4. 都道府県別に見ると「老後の必要額」は平均でも差が出る。

「IKIGAI TOWN」を運営するスペシャリスト・ドクターズ株式会社は、この2000万円という試算の考え方を、47都道府県それぞれの年金の受給額と物価の地域差にあてはめて再計算した結果を公表しています。

それによると、老後30年間で必要となる取り崩し額(不足額)が最も少ないのは奈良県で、およそ1639万円。年金額が全国でも高めで、物価が全国平均をやや下回ることが背景にあります。

4.1 老後の必要額が少ない県

  • 1位 奈良県(1,639万円)
  • 2位 愛知県(1,694万円)
  • 3位 千葉県(1,853万円)
  • 4位 兵庫県(1,866万円)
  • 5位 神奈川県(1,874万円)

反対に、最も多いのは山形県のおよそ3095万円でした。年金額が低めで物価が高く、月々の赤字がふくらむ計算です。その差は、およそ1456万円。同じ「老後」でも、住む場所によって用意しておきたい金額が、これだけ変わるという結果です。

4.2 老後の必要額が多い県

  • 1位 山形県(3,095万円)
  • 2位 沖縄県(3,058万円)
  • 3位 秋田県(2,931万円)
  • 4位 高知県(2,916万円)
  • 5位 青森県(2,910万円)

さらに興味深いのは、年金の「額面」が多い地域ほど安心、とは限らない点です。

この試算では、年金の受給額が全国3位の東京都が、不足額でみると全国17位(およそ2181万円)まで順位を下げています。物価が高く、生活費が全国平均を上回るためです。「たくさんもらえるはずなのに、なぜか楽にならない」—そんな感覚の正体が、ここにあらわれているのかもしれません。

「いくらもらえるか」だけでなく「どこで、いくら使うか」まで含めて考えないと、老後の見通しは立てにくい、ということでしょう。あくまで一つの試算ではありますが、「2000万円」という全国一律の数字を、自分の地域に引き寄せて考えるきっかけになりそうです。

5. 数字より大切な「どう暮らすか」

この試算は、住む場所を選ぶことの経済的な影響がある可能性を示しています。年金の額面を数万円増やすのは簡単ではありませんが、物価の落ち着いた地域で暮らせば、月々の赤字はおのずと小さくなります。移住や二拠点生活といった選択が、老後資金の面でも意味を持つ場面がある、というわけです。

とはいえ、住まいはお金だけで決められるものではありません。家族との距離、医療や交通の便、慣れ親しんだ環境—大切にしたいものは人それぞれです。

数字はあくまで判断材料の一つとして受け止め、ご自身が心地よく暮らせる場所を土台に、必要な備えを見積もっていくのがよいのではないでしょうか。まずは、お住まいの地域でおおよそいくら必要になりそうかの見当をつけること。そこから、老後の準備は具体的に動きはじめます。

6. 元証券会社社員からアドバイス

宮野 茉莉子
証券会社で資産運用のお手伝いをしていたころから感じているのは、老後のお金の不安は、漠然としているほど大きくふくらむ、ということです。「2000万円」という数字だけを見て立ちすくむのではなく、ご自身の年金の見込み額と、暮らしにかかるお金を、いちど書き出してみる。それだけで、不安の輪郭がずいぶんはっきりしてきます。裏を返せば必要額は暮らし方で変わるからこそ、平均の数字に振り回される必要はない、ということでもあります。今回の試算も、あくまで一つの目安です。大切なのは、正確さを競うことではなく、おおよその目標額を決めて、毎月少しずつでも先に取り分けていくこと。むずかしい商品を選ぶ前に、まずは家計の現在地を知ることから始めてみてください。それが、地域を問わず、老後のお金と落ち着いて向き合うための第一歩になります。

参考資料

宮野 茉莉子