4. 未請求で5年分消滅も?判断能力低下が招く年金手続きの注意点
年金受給者またはこれから受給する人が認知症になった場合、本人ではなく家族だけで年金事務所に来られるケースもあります。
「親の年金がどうなっているのか分からない」「本人に確認できる状態ではない」という状況で、家族は加入履歴や基礎年金番号、年金の受給状況が一切わからないということも珍しくはありません。
年金振込口座がわからないため介護費用などの支払いができなかったり、そもそも請求をしていないため年金が支給されていなかったりして、家族が困ることもあります。
家族が年金状況の確認や請求手続きをするには原則委任状が必要ですが、本人に意思能力がないことを証明することによって、確認や手続きができるケースもあります。ただし、本人が行うより手間がかかり、年金記録の確認など本人でなければできないこともあります。
4.1 認知症に備えてやっておきたい3つの対策
認知症のリスクは誰にでもあります。いつ発症するかわからないため、判断能力が確かなうちにできることは済ませておきましょう。
最初にやるのは、年金の請求手続きや年金記録の確認です。未請求のまま放置しておくと、認知症などで請求できなくなるおそれもあります。請求が遅れると、5年より前の分は受け取れなくなるため、早めの手続きがお勧めです。
また、年金記録が正しいかどうかは家族でもわからないことが多いため、記録漏れなどに気づいたらすぐに年金事務所で相談しましょう。
次に、年金情報を家族が確認できる形にしておきます。基礎年金番号や年金証書の保管場所、年金の受取口座が分かれば、いざというとき家族がスムーズに手続きできます。繰下げ受給するために待機している場合、待機中であることもわかるようにしておきましょう。
最後に、介護費用などに対する備えです。老後資金を増やす、繰下げ受給などで年金額を増やす、などの対策が考えられます。定年後も再雇用などで働くことは、給与収入を確保する、老齢厚生年金額を増やす、繰下げ受給をしやすくなる、などのメリットがあります。
5. まとめにかえて
社会保険労務士としてのこれまでの経験から申し上げると、認知症に伴う年金手続きのトラブルや家計の逼迫は、事前の「情報共有」と「早めの手続き」で防げるものが大半です。
認知症は決して他人事ではなく、誰にでも起こりうるものです。仮に年金が月20万円あっても、施設に入所して介護費用に月13.8万円かかれば、老後の家計は一気に苦しくなります。さらに判断能力が低下すれば、せっかく納めてきた年金を有効に活用できなくなるリスクもあります。
いざという時にご自身とご家族を守るためにも、年金請求などの必要な手続きは後回しにせず、今日からでも年金情報の家族共有を始めてみてください。
参考資料
- 厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
- 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
- 政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
西岡 秀泰