12. 「毎月いくら使っていいか分からない」から「手取りで決められる家計」へ。ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平に聞く、組み直しの順番

日頃のご相談で意外に多いのが、「収入は分かっているのに、毎月いくらまで使ってよいのかが分からない」というお話です。額面と手取りのずれ、そして月ごとの変動が、その原因になっていることがあります。ここでは、家計の組み直しについて相談に訪れた40歳代の方の一事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの神田翔平さんに伺った考え方を紹介します。

12.1 「平均的な月」を前提にした家計から、収入の変動を前提にした家計へ

残業や賞与によって手取りが動く働き方では、平均的な月を基準に暮らしを設計してしまいがちです。少ない月に足りなくなり、賞与で帳尻を合わせる。その繰り返しで、固定費の見直しが後回しになっていきます。相談の場では、次のような声をうかがいます。

40代(ご相談者)
残業の多い月と少ない月とで手取りが変わるので、毎月いくらまで使っていいのかがはっきりしません。固定費も見直したいと思ってはいるのですが、何にいくらかかっているのかを把握できていなくて、結局ボーナスで埋め合わせている状態です。

家計を立て直すとき、最初に必要なのは節約ではなく現状把握です。このご相談でも、支出を分類し直すところから着手し、住居費の上限を検討する流れになりました。手取りは、税や社会保険料が差し引かれたあとの金額です。差し引かれる額は収入や世帯の状況によって変わるため、まずはご自身の給与明細で実際の手取りを確認しておくと、以降の話が進めやすくなります。

12.2 【ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平が回答】節約から始める家計から、現状把握から始める家計へ

神田 翔平

普段の生活費の中でいくらまで使えるのかが、明確になっていない中でいきなり具体的な手段を考える前に、普段の支出を明確化するところから始めてみましょう。
支出を明確にできるとまずは、どの項目から改善できるかが見えてきます。

そのうえで、日々の収入に対して無理に捻出している部分がないかどうかを確認しましょう。固定費を削減することができたら、その次の手段として節税や、資産運用などのお金に働いてもらう手段を考えていきましょう。

お金の計画を立てる際は、現状把握→課題発見→改善策のサイクルを意識しながら都度都度見直しも考慮しながら進められるといいですね。

家計の組み直しは、支出を減らす前に「見える形にする」ことから始めると無理がありません。ご相談のなかでは、次の三つの順序でお話しすることが多くあります。

12.3 ポイント1:「何にいくらか分からない」状態から、固定費と変動費が分かれた状態へ

一つ目は、「固定費と変動費を分けて洗い出す」ことです。毎月必ず出ていくものと、月によって動くものを分けるだけで、削れる余地がどこにあるのかが見えてきます。手取りの何割が固定費に充てられているのかを把握するところから始めると、そのあとの判断が進めやすくなります。何割までに抑えるべきかという一律の正解があるわけではなく、家賃や住宅ローン、家族構成によって適切な水準は変わります。まずはご自身の数字を出してみることが先で、目安はそのあとで考えれば十分です。

12.4 ポイント2:平均の月を基準にした設計から、手取りの少ない月を基準にした設計へ

二つ目は、「手取りの少ない月を基準に上限を決める」ことです。住居費のように長く続く固定費は、平均的な月ではなく、収入が少ない月でも無理なく払える水準に合わせておく。賞与を前提にしない設計にしておくと、収入が変動しても家計が崩れにくくなります。賞与は業績や制度によって変わりうるものなので、あてにしない前提で組んでおくほうが、結果として選択の幅は広がります。

12.5 ポイント3:置きっぱなしの資産から、役割のはっきりした資産へ

三つ目は、「使っていない資産の役割を見直す」ことです。加入したまま目的が曖昧になっている保険や、置きっぱなしの預金がないか。役割を果たしていない資産を整理することで、家計の見直しと資産形成をつなげて考えられるようになります。ここで見直すのは商品の良し悪しではなく、ご自身にとっての目的です。何のために持っているのかが言葉にできる状態にしておくことが、判断のよりどころになります。

なお、保険を解約する場合、返戻金が払い込んだ保険料を下回ることがあります。また投資信託などの運用商品には元本割れの可能性がありますので、内容や手数料、解約の条件をあわせて確認したうえでご検討ください。

