健康への関心が高まりやすいシニア世代にとって、公的医療保険制度は老後の暮らしを支える大切な柱です。

来月8月には、前年の所得に基づいた窓口負担割合の定期見直しが控えており、ご自身の負担がどう変わるか気になっている方も多いのではないでしょうか。

2026年現在、「団塊の世代」がすべて75歳以上となり後期高齢者の割合が増えるなか、医療費の自己負担の仕組みは多くの家庭にとって重要なテーマといえるでしょう。

特に75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、世帯の所得状況に応じて窓口での負担が「1割・2割・3割」に区分されます。

2025年秋には2割負担世帯への負担軽減措置がすでに終わっており、支払額の増加を実感する方も増えているかもしれません。

「老後資金だけで生活できるだろうか」という不安を軽くするためにも、将来の医療費負担を左右する判定基準を事前に把握しておくことが大切です。

この記事では、後期高齢者医療制度の基本と、自己負担割合を決める収入・所得の基準について、公的なデータを基にわかりやすく解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  75歳以上の医療費窓口負担は、世帯全体の所得状況に応じて「1割・2割・3割」のいずれかに判定されます。
  •  ご自身の年金収入が少なくても、配偶者の所得などによっては世帯全体で2割や3割負担になる場合があります。
  •  医療費の増加に備えて「高額療養費制度」を理解し、毎年8月の負担割合見直しを確認する習慣が大切です。
熊谷 良子

厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、公的年金や恩給を受給している高齢者世帯のうち、4割以上(41.3%)の世帯が収入の「すべて」を年金に依存しているというデータがあります。

収入源が限られているシニア世帯にとって、今回のテーマである「医療費の窓口負担割合」の判定は、毎月の家計を大きく左右する非常にシビアな問題。

医療費や保険料の制度は複雑ですが、ご自身や親御さんの負担が何割になるのか、どんな基準で決まるのかを正しく把握しておくこと大切です。

2. 【75歳から】後期高齢者医療制度の基本をわかりやすく解説

後期高齢者医療制度は、75歳以上の方を対象とした公的医療保険制度です。原則として75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた健康保険の種類や働いているかどうかに関わらず、自動的にこの制度へ移行します。

また、65歳から74歳までの方でも、一定の障害があると認定された場合は、ご本人が申請することによって後期高齢者医療制度に加入できます。

制度への切り替えに際して、原則として特別な手続きは必要ありません。

後期高齢者医療制度に移行すると、医療機関で支払う窓口負担は一律ではなくなります。

負担割合は、世帯の所得や住民税の課税状況などに基づいて判定され、「1割」「2割」「3割」のいずれかが適用されます。どの区分に該当するかで、実際に支払う医療費は大きく変わってきます。

それでは、この制度では医療費の自己負担割合がどのような基準で決まるのか、具体的に見ていきましょう。

3. 【年収いくらから?】後期高齢者の医療費「1割・2割・3割負担」判定基準を早見表で確認

後期高齢者医療制度では、医療機関の窓口で支払う自己負担の割合が、被保険者の所得水準に応じて3つの区分に分けられています。この判定は世帯単位で行われ、以下のいずれかの割合が適用されます。

1割負担:標準的な所得水準の人

多くの後期高齢者の方がこの区分に該当します。後述する2割負担や3割負担の条件に当てはまらない場合は、原則として1割負担です。

2割負担:一般所得者のうち、一定以上の所得がある人

1割負担と3割負担の間に位置する区分で、所得が一定の基準を超えると適用されます。制度開始当初は急な負担増を緩和するため、2025年9月末まで「2割負担の人への配慮措置」がありましたが、この措置はすでに終了しています。

3割負担:現役世代と同程度の所得がある人

課税所得や収入額が一定の基準を超え、「現役並み所得者」と判定された場合に適用される区分です。3つの区分のなかで最も自己負担の割合が高くなります。

ご自身やご家族がどの区分に当てはまるのか、判定の基準となる所得や収入の具体的な目安を詳しく解説します。

この判定は毎年8月に定期的な見直しが行われるほか、所得の修正申告や世帯構成の変更があった場合にも、その都度見直される仕組みです。

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準2/3

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準

出所:政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」

3.1 1割負担の対象者【一般所得者】

下記の2割、3割の基準に該当しない場合

3.2 2割負担の対象者【一定以上の所得がある方】

次の①と②の両方に当てはまる場合

  • ①同じ世帯の被保険者のなかに課税所得が28万円以上の方がいる。
  • ②同じ世帯の被保険者の「年金収入」と「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。

