4. 定年の引上げは、退職金にどう影響するのか
国家公務員の定年は、いま段階的に引き上げられている途中です。ここは働き方にも退職金にも関わる部分ですので、現時点の状況を整理しておきます。
4.1 2026年度に定年を迎えるのは62歳の方です
国家公務員の定年は、令和5年4月1日から2年に1歳ずつ引き上げられており、令和13年度に65歳となる予定です。2026年度、つまり令和8年度に適用される定年年齢は62歳です。
生年月日で見ると、昭和42年4月2日以後に生まれた方は65歳定年が原則になります。自分がどの年齢で定年を迎えるのかは、生年月日によって決まります。
4.2 60歳以降は給与が7割水準になる
定年の引上げにあわせて、60歳を超えた職員の給与は当分の間、60歳前の7割水準とされています。あわせて管理監督職勤務上限年齢制、いわゆる役職定年制も導入され、原則として60歳以降は管理監督職から外れる仕組みです。
給与が下がると聞くと、退職金も減るのではないかと心配になるかもしれません。この点については、退職手当の計算に60歳前のピーク時の給料月額を用いる特例が設けられています。給与の引下げがそのまま退職手当の減額につながらないよう配慮された仕組みです。
ただし、長く働けば生涯の収入や年金の見込みは変わりますし、役職定年によって職務の内容が変わることもあります。退職金だけを取り出して損得を判断せず、働き方全体で考えることをおすすめします。
5. 退職金は、翌年の保険料には原則として響かない
筆者は役場で国民健康保険と後期高齢者医療の賦課を担当していました。所得の情報をもとに保険料を計算する立場から、退職された方の相談を受けることが何度もありました。
5.1 窓口でよく受けた質問
「まとまった退職金を受け取ったので、来年の保険料が跳ね上がるのではないか」という相談は、退職の時期になると必ずといってよいほど寄せられました。
退職手当は退職所得として、給与や年金とは分けて課税される仕組みです。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の所得割は前年の総所得金額等をもとに計算されますが、この退職所得は原則としてそこに含まれません。つまり、退職金を受け取ったこと自体で翌年の保険料が上がるわけではないということです。
5.2 むしろ注意したいのは退職した年の切り替え
保険料の相談で実際に負担が大きくなりやすいのは、勤務先の健康保険から国民健康保険に切り替わるときです。前年の給与所得をもとに保険料が計算されるため、収入が下がった年ほど負担感が重く感じられます。
この場合、任意継続被保険者として勤務先の健康保険に一定期間残る選択肢や、家族の被扶養者になる選択肢もあります。どちらが有利かは家族構成や収入によって変わりますので、退職前にお住まいの市区町村の担当窓口や勤務先で試算してもらうと判断しやすくなります。
6. 退職金は自己都合かどうかで大きく変わる
数字を見るうえで気をつけておきたい点を挙げておきます。
6.1 自己都合退職では平均345万4000円
令和6年度の常勤職員の自己都合退職の平均は345万4000円で、定年退職の2160万1000円とは6倍以上の開きがあります。退職金を老後資金の柱として見込んでいる場合、途中で退職すると前提が変わることになります。
転職や早期退職を考える場面では、次の職場の条件だけでなく、退職金の見込み額がどう変わるのかもあわせて確認しておくと判断しやすくなります。
6.2 平均額は自分の見込み額ではありません
今回紹介した数字は、あくまで令和6年度に退職した方の実績です。退職手当の額は俸給月額と勤続年数、退職理由に応じて計算されるため、一人ひとりの事情によって変わります。
また、退職手当の支給水準はおおむね5年ごとに民間の実態調査を踏まえて見直されることになっています。数年先の退職を見込んでいる方は、いまの平均額がそのまま当てはまるとは限らない点も頭に置いておくとよいでしょう。
7. 【対応策】まずは自分の見込み額と、老後の収入全体を確認する
不安を先取りするよりも、現状を正しく知るところから始めるのが確実です。
7.1 退職金の見込み額は勤務先で確認
退職手当の見込み額は、勤務先の人事や給与の担当部署で試算してもらえる場合があります。国家公務員の場合は、60歳前に働き方についての情報提供と意思確認を受ける仕組みも設けられています。
見込み額が分かれば、老後の生活費との差もはっきりします。数字が出てはじめて、どの程度の備えが必要かを具体的に考えられます。
7.2 年金の見込み額とあわせて考える
退職金は一時金ですが、老後の生活を支えるのは毎月の年金です。ねんきんネットやねんきん定期便で見込み額を確認し、退職金と合わせて全体像をつかんでおきましょう。
受給開始を遅らせて年金額を増やす繰下げ受給という方法もありますが、税金や社会保険料、加給年金などに影響することもあるため、選ぶ前に年金事務所に相談することをおすすめします。
7.3 足りない部分は現役のうちから少しずつ
退職金と年金だけでは足りないと感じた場合、NISAのつみたて投資枠やiDeCoを使って現役のうちから備える方法があります。ただし、いずれも元本割れの可能性があり、iDeCoは原則60歳まで引き出せず受取時に課税される場合もあります。
制度の向き不向きは家計の状況によって変わりますので、判断に迷うときは金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談してみてください。
8. まとめにかえて
令和6年度の国家公務員の退職手当は、常勤職員の平均で1094万3000円、定年退職に限ると2160万1000円でした。金額帯で見ても2000万円台が最も多く、定年まで勤め上げた場合の一つの目安になっています。
一方で、自己都合退職では平均345万4000円と大きく下がります。退職金がいくらになるかは、勤続年数と退職理由で決まる部分が大きいということです。
定年は2026年度で62歳、令和13年度には65歳へと引き上げられていきます。働く期間が延びるこの時期だからこそ、自分の退職金と年金の見込み額を早めに確認しておきましょう。分からない点があれば、勤務先の担当部署や年金事務所に相談してみてください。
参考資料
太田 彩子