8月14日は、年金の定期支払日にあたります。振り込まれた金額を眺めながら、家計の先行きを考える方も多いのではないでしょうか。
2026年、「団塊の世代」はすでに全員が75歳以上となり、日本は本格的な後期高齢社会に入りました。
統計や制度の話題としてだけでなく、日々の暮らしの中でも高齢化の進行を実感する場面が増えてきました。
「人生100年時代」と言われる一方、「年金だけで生活は成り立つのか」「手元の貯蓄はどれくらいもつのか」という不安は、決して珍しいものではありません。
この記事では、総務省・厚生労働省の一次資料をもとに、75歳以上の後期高齢シニア夫婦を対象に、生活費・年金・貯蓄のリアルな実態を具体的な数字で確認していきます。
あわせて、後期高齢者医療制度の基本と、医療費の窓口負担割合についても整理します。
なお、75歳以上シニア夫婦の生活費・年金・貯蓄データや医療費負担割合に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. この記事を読むとわかる3つのポイント
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75歳以上夫婦のみ無職世帯は、毎月約2万892円の赤字家計 -
夫婦合算の年金月額は約21万円だが、税・社会保険料の天引きで手取りはさらに目減りする -
平均貯蓄額は2362万円だが、格差が大きく「平均=安心」とは言えない
2. 後期高齢シニア夫婦、ふたり暮らしの生活費はひと月いくら?
総務省「家計調査 家計収支編(2024年)」から、後期高齢シニア夫婦(75歳以上・無職の二人以上世帯)の家計の実像を確認しましょう。世帯主の平均年齢は80.8歳、持ち家率は95.4%です。
2.1 75歳以上夫婦のみ無職世帯:毎月の収入と支出
実収入:25万2506円
- うち社会保障給付(主に公的年金給付):20万7623円
実支出:27万3398円
- 消費支出:24万2840円
- 食料:7万6039円
- 住居:1万7261円
- 光熱・水道:2万2973円
- 家具・家事用品:1万1301円
- 被服及び履物:5050円
- 保健医療:1万7280円
- 交通・通信:2万4520円
- 教育:390円
- 教養娯楽:2万1536円
- その他の消費支出:4万6490円
- 非消費支出:3万558円
- うち直接税:1万1058円
- うち勤労所得税:471円
- うち個人住民税:2877円
- うち他の税:7709円
- うち社会保険料:1万9481円
- うち公的年金保険料:1963円
- うち健康保険料:1万244円
- うち介護保険料:7180円
毎月の家計収支は次のとおりです。
- 実収入:25万2506円
- 実支出:27万3398円
- 家計収支:▲2万892円(赤字)
- 黒字率:▲9.4%
- 平均消費性向(※1)109.4%
- エンゲル係数(※2):31.3%
この結果から、75歳以上の後期高齢シニア夫婦は、平均して毎月およそ2万1000円の赤字を抱えていることがわかります。年金を中心とした収入だけで生活費を賄いきれず、恒常的に貯蓄を取り崩している構図です。
一見小さく見える月々の赤字も、積み重なれば老後の安心感を大きく左右します。この不足分をどう補うかが、これからの生活設計における重要な論点になります。
なお、指標の見方を補足しておきます。
- ※1 平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合)
- ※2 エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)
これらは、限られた収入の中で生活費がどの程度固定化しているかを読み解く手がかりになります。
2.2 支出に見られる後期高齢世帯ならではの特徴
特徴1:住居費の負担が軽い
後期高齢シニア夫婦世帯は持家率が95.4%と非常に高く、住宅ローンが残っている世帯はわずか1.6%にとどまります。多くの世帯がすでに住居費の大きな支払いを終えており、家賃やローンの負担がほぼない点が現役世代との大きな違いです。
この住居費の軽さが家計を下支えする一方、他の支出が膨らんだ場合には吸収しきれない側面もあります。
特徴2:介護費用は含まれていない
家計調査の支出データは、通常の生活を前提とした日常的な支出にとどまり、介護サービス利用料などの高額な費用は原則として反映されていません。
介護が必要になれば、支出は一時的、あるいは継続的に増加します。その分、現在の赤字幅がさらに広がり、貯蓄の取り崩しペースが速まる可能性があります。
2.3 【シミュレーション】介護費用が加わったら赤字はどこまで膨らむ?
