食料品を中心とした値上がりが続いています。総務省の消費者物価指数(全国)は2026年6月時点で前年同月比プラス1.7%、食料にかぎればプラス3.2%の上昇でした。
こうした物価や賃金の動きを受けて、公的年金の額は毎年4月に改定される仕組みです。
2026年度(令和8年度)は国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の引き上げとなりました。ただし、改定の基準となった令和7年の物価変動率はプラス3.2%。「マクロ経済スライド」による調整(基礎年金はマイナス0.2%)もあり、年金の伸びは物価の伸びに追いついていないのが実情です。
だからこそ、「もらい方」「納め方」の工夫が効いてきます。ご自身の将来の年金受給額がどのくらいになりそうか、ねんきんネットやねんきん定期便で確認されたことはありますか。
とりわけ国民年金のみに加入している人の場合は、厚生年金の上乗せ分がないため「公的年金だけを頼る老後生活はかなり厳しい…受給額って想像以上に少ない…」と感じた人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、公的年金をできるだけお得に利用していく工夫をご紹介していきます。
1. この記事の3つのポイント
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国民年金のみの老後は毎月約3万円の赤字に。受給額を増やすなら「繰下げ受給」を活用し、受取額の最大化を目指すのが効果的です。 -
現役時代は「前納割引」や月400円の「付加保険料」、インフレに強い「iDeCo」の活用などを検討しつつ、納め方を工夫して効率よく備えましょう。 -
保険料が払えない時の放置(未納)は厳禁です。将来の年金への悪影響を最小限にするため、必ず「免除・猶予」を申請してください。
2. データで見る実態:国民年金のみの老後、単身世帯は毎月約3万円の赤字に
まずは公的統計で実態を押さえておきましょう。
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和6年度末時点で国民年金(老齢年金)の受給権者の平均年金月額は5万9310円。厚生年金保険(第1号)の老齢年金の平均月額15万289円と比べると、その差は歴然です。
シニア世代の受給額事情はこちらの記事で詳しく紹介しています。老齢年金から天引きされる社会保険料などについても触れていますのでご参考になさってください。
一方の支出側はどうでしょう。標準亭なリタイア世代の家計収支を見てみます。
総務省「家計調査(家計収支編)2025年平均」によると、65歳以上の単身無職世帯は実収入が月13万1456円なのに対し、消費支出14万8445円・非消費支出(税・社会保険料)1万2990円で、毎月2万9980円の赤字に。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯でも、実収入25万4395円に対して毎月4万2434円の赤字となり、不足分は貯蓄の取り崩しでまかなわれている計算です。
仮に単身で月3万円の不足が65歳から95歳までの30年間続けば、取り崩す金額は約1080万円です。
しかし、注意しなければならないのは、この家計調査のデータが「厚生年金を受給している世帯も含めた平均値」であるという点です。
国民年金のみ(平均月額約6万円)で老後を迎える場合、実収入はさらに少なくなり、毎月の赤字幅は先ほどの計算以上に大きく膨らむことが予想されます。
だからこそ、「不足分を貯蓄でどう埋めるか」だけでなく、「終身で入ってくるお金そのものをどう増やすか」という視点が欠かせません。
3. 国民年金のみの人が知っておきたい「年金のもらい方」「保険料の納め方」5つの工夫
3.1 その1「繰下げ受給」
老齢年金の受給開始年齢は「原則」65歳。ただし、希望すれば遅らせて受給を始めることで、受け取る金額を増やすことができます。
受給開始を選べる上限年齢は、2022年4月から75歳まで引き上げられています(昭和27年4月2日以後生まれの方、または平成29年4月1日以後に受給権が発生した方が対象。それ以前の方は上限70歳)。
増額率は「0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」で計算します。日本年金機構のHPより、年齢ごとの増額率を確認していきます。
繰下げ請求時の年齢:増額率
- 66歳:8.4%
- 67歳:16.8%
- 68歳:25.2%
- 69歳:33.6%
- 70歳:42.0%
- 71歳:50.4%
