必要があります。逆に、削減の余地を探すなら通信費や保険料など、毎月固定で出ていくものから見直すのが効率的です。

一度見直せば効果が続きますので、食費を我慢するより負担感が小さいはずです。

2. 2026年度の年金額|国民年金+1.9%・厚生年金+2.0%の改定後はいくらか

現役時代の年金加入状況によって、老後の受給額は一人ひとり異なります。加えて年金額は、物価や現役世代の賃金動向を踏まえて毎年改定されます。

2026年度の年金額は、前年度より国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられました。日本年金機構が公表している金額を確認しておきましょう。

2.1 【2026年度】国民年金と厚生年金の年金額例

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額):1人分):7万608円(+1300円)
  • 厚生年金(夫婦2人分):23万7279円(+4495円)

※昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金の満額は月額7万408円(対前年度比+1300円)
※厚生年金は「男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)」で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

国民年金の保険料は全員一律ですが、厚生年金は会社員や公務員などが加入し、収入に応じた保険料を納める仕組みです。そのため、老後の受給額にも個人差が表れやすくなります。

ここで先ほどの家計データと突き合わせてみると、国民年金の満額7万608円だけでは、単身世帯の支出16万1435円の半分にも届きません。この差をどう埋めるかが、老後の設計そのものになります。年金以外に使える制度については、60歳・65歳以上がもらえる公的給付金をまとめた記事もあわせて確認しておくとよいでしょう。

鶴田 綾
ここで挙がっている「厚生年金23万7279円」という金額は、夫婦2人分の合計です。単身の方がこの数字を自分に当てはめてしまうと、見通しを大きく誤ります。

もう1点、いずれも額面の金額だという点にも注意してください。実際には介護保険料や国民健康保険料、所得税・住民税が差し引かれます。

先ほどの家計データで「非消費支出1万2990円」と出ていたのが、まさにこの部分です。

年金額の話と手取りの話は別物として整理しておくと、必要な貯蓄額の見積もりがぶれにくくなります。

3. 多様なライフコース別の年金額|5つのパターンで見る受給額の差

働き方や生き方が多様化するなかで、「将来、自分はどのくらいの年金を受け取れるのか」は誰にとっても気になるところでしょう。

厚生労働省は年金改定の発表とあわせて、多様なライフコースに応じた年金額の例も示しています。年金加入歴を5つのパターン(男性2パターン、女性3パターン)に分け、「2026年度に65歳になる人」を想定した概算が提示されています。

3.1 パターン①:男性・厚生年金期間中心

年金月額:17万6793円

  • 平均厚生年金期間:39.8年
  • 平均収入:50万9000円※賞与含む月額換算。以下同じ。
  • 基礎年金:6万9951円
  • 厚生年金:10万6842円

3.2 パターン②:男性・国民年金(第1号被保険者)期間中心

年金月額:6万3513円

  • 平均厚生年金期間:7.6年
  • 平均収入:36万4000円
  • 基礎年金:4万8896円
  • 厚生年金:1万4617円

3.3 パターン③:女性・厚生年金期間中心

年金月額:13万4640円

  • 平均厚生年金期間:33.4年
  • 平均収入:35万6000円
  • 基礎年金:7万1881円
  • 厚生年金:6万2759円

3.4 パターン④:女性・国民年金(第1号被保険者)期間中心

年金月額:6万1771円

  • 平均厚生年金期間:6.5年
  • 平均収入:25万1000円
  • 基礎年金:5万3119円
  • 厚生年金:8652円

3.5 パターン⑤:女性・国民年金(第3号被保険者)期間中心

年金月額:7万8249円

  • 平均厚生年金期間:6.7年
  • 平均収入:26万3000円
  • 基礎年金:6万9016円
  • 厚生年金:9234円

5つのパターンを並べると、厚生年金に長く加入し、かつ収入が高かった人ほど老後の年金額が多くなる傾向がはっきり見えます。最も多いパターン①の17万6793円と、最も少ないパターン④の6万1771円では、11万円以上の開きがあります。

現役時代に「国民年金の期間が中心だったか」「厚生年金の期間が中心だったか」で、老後の水準が大きく変わるわけです。とくに基礎年金は加入期間だけで決まるため、差がつくのはほぼ厚生年金部分です。