先述のとおり、通常の家計調査には介護サービス利用料が含まれていません。そこで、要介護状態になり、月々の介護関連費用(介護サービスの自己負担・介護用品費など)が新たに3万円発生したケースを試算してみましょう。
- 現在の家計収支:▲2万892円(赤字)
- 介護関連費用(想定):+3万円
- 介護費用込みの家計収支:約▲5万892円(赤字)
もともとの赤字幅が2倍以上に拡大する計算です。仮にこの状態が5年間続いた場合、追加で必要になる資金は単純計算で約305万円(5万892円×12カ月×5年)にのぼります。介護費用は発生時期も金額も予測しづらいだけに、平常時の赤字額とは別枠で備えを考えておく必要があるといえるでしょう。
2.4 「ゆとりある生活」との差額にも注意したい
生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査(速報版)」によると、夫婦2人世帯における老後の生活費は、最低限の日常生活費が月平均23万9000円、ゆとりある老後生活費が月平均39万1000円とされています。
一方、実際の収入水準は月25万円前後であり、最低限の生活費をわずかに上回る程度にとどまります。ゆとりある生活を基準にすると、その差は毎月およそ13万円にもなります。
このギャップをどう受け止め、生活水準をどこまで調整するかが、老後の満足度を左右します。だからこそ、リタイア後の生活を支える「年金」と「貯蓄」の関係が重要になってくるのです。
3. 後期高齢シニア夫婦の年金額はいくら?年齢別の平均をチェック
後期高齢者夫婦の家計を考えるうえで、公的年金は最も重要な収入源です。
ここでは、75歳以上を対象に、年齢階層ごとの平均的な年金月額を確認していきます。
年金額は、国民年金(老齢基礎年金)のみを受給するケースと、厚生年金(※)を受給するケースに分けて整理します。なお、厚生年金の金額には老齢基礎年金分が含まれている点に注意してください。
※厚生年金は第1号から第4号まで区分がありますが、本記事では民間企業などに勤務していた方が受け取る「厚生年金保険(第1号)」を「厚生年金」として扱います。
3.1 【年金一覧表】75歳〜90歳以上「厚生年金・国民年金」5歳刻みの平均年金月額
厚生年金
- 75歳〜79歳:15万1377円
- 80歳〜84歳:15万7689円
- 85歳〜89歳:16万5486円
- 90歳以上:16万4027円
国民年金
- 75歳〜79歳:5万9346円
- 80歳〜84歳:5万8454円
- 85歳〜89歳:5万9066円
- 90歳以上:5万5633円
夫が厚生年金、妻が国民年金を受給する夫婦世帯の場合、75歳時点の平均月額(厚生年金15万1377円+国民年金5万9346円)を合算すると、月々の年金額は約21万円という水準になります。これは、先ほどの家計調査における「社会保障給付」(20万7623円)ともほぼ重なる数字です。
ただし、この金額がそのまま家計に回せるわけではありません。年金からも所得税・住民税、さらに介護保険料や医療保険料といった「非消費支出」が差し引かれます。老後の家計を左右するのは額面ではなく、これらを控除した後の「実質的な手取り額」です。リタイア後も、税金や保険料の負担は形を変えて続いていきます。
3.2 【シミュレーション】夫婦合算の年金21万円、手取りはいくらになる?
先ほどの家計調査データによれば、非消費支出(3万558円)は実収入(25万2506円)のおよそ12.1%に相当します。この比率を、夫婦合算の年金額(約21万円)にそのまま当てはめて、手取りの目安を試算してみましょう。
- 夫婦合算の年金額(額面):約21万円
- 天引き率(実収入に対する非消費支出の割合):約12.1%
- 天引き額の目安:約2万5000円
- 手取りの目安:約18万5000円
額面では21万円でも、手取りベースで見ると18万5000円程度まで下がる計算になります。実際の天引き額は、お住まいの自治体や世帯の所得状況によって変動するため、あくまで目安として捉えてください。年金額を家計に組み込む際は、額面ではなくこの手取りベースの数字を基準に考えることが大切です。
4. 後期高齢シニア夫婦の貯蓄額は?平均と内訳を確認
年金と生活費の差額を埋めるために欠かせないのが貯蓄です。75歳以上世帯の貯蓄状況を見てみましょう(平均世帯主年齢は80.6歳)。
総務省「家計調査 家計収支編 2024年〔二人以上の世帯〕」(第3-2表)によると、75歳以上の者がいる世帯(世帯主が75歳以上・無職世帯)の貯蓄事情は以下のとおりです。
貯蓄:2362万円
金融機関:2357万円
- 通貨性預貯金:752万円(31.8%)
- 定期性預貯金:815万円(34.5%)
- 生命保険など:350万円
- 有価証券:440万円(18.4%)
- 貸付信託・金銭信託:6万円
- 株式:238万円
- 債券:41万円
- 投資信託:155万円
金融機関外:5万円
負債:23万円
4.1 貯蓄額には大きな「格差」がある
平均貯蓄額の2362万円だけを見ると、老後資金にある程度の安心感を覚えるかもしれません。
しかし、この平均値は、比較的多くの資産を持つ一部の世帯によって押し上げられている面があります。実際にはこの水準に届かない世帯も少なくなく、貯蓄額の分布には大きなばらつきがあります。
大切なのは、平均より多いか少ないかではなく、自分の貯蓄が老後の赤字や「ゆとりある生活費との差」を何年分カバーできるのかという視点です。月々の不足が続いた場合、現在の貯蓄がどの程度の期間、生活を支えられるのかを具体的に見積もっておく必要があります。
4.2 資産寿命を延ばすための考え方
資産構成を見ると、預貯金が全体の約66%を占める一方、株式や投資信託などの有価証券は約18%にとどまります。安全性を重視した配分である一方、長期化する老後を支えるには課題も残ります。
特に物価上昇が続く局面では、預貯金は名目額が減らなくても、実際に購入できるモノやサービスの量が徐々に減っていくリスクがあります。「いくら貯めているか」だけでなく、「どれだけ長く使えるか」という資産寿命の視点が欠かせません。
リスクを抑えながら資産を分散させる工夫や、自宅を資産として活用するリバースモーゲージなども含め、資産全体でインフレに耐える備えを検討することが、老後の安定につながるでしょう。
あわせて、非課税制度を活用した緩やかな運用の選択肢も知っておくと、備え方の幅が広がります。
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