定年や年金生活が視野に入る60歳代は、貯蓄の「答え合わせ」が気になる年代です。最新調査によると、平均貯蓄額は単身世帯で1364万円、二人以上世帯で2683万円となっています。
ただし、平均は富裕層に引き上げられやすい数値のため、実態に近い中央値とあわせて確認しましょう。後半では、年金の繰上げ・繰下げ受給と「損益分岐点」の考え方も掘り下げます。
1. 【60歳代・単身世帯】平均1364万円、中央値300万円
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の調査によると、60歳代単身世帯の金融資産保有額は平均1364万円、中央値は300万円でした。
- 金融資産非保有:30.4%
- 100万円未満:9.1%
- 2000万円~3000万円未満:5.5%
- 3000万円以上:15.6%
※なお、これから確認する金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
平均と中央値の差は1000万円以上です。約3割が金融資産非保有である一方、3000万円以上を持つ人も15%を超えており、二極化が鮮明になっています。
2. 【60歳代・二人以上世帯】平均2683万円、中央値1400万円
同じ調査では、60歳代二人以上世帯の金融資産保有額は平均2683万円、中央値は1400万円でした。
- 金融資産非保有:12.8%
- 1000万円~1500万円未満:8.9%
- 2000万円~3000万円未満:12.4%
- 3000万円以上:27.2%
単身世帯ほどではないものの、平均と中央値には1000万円以上の差があり、ここでも資産の偏りがうかがえます。
3000万円以上を持つ世帯が27.2%にのぼる一方、貯蓄ゼロの世帯も1割を超えており、二人以上世帯でも二極化が進んでいるといえるでしょう。
3. 貯蓄の二極化を踏まえた老後における家計の考え方
中央値の1400万円は、二人以上世帯の老後を支える原資として十分とはいいきれません。
仮にこれを取り崩しのみで使う場合、たとえば毎月5万円ずつ年金を補うと、20年強で底をつく計算です。さらに、住居の修繕費や医療・介護といった想定外の出費が重なれば、減り方はさらに早まります。
こうした現実を踏まえると、退職金や年金収入とあわせて家計全体を見渡し、「使う・残す・備える」のバランスを早めに設計しておくことが欠かせません。
だからこそ、まずは年金や退職金を含めた「毎月いくら入り、いくら使うのか」を一度棚卸しし、不足額を具体的な数字で把握することが第一歩です。そのうえで、生活費の一部を運用に回して取り崩しのペースを緩める、あるいは就労収入を一定期間維持するなど、原資を長持ちさせる仕組みを早めに組み込んでおきましょう。
4. 【繰上げ・繰下げ受給】年金の「損益分岐点」を解説
老齢基礎年金・老齢厚生年金には、65歳よりも早く受け取る「繰上げ」と66歳以降に受け取る「繰下げ」があります。年金は受給開始を早めるか遅らせるかで生涯の受取総額が変わり、損得が入れ替わる「損益分岐点」を計算できます。
まず仕組みを確認しましょう。繰上げは1カ月あたり0.4%減り、60歳開始なら24%減額されます。繰下げは1カ月あたり0.7%増え、75歳開始なら84%も増額されます。繰上げと繰下げは、いずれも選択後の撤回はできません。
たとえば70歳まで繰り下げた場合、受給開始からおよそ11年11カ月後、82歳前後に65歳開始の総額を追い越します。これがひとつの損益分岐点で、長生きするほど繰下げが有利になる計算です。
逆に繰上げは、早くから受け取れる代わりに、80歳前後で65歳開始の総額に追い抜かれます。何歳まで年金を受け取るかで、有利な選択は変わってきます。
5. その損益分岐点を「気にしすぎない」のが正解
解説したような損益分岐点は存在するものの、そこにこだわりすぎる必要はありません。年金の本質は「保険」であり、損得だけで判断するものではないからです。
理由は、何歳まで生きるかを誰も予測できない点にあります。分岐点より長生きすれば繰下げが得ですが、その前に亡くなれば損になります。当たるかどうかわからない賭けに近いといえます。
年金は本来、長生きという経済的リスクに備える「保険」です。火災保険を「火事が起きなければ損」とは考えないように、受給総額の多寡だけで評価するものではありません。
大切なのは、分岐点の損得ではなく、自分のライフスタイルや健康状態、就労の予定に合わせて時期を選ぶことです。納得して選んだ時期こそが、その人にとっての正解になります。
6. まとめにかえて
60歳代の金融資産保有額は、単身で平均1364万円(中央値300万円)、二人以上で平均2683万円(中央値1400万円)でした。2000万円以上を保有する割合は単身で21.1%、二人以上で39.6%にとどまり、世帯によって大きな差があります。
受給時期は損益分岐点で機械的に決めるより、自分の人生設計に合わせて選ぶのが賢明です。年金を「保険」と捉え直すことで、納得のいくタイミングが見えてきます。
7. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点
年金の繰下げ受給による『損益分岐点』を気にされる方は多くいるでしょう。何歳まで生きれば得をするのか、という計算は確かにひとつの目安になります。
しかし、人の寿命は誰にも予測できません。そのため、損得勘定だけで受給開始時期を決めるのは避けるべきです。
また、本記事のデータが示す通り、60代の貯蓄状況は世帯ごとに大きなばらつきがあります。平均額に届いていないからと焦り、無理に年金を繰り下げて日々の生活費を圧迫してしまっては本末転倒です。
受給時期の判断において優先すべきは、手元の貯蓄と現在の生活費のバランスです。日々のキャッシュフローに無理がないかを客観的に確認し、ご自身の健康状態や就労状況に合わせたタイミングを選択することが、老後の安心を支える確実な防衛策となります。
参考資料
柴田 充輝