働き盛りの現役世代にとって、いまの働き方や収入は、目の前の家計だけでなく、遠い将来の年金額まで左右する要素だといえます。

鶴田 綾
5つのパターンを見て「自分はどれに近いか」を考えるとき、注目していただきたいのは平均厚生年金期間です。

パターン①は39.8年、パターン④は6.5年。この差がそのまま年金額の差になっています。いま20代から50代の方であれば、厚生年金に加入する期間を延ばせる余地はまだあります。

パートやアルバイトで働く方の社会保険の適用も段階的に広がっていますので、「扶養の範囲で抑える」ことが将来にとって有利かどうかは、一度計算して確かめてみる価値があります。

目先の手取りと将来の年金額は、しばしば逆方向に動きます。

4. 監修者コメント:平均値の家計データを、自分の家計に翻訳するために

熊谷 良子

家計調査のデータは、老後の生活を考えるうえで非常に有用な資料です。ただ、これは全国の対象世帯を平均した数字であって、どこかに実在する一世帯の家計簿ではありません。

この記事の数字をご自身に当てはめるときは、「どの項目が自分と違うか」を一つずつ確認していく作業が必要になります。

とくに差が出やすいのが住居費です。持ち家でローンを完済していれば固定資産税と修繕費が中心になりますが、賃貸であれば家賃がそのまま毎月かかり続けます。

この一点だけで、赤字額は大きく変わります。記事でも触れられているとおり、介護費用が含まれていないという点も見落とせません。

私自身、家族の介護を経験して実感したのは、介護は「いつから、どれくらいの期間」が読めないという点です。介護保険には自己負担の上限を定める仕組みや、所得に応じた軽減の制度があります。

ただ、多くは申請しなければ適用されません。制度を知らないままでいることが、そのまま負担につながってしまう領域です。

ライフコース別の年金額についても、ご自身がどのパターンに近いかを確認したうえで、ねんきん定期便やねんきんネットで実際の記録を照らし合わせてみてください。

そのうえで、支出のほうを整えていく。数字を眺めて不安になるより、確認と手続きを一つ進めるほうが、生活は確実に前に進みます。

4.1 【独自試算】5つのライフコース別年金モデルのうち、単身世帯の支出を賄えるのは1つだけ

この記事には、単身無職世帯のひと月の支出(16万1435円)と、ライフコース別の年金月額という2種類のデータが並んでいます。両者を突き合わせると、それぞれのパターンが単身の生活費を賄えるかどうかが見えてきます。

  • パターン①(男性・厚生年金中心)17万6793円 → +1万5358円で足りる
  • パターン③(女性・厚生年金中心)13万4640円 → ▲2万6795円
  • パターン⑤(女性・第3号中心)7万8249円 → ▲8万3186円
  • パターン②(男性・国民年金中心)6万3513円 → ▲9万7922円
  • パターン④(女性・国民年金中心)6万1771円 → ▲9万9664円

5つのパターンのうち、単身無職世帯の平均的な支出を年金だけで賄えるのは、パターン①のみという計算になります。それも余裕は月1万5358円ほどで、介護費用や賃貸の家賃が加われば足りなくなる水準です。

一方、国民年金期間が中心だったパターン②・④では、毎月10万円近い不足が生じます。年間に換算すると約117万円から約120万円。この規模の不足を貯蓄だけで埋め続けるのは現実的ではなく、就労の継続や公的給付の活用、支出構造そのものの見直しが前提になります。

なお、パターン③の女性・厚生年金中心(13万4640円)は、先ほど見た単身無職世帯の実収入13万1456円とほぼ同じ水準です。つまり家計調査に表れている「毎月2万9980円の赤字」は、決して例外的な状況ではなく、標準的なライフコースを歩んだ場合に起こりうる姿だといえます。

※この記事に掲載された単身無職世帯の支出合計(16万1435円)と、厚生労働省が示すライフコース別の年金月額を単純に比較した目安です。ライフコース別の金額は2026年度に65歳になる人を想定した概算であり、単身世帯を前提としたものではありません。税・社会保険料の控除、加給年金などの加算は考慮していません。