3. 平均年収約610万円・約40年加入の男性は「月額17万6793円」
厚生労働省は「多様なライフコースに応じた年金額(概算)」という資料で、加入状況別に65歳時点の年金水準を推計しています。
この資料によると、約40年にわたり厚生年金へ加入し、現役時代の平均年収が約610万円だった男性のケースでは、2026年度の年金額は月額17万6793円が目安とされています。約7万円の基礎年金に、収入に見合った報酬比例部分が加わった金額です。
会社員として長く働いてきた人の受給水準としては、比較的高い部類に入ります。一方、国民年金だけの人は月6万円前後にとどまる例が多く、ライフコースによる差は小さくありません。
4. 国民年金・厚生年金の平均受給額
実際に年金を受け取っている人の平均額も見てみましょう。厚生労働省の統計では、次のようになっています。
- 国民年金の平均月額:全体5万9310円(男性6万1595円、女性5万7582円)
- 厚生年金の平均月額:全体15万289円(男性16万9967円、女性11万1413円)※国民年金部分を含む
月17万円台という610万円モデルの水準は、男性の平均(約17万円)とほぼ重なります。長く厚生年金に加入した会社員の、現実的な着地点といえるでしょう。
詳細な金額を知りたい場合は、ねんきん定期便やねんきんネットを活用してみましょう。特に、ねんきんネットはいつでも年金記録や見込額、通知書などを確認できるため、便利なサービスです。
5. 年金で賄えるのは基礎生活費。娯楽費は「楽しみのために働く」も選択肢
会社員歴が長い人は、公的年金で食費や住居費といった基礎生活費をカバーできるケースがほとんどです。月17万円前後の年金があれば、日々の暮らし自体はおおむね成り立つのではないでしょうか。
ただし、旅行や趣味、孫へのプレゼントといった「娯楽費」までは賄いきれません。老後を楽しむための上乗せ資金は、貯蓄や運用などで自分自身で用意しておく必要があります。
そこでおすすめしたいのが、心身ともに健康であれば「娯楽費用を稼ぐために働く」という選択肢です。生活費のためではなく、自分の楽しみのために働くと割り切れば、仕事へのモチベーションも維持しやすくなります。
たとえば月5万円の収入でも、年間60万円の娯楽予算が生まれます。年金という土台があるからこそ、無理のないペースで、やりがいを感じられる仕事を選べるはずです。
6. 「月額17万6793円」から天引きされる非消費支出|介護保険料・住民税・健康保険のリアルな目減り計算
注意したいのが、国やメディアが提示する「モデル年金額(額面)」をそのまま家計の予算に組み込んでしまう危険性です。
今回のテーマである、平均年収約611万円・加入40年の男性が受け取る「月額17万6793円(年額約212万円)」という数字は、あくまでも税金や社会保険料が引かれる前の【名目上の総受給額】にすぎません。
日本の社会保障制度においては、65歳を過ぎても年金収入がある一定基準を超えると、年金の振込額から直接天引き(特別徴収)される【非消費支出(税金と社会保険料)】が必ず発生します。
単身世帯で年額212万円の公的年金を受け取る場合、お住まいの自治体や公的控除の状況によって多少前後しますが、概算で以下のような天引きが発生します。
- 介護保険料
- 国民健康保険料
- 住民税および所得税
これらを合算すると、年額212万円の額面年金から、年間で約18万〜23万円(月額換算で約1.5万〜1.9万円)余りの社会保険料・税金が天引きされることになります。
つまり、実際の通帳に振り込まれる純手取り額(可処分所得)は、月額17万6793円ではなく、「月額約15万7000円〜16万1000円前後」まで目減りしてしまうのです。
生活費のシミュレーションを立てる際は、「17.6万円あるから安心」と過信せず、非消費支出が約10〜12%近く差し引かれた後の『実質手取り約16万円』をベースラインとして家計の損益分岐点を引くことが、老後破綻を防ぐ絶対の鉄則と言えます。
7. 【世帯防衛・シミュレーション】「単身の17万円」と「夫婦のモデル年金」の格差|配偶者の基礎年金・振替加算を絡めた世帯手取り防衛
公的年金のキャッシュフロー設計においては、おひとりさま(単身世帯)か、あるいは配偶者がいる夫婦世帯かによって、世帯全体の手取り防衛戦略が根底から変化します。
厚労省が公表する「夫婦2人の標準的なモデル年金」では、夫が平均的なサラリーマン(40年勤務)で妻が専業主婦(第3号被保険者として基礎年金のみ40年加入)の場合、夫婦合算の額面給付額は月額で23万円〜24万円規模に達します。
