5. 赤字家計は何年続く?貯蓄が尽きるまでの目安
ここまで見てきたとおり、75歳以上の後期高齢シニア夫婦の家計は、年金収入から税金や社会保険料が天引きされた結果、毎月およそ2万円の赤字となっています。
この赤字は、貯蓄を取り崩すことで補われているのが実情です。では、この赤字が続いた場合、貯蓄はどのくらいの期間もつのでしょうか。
月2万円の赤字は年間で約24万円に相当します。仮にこの水準が続くとすると、平均的な貯蓄額とされる2362万円は、単純計算で約98年分に相当します。
ただし、この数字をそのまま鵜呑みにするのは危険です。家計調査の支出には、入院や手術にかかる自己負担、介護サービス利用料、施設入所時の費用など、老後に発生しやすい高額支出が十分に反映されていません。先ほど試算したとおり、介護費用が加わるだけで赤字幅は2倍以上に膨らむ可能性があります。
さらに、2362万円という貯蓄額はあくまで「平均値」であり、すべての世帯がこの水準の貯蓄を持っているわけではありません。貯蓄が平均を下回る世帯では、赤字を補える期間はさらに短くなります。「平均貯蓄があるから安心」とは言い切れないのが実情です。
老後の家計を考える際は、月々の収支だけでなく、貯蓄が何年分の赤字を支えられるのかという時間軸の視点を持つことも重要になるでしょう。
6. 後期高齢者医療制度の窓口負担は1割・2割・3割
75歳以上のすべての人が加入する「後期高齢者医療制度」では、前年の所得によって医療費の窓口負担(自己負担)割合が決まります。
負担割合の基本は1割ですが、医療費の増大に対応するため、2022年10月1日より、一定以上の所得がある人の窓口負担割合が1割から2割に引き上げられました。
6.1 負担割合と判定基準
- 1割:現役並み所得者、2割該当者に該当しない方
- 2割:一定以上の所得がある人:下記1、2の両方に該当する場合
- 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の人がいる
- 同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。(1人の場合は200万円以上、2人以上の場合は合計320万円以上)
- 3割:現役並み所得者
- 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上のかたがいる場合(注)一定の基準・要件を満たす場合、窓口負担割合が1割又は2割になるケースがある
この負担増を軽減するための特例措置は、2025年9月末で終了しています。これにより、自己負担が増えるシニア世帯がさらに増える見込みです。
医療費の自己負担が増えれば、その分だけ貯蓄を取り崩すスピードも速まります。家計管理や資金計画を考えるうえでも、ご自身の負担割合を定期的に確認しておくことが大切です。
ここまで見てきたように、後期高齢シニア夫婦の家計は、年金だけでは赤字が生じやすく、貯蓄の取り崩しや医療費負担の変化にも目を配る必要があります。次の年金支払日を迎える前に、ご自身の状況を一度点検しておくとよいでしょう。
7. 監修者コメント:「平均」に一喜一憂せず、自分の家計の"寿命"を計算しておく
平均貯蓄額2362万円という数字だけを見ると安心してしまいがちですが、実際には赤字幅・介護費用の有無・医療費の負担割合によって、貯蓄が持つ期間は世帯ごとに大きく変わります。
私は元銀行員ですが「平均並みの貯蓄があるから大丈夫」と思い込んでいた方が、実際に介護や医療費がかさんで想定より早く資金が目減りしていくケースにたびたび出会いました。今回試算したように、赤字額に介護費用を上乗せしただけで、資産が持つ期間は大きく短くなります。
大切なのは、平均データと自分の状況を比べて安心・不安を判断するのではなく、ご自身の年金の手取り額・毎月の赤字幅・貯蓄額を実際の数字で突き合わせ、「何年分の余裕があるのか」を具体的に把握しておくことです。次の年金支払日を機に、一度ご家庭の数字で試算してみることをおすすめします。
8. まとめ
この記事では、75歳以上の後期高齢者夫婦の生活費と、後期高齢者医療制度の窓口負担割合について見てきました。
年金はそのまま手取りになるわけではなく、所得税や住民税、さらに介護保険料や医療保険料が差し引かれる点に注意が必要です。
また、年金と生活費の差額を埋めるには貯蓄が欠かせませんが、「いくら貯めているか」だけでなく「どれだけ長く使えるか」という視点を持つことが大切です。
ご自身の資産寿命を延ばすために早めに備えるとともに、制度を正しく理解することで、漠然とした不安を和らげるきっかけになれば幸いです。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 総務省「家計調査 家計収支編 2024年〔二人以上の世帯〕」(第3-2表)
- 総務省統計局「家計調査 用語の解説」
- 生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査(速報版)」
- 厚生労働省年金局「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査 貯蓄・負債編 2024年 〔二人以上の世帯〕」(第8-10表)
- 政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」
- 厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」
- LIMO「【75歳以上 後期高齢シニア】夫婦ふたり暮らしの生活費、ひと月どれほど必要?《年金・貯蓄データを紹介》高額療養費制度はどこまで使える? 後期高齢者医療制度の《1割・2割・3割》負担割合のルールも解説《健康状態が家計を分ける分岐点にも》」
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