- 72歳:58.8%
- 73歳:67.2%
- 74歳:75.6%
- 75歳:84.0%
※各年齢の0カ月時点。1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ増えます。
2026年度(令和8年度)の老齢基礎年金の受給額は満額で年間84万7296円(月額7万608円)(※)です。前年度から1.9%の引き上げとなりました。
仮にこの年金額をもとに計算すると、繰下げによる増額はおおよそ次のようになります。
- 70歳まで繰下げ(42.0%増):年間約35万5864円増えて、年間約120万3160円
- 75歳まで繰下げ(84.0%増):年間約71万1729円増えて、年間約155万9025円(月額約12万9919円)
※20歳から60歳になるまでの40年間の全期間保険料を納めた場合に受け取れる金額です(昭和31年4月2日以後生まれの方。昭和31年4月1日以前生まれの方は月額7万408円)。
3.2 その2「国民年金前納割引制度」
現役世代が納付する年金保険料をおさえることができる、「国民年金前納割引制度」も、利用しやすい方法のひとつです。
これは、6カ月分や1年分、2年分の保険料をまとめて前納すると割引が適用される制度です。2026年度(令和8年度)の国民年金保険料は月額1万7920円で、毎月納める場合と比べたときの割引額は以下の通りです。
6カ月前納
- 口座振替の場合…1220円
- 現金・クレジットカード…870円
1年前納
- 口座振替の場合…4510円
- 現金・クレジットカード…3820円
2年前納
- 口座振替の場合…1万7370円
- 現金・クレジットカード…1万6010円
また、毎月納付する場合、納付期限より1カ月早く口座振替で納付する「早割」を使えば、年間720円(月60円)が割り引かれます。
3.3 その3「付加保険料の納付」
毎月の国民年金保険料(2026年度は月額1万7920円)に加えて月額400円の「付加保険料」を支払うことで、将来的に受給する年金額を増やすことができます。
ただし、以下の条件に該当する人のみが納付できるので注意が必要です。
- 国民年金第1号被保険者(※1)
- 国民年金の任意加入被保険者(65歳以上の方を除く)(※2)
なお、保険料の免除を受けている方(産前産後期間の免除を除く)と、国民年金基金の加入員は納付できません。
付加保険料を納めると、65歳以降に「付加年金」が上乗せされます。その額は「200円×納付月数」で計算するため、20~60歳の40年間納めた場合だと
- 40年間で納める付加保険料の総額:19万2000円(400円×12カ月×40年)
- 老後「毎年」上乗せで受け取れる年金額:9万6000円(200円×12カ月×40年)
となり、毎年の年金受給額を9万6000円も増やすことができます。
2年でモトがとれる計算です。付加年金も老齢基礎年金と一緒に繰下げれば同じ増額率で増やせるので、少しでも受取額を増やしたい方は活用を検討しましょう。
※1「第1号被保険者」:日本に住む20歳以上60歳未満の自営業者(フリーランス)や農業・漁業者、学生、無職の方など。厚生年金保険や共済組合等に加入している方は除きます。
※2「任意加入被保険者」:保険料の納付期間が短いなどの理由で、60歳以降も国民年金に任意で加入する方のこと。
その4「国民年金基金に加入」
国民年金基金とは、厚生年金に加入していない自営業者などが、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せできる公的な年金制度のことをいいます。
加入できるのは、付加保険料と同じく「国民年金第1号被保険者」「任意加入被保険者(65歳以上の方を除く)」に該当する方です。掛金は全額が社会保険料控除の対象となり、掛金の上限は月額6万8000円(iDeCo〈個人型確定拠出年金〉に加入している場合は合算して6万8000円)です。
ただし、国民年金基金と付加年金の併用はできません(国民年金基金の掛金に付加保険料相当が含まれているため)。
国民年金の付加保険料を納めている場合、国民年金基金に加入する際は付加保険料の納付を停止する手続きをとる必要があります。
皆さんはご自身の「ねんきん定期便」をじっくり見たことはありますか?
日本人の寿命は延び続け、65歳から受給を始めた場合、老後期間が30年以上に及ぶことも珍しくありません。
長生きは喜ばしい反面「長生きリスク(資金枯渇)」への備えも不可欠になります。
早いうちから公的年金の仕組みを知り、無理のない範囲で少しずつ老後資金の土台づくりを始めていくことが、将来の安心へと直結します。