・1人の場合は200万円以上
・2人以上の場合は合計320万円以上

3.3 3割負担の対象者【現役並み所得者】

同じ世帯の被保険者のなかに課税所得が145万円以上の方がいる場合

上記に加えて、以下の収入などの要件を満たす方。

  • 世帯内に被保険者が1人の場合:被保険者の収入金額の合計が383万円以上
  • 世帯内に被保険者が2人以上の場合:被保険者全員の収入金額の合計が520万円以上
  • 世帯内に被保険者が1人で、かつ70歳以上75歳未満の人がいる場合:被保険者と70歳以上75歳未満の人の収入金額の合計が520万円以上

4. 【世帯単位で判定】単身と夫婦で異なる医療費負担の注意点

後期高齢者医療制度では、医療費の窓口負担割合を判定する際に、ご本人だけの収入ではなく、同じ世帯にいる後期高齢者全員の所得を合算して判断する仕組みになっています。

そのため、「自分の収入は少ないから負担も軽いはず」と思っていても、実際には想定と異なる判定になることがあるため注意が必要です。

例えば、ご自身の年金収入がそれほど多くなくても、同じ世帯の配偶者などに一定以上の所得があれば、世帯全体として「現役並み所得者」と見なされることがあります。その場合、医療機関での窓口負担割合は3割になってしまいます。

判定の目安として重要なのが、「世帯内に課税所得145万円以上の後期高齢者がいるかどうか」です。この条件に当てはまると、その世帯は原則として現役並み所得者と判定され、3割負担になる可能性が高まります。

特に、夫婦のどちらか一方に年金やその他の収入が多い世帯では、単身世帯よりも世帯合算の基準額を超えやすい傾向にあります。

この制度では「個人の所得だけ」で判断するのではなく、配偶者を含めた世帯全体の所得状況で負担割合が決まるという点を、あらかじめ理解しておくことが大切です。

熊谷 良子

窓口負担の判定で意外と見落としがちなのが、「世帯単位」での計算です。

「自分の収入は少ないから1割負担のはず」と思っていても、ご家族の所得と合算されて3割負担になるケースがあります。

また、J-FLECの2025年調査によると、70歳代(単身世帯)の金融資産「中央値」は500万円にとどまり、約2割の世帯が貯蓄ゼロという現実も。

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出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

もし負担割合が上がってしまった場合、貯蓄でカバーできる世帯ばかりではありません。

将来の所得コントロールを意識し、早めに計画的な資産形成をしておくことが、いざという時の選択肢を広げてくれますよ。

5. 【医療費が高額になったら】高額療養費制度で負担を軽減

「窓口負担が2割や3割になると、医療費が際限なく高くなってしまうのでは?」と心配になるかもしれません。

そうした負担を軽くするため、医療費が高額になった場合に家計を支える仕組みとして「高額療養費制度」が用意されています。

これは、1カ月(同月内)に医療機関の窓口で支払った医療費の自己負担額が上限を超えた場合、申請によって超えた分が払い戻される制度です。ただし、保険適用となる診療が対象で、入院時の食事代などは対象外となります。

自己負担の上限額も所得に応じて決められており、一般的な所得水準の方であれば数万円程度に収まるようになっています。

また、現在はマイナ保険証を利用することで、窓口での一時的な立て替え払いを不要にする仕組みも普及しています。受診時にマイナ保険証(または事前の申請による限度額適用認定証)を使えば、窓口での支払いを最初から自己負担上限額までに抑えることが可能です。

たとえ入院や手術で医療費の総額が高額になったとしても、過度な負担が生じないようなセーフティネットが機能しているのです。

6. 5歳以上の「約7割」が通院中!データで見るシニアの健康状態と通院事情

医療費の負担を考えるうえで、シニア世代が実際にどのような健康課題を抱えているかを知ることも重要です。

厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」の概況によると、65歳以上の方の健康状態には特徴的な傾向が見られます。

