それ以上にインセンティブを持っているのが、経常収支赤字国です。経常収支赤字国がユーロを脱退すると、輸入するたびに外貨であるユーロを購入しなければなりません。そうなると、ユーロは次第に値上がりしていくでしょう。

そうなると、ユーロ建てで借金をしている会社は辛くなります。経常収支が赤字だということは、国全体として過去の赤字分を海外からユーロ建てで借りているということですから、ユーロ建ての借金をしている会社は多いはずなのです。

「次第にユーロが高くなっていくならば、早めに返そう」と考えた会社がユーロ建ての借金を返すとします。そのためにはユーロを買う必要があるので、ユーロが一層高くなります。

それを見た他社が、「先に返さないと、ユーロがどんどん値上がりしてしまう。自分も早く返そう」と考えて返済を急ぐと、ユーロが急激に高くなり。最後の会社はユーロ建ての借金を返済できずに倒産してしまうかもしれません。

そうしたことまで考えると、経常収支赤字国はユーロ圏から抜けるわけに行かず、したがってEUからも抜けられない、というわけですね。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義