5. 【FPが伝えたい】見込み額の"先"まで確認する重要性
筆者はFPとして年金や老後資金に関する記事を執筆するなかで、年金額の試算では「いくら受け取れるか」だけに目が向きやすいと感じています。
先ほど確認したように、年金の見込み額や平均月額は、老後の生活設計を考えるうえで重要な出発点です。
しかし、実際の老後生活では、年金の額面がそのまま使えるわけではありません。場合によっては、所得税や住民税、医療保険料、介護保険料などが差し引かれるためです。
額面と手取りの差を把握せずに老後の収支計画を立ててしまうと、いざ年金生活が始まってから「思ったより使えるお金が少ない」と感じる原因になりかねません。
老後資金を考える際は、以下の3点を確認しておきましょう。
①ねんきん定期便やねんきんネットで見込み額を確認する
まずは、自分自身の加入履歴にもとづいた年金の見込み額を把握することが出発点になります。
②税金や社会保険料が差し引かれた後の手取り額を意識する
額面の年金額だけでなく、次章で確認するような税金・保険料が差し引かれた後の金額で、生活費をまかなえるかどうかを考える必要があります。
③生活費との差額を、貯蓄や就労収入でどう補うか考える
手取り額を把握したうえで、毎月の生活費と比べて不足が生じる場合は、貯蓄の取り崩しや、定年後の就労収入でどう補うかを早めに検討しておくことが大切です。
年金の見込み額は老後資金を考えるうえで重要な目安ですが、実際の生活設計では手取りベースで確認することが大切です。
次章では、実際に年金から差し引かれる税金・保険料の具体的な項目について、ひとつずつ見ていきましょう。
老後資金の計画を立てる際は、必ずこの「手取り額」をベースに毎月の生活費との差額を算出することが不可欠です。不足分を補うためには、iDeCoや新NISAを活用した長期の資産形成に加え、65歳以降も無理のない範囲で就労を継続し、厚生年金の受給額を増やしたり受給開始時期を繰り下げたりする選択肢も視野に入れておくと安心です。
6. 年金から天引きされるお金、何がいくら引かれる?
では、実際に年金から天引きされるお金について、項目ごとに確認していきましょう。
6.1 (1)所得税および復興特別所得税
公的年金は、原則として所得税の課税対象です。
ただし、年金収入のすべてに税金がかかるわけではなく、公的年金等控除などを差し引いた後の金額をもとに税額が計算されます。
収入が年金のみであっても、一定額を超えると源泉徴収の対象となり、年金の支給時に所得税および復興特別所得税が差し引かれます。
6.2 (2)住民税および森林環境税
住民税は、前年の所得をもとに市区町村が計算する税金です。年金収入がある人も、所得の状況によっては住民税の課税対象になります。
年金から特別徴収される場合は、あらかじめ決められた金額が支給額から差し引かれる仕組みです。
また、2024年度からは森林環境税も住民税とあわせて徴収されています。年金生活に入っても、前年の所得に応じて税負担が発生する点に注意が必要です。
6.3 (3)国民健康保険料
会社を退職して職場の健康保険を外れた後、国民健康保険に加入する人もいます。その場合、国民健康保険料が年金から差し引かれることがあります。
保険料は、前年の所得や世帯の状況、住んでいる自治体などによって異なります。
医療保険料は老後の家計に影響しやすいため、退職後にどの医療保険へ加入するのかも確認しておきたいところです。
6.4 (4)後期高齢者医療保険料
75歳以上になると、原則として後期高齢者医療制度に加入します。
後期高齢者医療保険料は、所得や地域によって金額が異なり、原則として年金から差し引かれます。
年金額を確認する際は、医療保険料がどの程度引かれているかも見ておくと、実際の手取り額を把握しやすくなります。
6.5 (5)介護保険料
65歳以上の人は、介護保険の第1号被保険者となります。
介護保険料は、要介護認定を受けているかどうかにかかわらず、所得などに応じて負担するものです。
多くの場合、年金から天引きされます。介護サービスを利用していない人でも保険料の負担は続くため、年金生活の固定的な支出として考えておく必要があります。
このように、年金からは所得税・住民税に加えて、加入する医療保険や介護保険の保険料まで、複数の項目が差し引かれます。
先ほど試算した月額や平均月額は、あくまでこれらが差し引かれる前の金額である点を、あらためて意識しておきましょう。
また、現役時代よりも収入が減る中で、固定費として引かれ続ける保険料の負担感は想像以上に重く感じられる傾向があります。年金受給が始まる前から、ご自身が住む自治体の保険料基準を確認しておくことや、退職直後の税金・保険料のピーク(前年所得ベースで課税されるため)に備えた「バッファー用の資金」を用意しておくことが、失敗しない老後家計づくりの鍵となります。
7. まとめ|年金は「額面」ではなく「手取り」で考える
公的年金は老後収入の柱ですが、受給額は加入してきた制度や現役時代の収入、保険料を納めた期間によって変わります。
今回の試算では、平均年収400万円・加入期間38年の場合、国民年金と厚生年金を合わせた年金額は月額約13万6500円となりました。
一方、実際の受給者の平均月額は15万289円であり、男女間でも5万円以上の差があるなど、平均額だけを見ても自分の老後生活を正確にイメージするのは難しいのが実情です。
さらに、実際の年金生活では、所得税・住民税に加え、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料といった複数の項目が年金から差し引かれます。
額面の年金額がそのまま手元に残るわけではない、という点は特に押さえておきたいポイントです。
まずは、ねんきん定期便やねんきんネットで、自分の加入履歴にもとづく見込み額を確認することが重要です。
そのうえで、税金や社会保険料が差し引かれた後の手取り額を意識し、生活費との差額を貯蓄や就労収入でどう補うか、早めに整理しておきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 公的年金の仕組み」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「は行 報酬比例部分」
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
- 日本年金機構「年金から介護保険料・国民健康保険料(税)・後期高齢者医療保険料・住民税および森林環境税を特別徴収されるのはどのような人ですか。」
- 日本年金機構「「年金額改定通知書」と「年金振込通知書」(年金受給者用:はがきサイズ)」
加藤 聖人
