4. 所得税と住民税の計算ステップ
退職金が控除枠を超えた場合、その超えた部分に対して税金がかかります。実際の計算は以下のステップで行われます。
- 退職所得の金額を出す:(退職金の額面 - 退職所得控除額) × 1/2
- 所得税を計算する:退職所得の金額 × 所得税の税率 - 控除額(※復興特別所得税も加算)
- 住民税を計算する:退職所得の金額 × 住民税の税率(基本的には一律10%)
4.1 【計算例:勤続30年で退職金2000万円の場合】
- 退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年)= 1500万円
- 退職所得の金額:(2000万円 - 1500万円) × 1/2 = 250万円
この「250万円」に対して所得税(税率10%・控除額9万7500円等を適用)と、住民税(10%の25万円)がかかります。
結果として、税金の合計は約40万円前後となり、手取り額は約1960万円といった形になります。
※勤続年数が5年以下の場合は計算式が異なる場合があります
5. 【要注意】「申告書」の出し忘れ
ここからが実務上、注意すべきポイントです。会社から退職金を受け取る際、手続きを一つ忘れるだけで、一時的に手取りが大幅に減ってしまう場合が考えられます。
5.1 「退職所得の受給に関する申告書」の提出は必須
退職金を受け取るまでに、勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。これを提出していれば、会社が上記の正しい税金計算を行い、税金分だけを差し引いて口座に振り込んでくれます(=確定申告は不要になります)。
しかし、この申告書を出し忘れると、退職所得控除などの優遇措置が一切適用されず、退職金の額面金額に対して一律20.42%もの所得税等が源泉徴収されてしまいます。
2000万円の退職金なら、約408万円が引かれて振り込まれるといった事態になりかねません。
万が一出し忘れた場合でも、翌年にご自身で確定申告を行えば払いすぎた税金は還付されますが、退職直後のキャッシュフローに大きな影響が出るため、退職手続きの際は書類の提出漏れがないか十分に確認しておきましょう。
6. 【最新動向】退職金課税の見直し議論と今後の情報収集
退職金の税金ルールについては、国会や関係省庁で様々な議論が行われています。これから退職を迎える方は、最新の動向にも目を向けておくことが大切です。
働き方の多様化が進む中、政府の税制調査会などでは「長く同じ会社に勤めた人(勤続20年超)の控除額が急激に増える仕組みは、転職をためらわせる要因になっているのではないか」という議論がなされています。
現時点(2026年)で制度が即座に変更されたわけではありませんが、将来的には勤続年数にかかわらず1年あたりの控除額が一律化されるなど、税制が改正される可能性も指摘されています。
制度の仕組みは時代とともに変化します。退職が数年先の方は、現在の計算式だけでなく、毎年の税制改正大綱など関連ニュースをチェックし、受け取り方の選択肢(一時金か年金か)について早めに情報収集を進めておくといいでしょう。
7. まとめ
退職金にかかる税金の計算ルールと、実務上の手続きのポイントは以下の通りです。
- 税制上の優遇:退職金には勤続年数に応じた大きな「退職所得控除」があり、税負担が軽く設計されている。
- 2分の1課税:退職金から控除額を引き、さらにその「半分(1/2)」に対してのみ課税される。
- 勤続20年が分岐点:勤続20年を超えると、1年あたりの非課税枠が40万円から70万円へと大幅に増える。
- 手続きの注意点:勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、一律20.42%が源泉徴収されてしまう場合がある。
- 最新動向: 勤続年数による優遇ルールの見直し議論があるため、今後の税制改正には注意が必要。
退職金は、長年の勤労の対価として老後の土台となる大切な資産です。まずはご自身の勤続年数をもとに「非課税枠」を計算し、実際の手取り額がいくらになるのかを把握してみることをお勧めします。
8. 編集者コメント:手取り額の把握から、老後の選択肢を広げる』
税制の仕組みを理解し、申告書の手続きなどの基本的なルールを押さえることで、不必要な不安や一時的なキャッシュの減少を防ぐことができます。
税引き後の手取り額をベースに、老後の生活資金や、必要に応じた資産形成の選択肢について、ご家族とともに検討してみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 国税庁:「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁:「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁:「No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)(令和4年1月1日以後)」
齊藤 慧