病気やけがなどで自覚症状のある「有訴者」の割合は、65歳以上で1000人あたり392.6人となっており、多くの方が何らかの不調を抱えながら生活しています。

また、病院や診療所に通っている「通院者」の割合はさらに高く、65歳以上で1000人あたり678.6人、75歳以上に限ると707.6人と、約7割の方が日常的に通院していることがわかります。

熊谷 良子

同調査によると、通院の理由として特に多いのが「高血圧症」で、男女ともに第1位となっています。

男性は次いで「糖尿病」「脂質異常症(高コレステロール血症等)」、女性は「脂質異常症」「眼の病気」が上位に挙がっており、生活習慣病や加齢に伴う疾患で継続的な治療を受けている様子がうかがえます。

制度の仕組みや自己負担割合の基準を理解しておくことはもちろんですが、こうしたデータからもわかるように、年齢とともに通院の機会は増える傾向にあります。

6.1 【注意点】2割負担の「配慮措置」は2025年9月末で終了済み

2割負担の対象となる方については、これまで「1カ月の外来医療における窓口負担の増加額を3000円までに抑える」という配慮措置がありました。しかし、この措置は2025年9月30日をもって予定通り終了しています。

2025年10月1日以降は、外来の上限額が本来の「月1万8000円(年間上限14万4000円)」となっているため、受診の頻度によってはこれまでよりも窓口での支払額が増加する可能性があります。

2割負担に該当する方は、今後の家計管理において医療費の変動をあらかじめ見込んでおくことが重要です。

7. 【毎年8月に見直し】医療費負担割合の判定時期と変更の流れ

後期高齢者医療制度の窓口負担割合は、一度決まったらずっと変わらないわけではありません。

毎年8月に、前年の所得を基にして定期的な判定が行われます。

前年より所得が増えれば負担割合が引き上げられる可能性がありますし、反対に所得が減った場合には、より低い区分へ変更されることもあります。

また、配偶者との死別で単身世帯になったり、世帯構成が変わったりした場合にも、負担割合が見直されることがあります。

毎年8月の見直しの時期や、世帯に変化があったタイミングで、ご自身の負担割合を確認する習慣をつけておくと安心です。

8. まとめ:今後の医療費負担増も見据えた老後資金の管理が重要に

後期高齢者医療制度における窓口負担割合は、所得水準や世帯構成によって決まりますが、医療保険制度を取り巻く環境はこれからも変化していく可能性があります。

その一つが、すでに始まっている「子ども・子育て支援金制度」です。これは少子化対策を社会全体で支える仕組みとして創設され、後期高齢者医療制度でも保険料に支援金に相当する額が反映されます。被保険者1人あたりの負担は月額およそ200円程度(試算)とされています。

一人ひとりの負担額は小さく感じられても、年間では数千円程度の負担になるため、家計への影響を実感する世帯も出てくるでしょう。

少子高齢化が進むなか、医療保険料や関連する負担は今後も緩やかに増えていくことが予想されます。

制度の仕組みや改正の動向を理解し、こうした追加の負担も踏まえて家計全体を見通しておくことが、老後の暮らしを安定させるうえで重要なポイントになるでしょう。

※支援金額は、お住まいの都道府県後期高齢者医療広域連合が定める条例に基づき、個人の所得等に応じて決まります。支援金額の月額についてはお住まいの市町村にお問い合わせください。なお、後期高齢者医療広域連合ごとに支援金に係る保険料率が異なります。また、令和8年4月分からの拠出となりますが、具体的な徴収開始時期はご加入の広域連合にお問い合わせください。

熊谷 良子

J-FLECの2025年調査では、70歳代で「年金生活にゆとりがない」と感じる世帯が9割近くにのぼり、その最大の理由に「物価上昇」が挙げられています。

今後も新たな支援金の拠出などで、家計への負担が緩やかに増えていく可能性があります。

筆者は官公庁のデータを日々読み解いていますが、公的制度は毎年のように変化しており、「知っているか知らないか」で老後の安心感は大きく変わります。

働き方が多様化するいま、ご自身の働く環境を整えるとともに、早い段階から制度の知識を身につけ、インフレにも対応できる家計の仕組みづくりを進めていきましょう。

参考資料