ここで実務家として見逃せないのが、「世帯分離」や「配偶者の年金加入歴」による世帯単位の課税・保険料負担の優遇格差です。先ほど試算した通り、単身男性が1人で月17.6万円(年212万円)を受け取る場合、単独で課税世帯となり各種社会保険料の負担基準が大きく上がります。
これに対し、夫婦世帯で「夫の厚生年金が月16万円+妻の基礎年金が月6.8万円」に分散されている場合、妻の年金水準(年額約81万円)は公的年金等控除の枠内に収まるため、妻自身は【住民税非課税】に該当することが多くなります。
さらに、夫の厚生年金加入期間が20年以上あり、65歳時点で年下の配偶者を養っている場合に発生する「加給年金(年額約40万円)」や、妻が65歳に到達した後に自身の基礎年金に上乗せされる「振替加算」の存在は、夫婦世帯のセーフティネットとして強力に機能します。
8. 可処分所得を守る「セカンド就労」と在職老齢年金・社会保険の壁のコントロール法
「月額約16万円の純手取り年金では、日常生活を送ることはできても、旅行や趣味、孫へのプレゼントといった娯楽費や、突然の病気・家屋修繕に伴う予備費まではカバーしきれない」というのが、ご相談に訪れるシニア世代の偽らざる実感です。
資産の切り崩しを遅らせ、豊かなセカンドライフを実現するためには、60代・70代になっても「楽しみのために無理のない範囲で働き、生活の精神的・経済的余白を作る(セカンド就労)」ことが極めて合理的なアプローチとなります。
しかし、ここで社労士・FPの視点から強く提言したいのが、働きながら年金を受給するシニアが直面する【社会保険の2つの壁】の確実なコントロールです。
1つ目の壁は、会社で厚生年金に加入しながら働く際に適用される「在職老齢年金制度の支給停止基準(50万円の壁など※最新年度基準に準拠)」です。
月々の給料(賞与含む総報酬月額相当額)と、老齢厚生年金の基本月額の合計値が支給停止調整額の上限を超えてしまうと、超えた分の半額が年金から強制的に差し引かれて支給停止となります。現役時代に平均年収610万円を稼いでいた高プロフェッショナルなシニアの方は、定年後も再就職やコンサルタント契約で高い給与水準を維持しやすい傾向にありますが、安易に高い額面給与の設定を受けると、せっかく納めてきた年金がストップし、「労働時間に対して手取りが全く増えていない(働き損)」という事態に陥ります。
2つ目の壁は、就労に伴う「社会保険料の自己負担の発生」です。例えば、パート・アルバイトとして週20時間以上等の要件を満たして勤務する場合、勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することになります。
これにより将来の年金受給額がわずかに上乗せされるメリットはありますが、目先の給料からは毎月一定額の社会保険料が着実に天引きされます。「年金を減らさず、かつ社会保険料や税金の天引きを最小限に抑えて純手取りを極大化させる」ためには、勤務日数を調整したり、あるいは個人事業主(業務委託契約)として働くなど、就労形態や報酬水準を緻密に設計する戦略的な視点が、これからのシニア世代には絶対条件となります。
9. まとめにかえて
平均年収約610万円で約40年働いた男性の年金額は、2026年度で月額17万6793円が目安です。
そのうえで、老後を彩る娯楽費は自分で準備するか、楽しみのために働いて稼ぐ発想を持ちましょう。年金・貯蓄・就労の3つを組み合わせれば、経済面でも気持ちの面でも豊かな老後に近づけます。
10. 監修者コメント:マクロな社会保障の限界を知り、個人として「取り戻す手取り」に集中を
日本の年金制度は、現行の少子高齢化が進む構造の下で給付水準を調整し続ける『マクロ経済スライド』を組み込んでおり、国家財政の持続可能性と引き換えに、受給者個人の実質的な購買力を徐々に引き下げるメカニズムが合意されています。国全体のマクロな制度運営において、かつてのような『年金だけで誰でも悠々自適に暮らせる時代』は期待するのは難しいでしょう。
だからこそ、個人の家計防衛においては『国が変わってくれるのを待つ』姿勢を完全に捨て去り、柴田氏が指摘したような『実務的な知恵』を駆使して、自分自身の通帳の手取りを守り抜くアプローチへ転換する必要があります。確定申告での各種控除の漏れを防ぐこと、働き方の調整で在職老齢年金の減額を回避すること、そして非消費支出の仕組みを正しく理解すること。この厳しい現実を正面から受け止め、可処分所得を1円でも多く防衛する賢明な家計管理を、本日この瞬間から始めていただきたいと願っています。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」
柴田 充輝


