2026年度の公的年金額は、国民年金(基礎年金)が前年度比で1.9%、厚生年金は2.0%の増額となりました。厚生労働省が公表した「令和8年度の年金額改定について」によれば、老齢基礎年金は満額で月額7万608円です。
しかし、年金額が増えても物価の上昇は続いており、「この先、老後の生活は大丈夫だろうか」と不安を感じる方も少なくないでしょう。特に、ご自身の家計や老後の備えをすべて一人で担う単身世帯(おひとりさま)にとっては、切実な問題かもしれません。
本記事では、60歳代と70歳代のおひとりさまに焦点を当て、貯蓄額の平均と中央値、そして老後における1カ月あたりの家計収支の実態を詳しく見ていきます。
1. 【60歳代・70歳代】おひとりさまの貯蓄額はいくら?平均と中央値で見る実態
金融経済教育推進機構(J-FLEC)が公表した「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」から、単身世帯の金融資産保有額(金融資産非保有世帯を含む)を見てみましょう。
ここでいう金融資産とは、預貯金に加え、株式や投資信託、生命保険なども含んだ金額です。ただし、日常的に利用する普通預金の残高は含まれていません。
1.1 60歳代・70歳代単身世帯の貯蓄額(平均・中央値)
- 60歳代(単身世帯):平均額 1364万円/中央値 300万円
- 70歳代(単身世帯):平均額 1489万円/中央値 500万円
60歳代では平均額が1364万円であるのに対し、中央値は300万円と、両者には約4.5倍もの差があります。同様に70歳代でも、平均額1489万円に対して中央値は500万円と約3倍の開きが見られます。このデータは、一部の多くの資産を持つ世帯が平均値を押し上げていることを示唆しています。
その一方で、金融資産を全く保有していない「貯蓄ゼロ」の世帯も一定数存在します。単身世帯におけるその割合は、60歳代で30.4%、70歳代で20.4%となっており、特に60歳代では約3人に1人が貯蓄ゼロという状況です。このことから、同世代内でも資産状況には大きな個人差があることがわかります。
2. シニア単身世帯の生活費は月々いくら?1カ月の家計収支を解剖
それでは、老後を一人で暮らすシニアは、毎月どの程度の金額で生活しているのでしょうか。総務省の「家計調査報告〔家計収支編〕(2025年)」を参考に、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)における1カ月間の家計収支の実態を確認してみましょう。
2.1 高齢単身無職世帯の収入と支出(1カ月)
1カ月あたりの収入と支出の主な内訳は、以下の通りです。
- 実収入:13万1456円(そのうち年金などの社会保障給付が9割以上を占める)
- 可処分所得:11万8465円(実収入から税・社会保険料を引いた手取り額)
- 消費支出:14万8445円
- 毎月の不足額:約3万円(▲2万9980円)
支出の内訳を見ると、最も大きな割合を占めるのは食料費で、消費支出全体の約3割に達します。その次に、教養娯楽費、光熱・水道費、交通・通信費などが続きます。また、人付き合いに関連する交際費も1割を超えており、食費や光熱費といった基本的な生活費以外にも、さまざまな費用が発生していることが見て取れます。
ここで注目すべき点は、収入よりも支出が上回っているという事実です。手取り収入である可処分所得に対する消費支出の割合(平均消費性向)は125.3%に達しており、収入だけでは生活費を賄えていない状況です。これは、毎月およそ3万円、年間に換算すると約36万円を貯蓄から取り崩して生活していることを意味します。
3. 毎月の赤字とどう向き合う?年金改定を踏まえた対策とは
この毎月の不足分を補填するのが、現役時代から積み立ててきた貯蓄です。先述の通り、貯蓄額の中央値は60歳代で300万円、70歳代で500万円でした。毎月約3万円、年間で約36万円というペースで貯蓄を取り崩していくことを考えると、老後資金の重要性が改めて浮き彫りになります。
収入の主軸となる公的年金は、2026年度に国民年金で1.9%、厚生年金で2.0%の引き上げが実施されました。しかし、この改定率は物価の上昇率(3.2%)には及んでいません。これは、年金額の改定が賃金の伸び率に連動する仕組みや、年金制度の持続可能性を確保するための調整措置(マクロ経済スライド)が適用されるためで、年金額自体は増えても物価高に追いついていないのが現状です。
このような状況だからこそ、早めにできることから対策を講じておくことが大切です。例えば、通信費や保険料といった固定費の見直し、健康なうちは働き続けて収入を確保すること、あるいは年金の受給開始を遅らせて月々の受給額を増やす「繰下げ受給」なども選択肢の一つです。また、新NISAなどの制度を活用して資産運用を始める方法もありますが、元本割れのリスクも伴うため、生活に不可欠な資金を投じることは避けるなど、慎重な判断が求められます。
どの方法を選ぶにしても、それぞれのメリット・デメリットやリスクを十分に理解した上で、ご自身の状況に合った対策を検討してみてはいかがでしょうか。
4. まとめ:おひとりさまの老後、まずは現状把握から
本記事で見てきたように、60歳代・70歳代のおひとりさまの貯蓄額は、平均では60歳代が1364万円、70歳代が1489万円でしたが、より実態に近い中央値ではそれぞれ300万円、500万円でした。分布グラフからも、資産状況には大きな個人差があることがわかります。
その一方で、65歳以上の単身無職世帯の家計では、毎月約3万円の赤字が生じており、その不足分を貯蓄で補っているのが実情です。2026年度には年金額が引き上げられましたが、物価高が続く中、家計の見直しは今後も重要な課題となるでしょう。まずはご自身の年金見込額や毎月の支出、現在の貯蓄額などを一度しっかりと確認し、現状を把握することから始めてみるのがおすすめです。
※当記事は再編集記事です。
参考資料
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)〔単身世帯〕」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」
- LIMO「【60~70歳代おひとりさまの貯蓄額】平均と中央値を見る。「ふつう」はいくら?2026年度の年金額改定・1カ月の生活費も」
宮野 茉莉子