住民税非課税の判定など、税や社会保険の要件については、この記事で基準額や控除額、税率をお示しすることはいたしません。要件は世帯構成や収入の状況、お住まいの自治体の取り扱いによって異なり、制度改正によって変わることもあるためです。ご自身やご家族が該当するかどうか、また手取りにどう影響するかは、税理士やお住まいの自治体の窓口で正確な内容をご確認ください。

家計の前提となる収入の形、家族構成、住まいの状況は一人ひとり異なります。この記事でご紹介したのはあくまで考え方の順序であり、どなたにも当てはまる答えではありません。ご自身の家計に当てはめて具体的に検討される際は、必要に応じて個別に専門家へご相談ください。

13. まとめ|制度の「死角」を知っておけば、優遇措置は取りこぼさない

住民税非課税世帯向けの制度は、医療や介護、日々の生活費の負担を大きく軽減してくれる重要な支えです。

しかし、実際の仕組みとして、収入が低ければ無条件で自動的にすべての恩恵が受けられるわけではありません。適切に申告を行い受給資格を得ること、家族の扶養控除の適用状況を確認すること、そして判定基準となる所得の変動に注意することが大切です。

諸制度のルールを正確に把握し、対象となる給付や優遇措置を確実に活用できるよう、世帯全体の状況を適切に管理していきましょう。

14. 住民税非課税世帯に関するQ&A

制度を利用するにあたり、メリットだけでなく「将来への影響」や「資産の取り扱い」について疑問を持つ方も少なくありません。ここでは、特によくある質問にお答えします。

14.1 Q1. 非課税になると将来の年金額は減る?

A.国民年金保険料の「免除制度」を活用すると、将来受け取る年金額は全額納付した場合よりは少なくなります。しかし、何もせずに「未納」状態にするよりも、はるかに有利な条件といえます。

住民税非課税世帯は、国民年金保険料の免除(全額・半額など)を申請できます。「全額免除」が承認された期間は、保険料を一切支払わなくても、将来の年金額には「2分の1」が国庫負担(税金)によって反映されます。

もし申請せずに「未納」のままにしてしまうと、その期間は年金額に全く反映されません。さらに、万が一の際に障害年金や遺族年金を受け取れなくなるリスクも生じます。

なお、経済的な余裕ができた際には、10年以内であれば免除された保険料を後から納付(追納)できます。追納することで、将来の受給額を満額に近づけることが可能です。

14.2 Q2. 預貯金が多くても非課税世帯になれる?

A.はい、なれます。住民税の課税判断は「前年の所得」に基づいて行われるため、現時点での貯蓄額や資産の有無は直接的には影響しません。

住民税は「フロー(その年にどれだけ稼いだか)」に対して課される税金であり、「ストック(どれだけ保有しているか)」を基準とはしていません。そのため、仮に数千万円の預貯金や不動産を所有していても、前年の所得が自治体の定める基準以下であれば、住民税非課税世帯と認定されます。

ただし、以下の点には注意が必要です。利子・配当所得:預貯金の利子や株式の配当金、売却益などが一定額以上あり、確定申告をした場合は「所得」と見なされ、非課税の基準を超えてしまうことがあります。特定の給付金:自治体が独自に実施する給付金制度などでは、所得制限に加えて「資産(預貯金額)が一定以下であること」を条件とするケースがまれにあります。

14.3 Q3. 自分が非課税世帯かどうか、ネットのシミュレーションツールで正確にわかりますか?

A.ネット上のツールはあくまで「簡易的な目安」です。お住まいの自治体(級地)による基準の違いや、特殊な控除の適用状況までは完全に反映できないため、最終的な判定は必ずお住まいの役所が発行する「課税証明書(非課税証明書)」等で確認してください。

14.4 Q4. 年度の途中で世帯主が亡くなった場合、非課税世帯の判定はどうなりますか?

A.住民税は「毎年1月1日時点」の世帯状況と前年の所得で判断されます。年度の途中で世帯主が亡くなり世帯構成が変わったとしても、その年度の住民税の課税状況は変わりません。翌年度から、新たな世帯主の前年所得をもとに再判定されます。ただし、臨時給付金などについては「基準日(例えば12月1日時点など)」が別途定められるため、自治体の窓口で確認が必要です。

参考資料