7月15日に公表された厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、生活にゆとりがある高齢者はわずか6.2%(大変ゆとりがある+ややゆとりがあるの合計)。普通が約4割、そして苦しい(大変苦しい+やや苦しいの合計)が半数となっており、生活に苦しさを感じる高齢者も少なくありません。

60歳を超えてからの資産となると、基本は現役時代から貯めてきた貯蓄と退職金、相続資産になるでしょう。特に退職金については大切な老後資金だからこそ、「お金の置き場所」に悩む方も少なくありません。

川勝 隆登
証券会社で個人のお客さまの資産運用のご相談を受けていたころ、定年が近づいた方から「退職金をどう扱えばいいのか」という相談をよくいただきました。まとまったお金が入る安心感の一方で、「減らしたくない」「でも増やしたい」と気持ちが揺れる方が多かったのを覚えています。退職金の運用は、始める前の準備と、資産の分け方で結果が変わってきます。

今回は65歳以上でゆとりがあると考えられる貯蓄4000万円以上もつ世帯を確認します。また、元証券マンであった筆者が退職金に関する運用で伝えていた注意ポイントについてもご紹介します。

1. この記事を読んだらわかる3つのポイント

  •  65歳以上世帯の貯蓄の実態(平均・中央値・4000万円以上の割合)
  •  無職夫婦世帯の毎月の家計収支
  •  退職金で運用を始める人が注意したいポイント3つ

2. 65歳以上でゆとりがあると考えられる貯蓄4000万円以上の世帯は21.1%

まず、65歳以上の世帯がどのくらい貯蓄を持っているのかをみてみましょう。

2.1 65歳以上の貯蓄額

総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均」によると、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の平均貯蓄額は2564万円、貯蓄を持つ世帯の中央値は1777万円です。

65歳以上の貯蓄額を金額別にみる1/1

65歳以上の貯蓄額を金額別にみる

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要(二人以上の世帯)」

平均と中央値には800万円近い差があります。これは、一部の資産が大きい世帯が平均を押し上げているためで、実感に近いのは中央値のほうといえます。

貯蓄現在高が2500万円以上の世帯は36.3%と約3分の1を占める一方、300万円未満の世帯も14.9%あり、同じ65歳以上でも、世帯による差の大きさがうかがえます。

なお、ゆとりがあると考えられる貯蓄4000万円以上の世帯は21.1%でした。

2.2 65歳以上・無職夫婦世帯の毎月の家計は赤字に

次に、毎月の家計をみておきましょう。

総務省の家計調査(2025年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入25万4395円(うち社会保障給付22万8614円)に対し、消費支出は26万3979円、非消費支出3万2850円で、毎月およそ4万2000円の赤字となっています。

不足分は貯蓄から取り崩して補うことになります。年金収入だけでは毎月赤字になりやすいからこそ、退職金や貯蓄をどう活かすかが、老後の安心を左右します。

3. 元証券会社社員が「退職金で運用をはじめる人」に注意したアドバイス3つ

退職金はまとまった金額がある場合、何で、どれくらい運用をすればいいのか悩む方も多いものです。証券会社出身のFAとして、実際に退職金の運用相談を数多く受けるなかで伝えてきた、注意したいポイントをまとめて3つご紹介します。

3.1 注意点1:退職金の受け取り前から準備を進める

退職金や企業型DCの一時金は、入金までに数カ月かかることも珍しくありません。運用をはじめようとNISA口座の開設や積立設定をする場合には、入金を待たずに先に手続きなどを済ませておくとスムーズに運用へ移れます。

3.2 注意点2:一括投資の効率とタイミングを両立させる

退職金がある場合、積立投資よりリスクがありますが一括投資を検討される方もいるでしょう。まとまった資金は、少しずつ積み立てるより一括で投資したほうが効率的なケースもあります。

ただし、それは相場状況を見極めたうえでの話です。焦って急いで投じるのではなく、タイミングも合わせて判断しましょう。

また、一括投資をするには経験も必要です。少額からはじめてみてまず値動きに慣れること、経済に関連するニュースを見て情報収集を行うことなども、できれば早くからしておきたいものです。

3.3 注意点3:値動きの異なる資産に分散する

退職金を一つの資産に集中させず、債券、株式、投資信託、保険など、値動きの異なる資産を組み合わせておくことが大切です。将来お金を使う場面で、そのときに有利な資産を選べる柔軟性が生まれます。 何にどれくらい使いたいか、目的を持った運用を行いましょう。

4. 金融機関の現場で見てきたプロのアドバイス

川勝 隆登

本記事では65歳以上世帯の貯蓄や生活について確認していきました。老後は趣味などにお金をかけたりと理想の生活をイメージされる方も多いかと思いますが、年金だけで賄っていくのが難しいため生活資金をしっかりと準備しておくことが必要です。しかしながら4000万円以上準備できている世帯は20%ほどで、準備することは簡単ではありません。大きな資金を貯めるには時間がかかりますので、早いタイミングから計画的に準備を進めていきたいところです。

退職金というまとまったお金はその置き場所しだいで、老後の安心を大きく左右します。焦らずに準備を整え、値動きの異なる資産に分けておく—その積み重ねが、これからの長い暮らしを支えてくれるのではないでしょうか。いずれにしても「わが家にあった、バランスの良い最適な資産配分」が肝となります。

退職金をどう運用するかについても、50歳代になってお子さんの巣立ちなどで時間にゆとりが生まれたら、まずは少しずつ情報収集などからはじめてみるとよいでしょう。

参考資料

川勝 隆登