通信事業からAI投資まで幅広く手がけるソフトバンクグループですが、同社は直近の決算で「最終利益が5兆円を超える」という、日本企業として記録的な数字を叩き出しました。
しかし、この巨額の利益は本業の通信サービスや製品の販売から生み出されたものではなく、その大半が特定の未上場株の評価益という特殊な構造を持っています。
一体なぜ、実体のあるモノを売らずにこれほど莫大な利益を上げ、成長を続けることができるのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。
この記事のポイント
- 最終利益5兆円の源泉は、本業の通信事業ではなくファンド事業における投資評価益である
- 利益の大半は「OpenAI」への集中投資がもたらしたものであり、過去にもアリババで同様の集中投資を行っていた
- ソフトバンクグループの実態は、借入を活用して実業を変革する「株式会社型ファンド」である
- 巨額の社債を発行する一方で、資産に対する負債割合(LTV)を厳格に管理し暴落リスクに備えている
- 投資先を組み合わせた「ASI(超知能)戦略」により、AIを中心とした新たなエコシステムの構築を目指している
1. 過去最高益5兆円のカラクリ:利益の源泉は「ファンド事業」
ソフトバンクグループが発表した2026年3月期(FY2025)の決算は、株式市場に大きな衝撃を与えました。
売上高は約7兆7,986億円(前期比7.7%増)でしたが、注目すべきは利益の規模です。親会社所有者帰属当期利益(最終利益)は、前期比333.7%増となる約5兆22億円に達しました。
一般的な事業会社であれば、売上高から原価や経費を差し引いたものが利益となるため、売上高と最終利益の金額がここまで接近することはまずありません。この異常とも言える利益構造は、同社の事業の中身を分解することで明らかになります。
約6兆1,349億円に上る税引前利益のセグメント(事業部門)別内訳を見ると、通信事業などを担う「ソフトバンク事業」の利益は約9,650億円に留まっています。
また、AIコンピューティング事業は約1,372億円の損失を計上しています。では、どこが利益を稼ぎ出しているのでしょうか。
その答えが「SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)事業」です。この部門単体で、税引前利益の全体を上回る約6兆4,446億円の利益を計上しており、事実上、ソフトバンクグループの利益の柱となっています。
税引前利益のセグメント別内訳1/4
出所:決算説明会資料・データシート FY2025を基にイズミダイズム作成
このSVF事業が計上した約457億ドル(約6兆円規模)の当期投資利益は、企業が事業活動で得た現金ではなく、保有している株式の価値が上がったことによる「評価益」が中心です。
そして、その大半をもたらしたのが、生成AI「ChatGPT」で世界を席巻する未上場企業、OpenAIへの投資でした。泉田氏はこの決算の実態を次のようにズバリと表現します。
「終わった2025年度に関しては、OpenAI一本足打法だったといっても過言ではないよね」
つまり、過去最高益の実態は、世界で最も注目を集めるAI企業への投資が大当たりし、その企業価値が急騰したことによるものなのです。
2. OpenAI「一本足打法」はリスクか?ポートフォリオの変遷
利益の大半がOpenAIという一社に依存している状況は、一見すると非常にリスキーに思えます。未上場株の評価は市場環境によって大きく変動するため、OpenAIの評価が落ちれば、ソフトバンクグループの利益も一気に吹き飛ぶ可能性があるからです。
しかし泉田氏は、特定の企業に集中投資する「一本足打法」は、ソフトバンクグループにとって今に始まったことではないと指摘します。
「一本足打法っていうけど、別にソフトバンクの一本足打法って今に始まったことじゃなくて、昔はアリババもそういうふうに言われたんだよ」
実際に過去のポートフォリオ(資産構成)を振り返ると、その極端な投資スタイルが浮き彫りになります。
2019年度末の時点では、中国のIT大手であるアリババ株がポートフォリオ全体の49%を占めており、まさに「アリババ一本足打法」と呼ばれる状態でした。
当時は、SVF1(第1号ファンド)の比率が10%、SVF2(第2号ファンド)に至ってはわずか1%に過ぎませんでした。
2019年度末のポートフォリオ構成比2/4
出所:投資家向け説明会資料 q4fy2020 p.50を基にイズミダイズム作成
そこから数年の間に、ソフトバンクグループはアリババ株のポジションを徐々に整理し、得た資金をイギリスの半導体設計大手Arm(アーム)や、今回の主役であるOpenAIへと振り向けてきました。
時代を牽引するテクノロジー企業をいち早く見つけ出し、そこに巨額の資金を集中させるのが、同社の伝統的な勝ちパターンなのです。
「投資できるタイミングで熱いものにちゃんと張ってるよっていうのが、ソフトバンクグループのポートフォリオなんで」
泉田氏が語るように、現在のOpenAIへの集中は、AIという次世代の「熱いテーマ」に対して、経営トップである孫正義氏が勝負に出た結果だと言えます。
3. 孫正義氏が率いる「株式会社型ファンド」のビジネスモデル
多数の未上場企業に投資し、その評価益で業績を牽引するソフトバンクグループ。泉田氏は、同社のビジネスモデルの実態は、もはや一般的な事業会社ではなく「プライベートエクイティ(未上場株に投資するファンド)」に近いと分析します。
「僕からするとこれってもう投資委託みたいなもんなんだよ。孫さんっていうファンドマネージャーがいて、自分で案件取ってきて投資する」
個人投資家が未上場の有望スタートアップに直接投資することは極めて困難です。しかし、ソフトバンクグループの株を買えば、希代の目利きである孫氏を通じて、世界中の最先端企業に間接的に投資できることになります。
ただし、一般的な投資信託とソフトバンクグループには決定的な違いが2つあります。
1つ目は「実業への関与」です。
一般的な投資信託は、集めた資金で株を買って値上がりを待つだけですが、ソフトバンクグループは異なります。
「投資信託だと通常株買うだけなんですよ。だから実業にインパクトを与えられない。(中略)ただこの孫さんのモデルだと、投資している会社を使って実業を変えていくことができる」
出資先同士を結びつけたり、経営に深く関与したりすることで、投資先企業の事業そのものを成長させ、企業価値を能動的に引き上げることができるのが強みです。
2つ目の違いは「レバレッジ(借入)の活用」です。
通常の投資信託は投資家から集めた資金の範囲内で運用を行いますが、ソフトバンクグループは金融機関からの借入や社債の発行によって自己資金以上の資金を調達し、より大規模な投資を行っています。
これにより、成功時のリターンを劇的に高める仕組みを作っているのです。
4. 巨額の社債とレバレッジ:暴落に備える財務戦略
借入を活用したレバレッジ投資と聞くと、「もし投資先の価値が暴落したら、借金だけが残って倒産するのではないか」という懸念を抱く投資家も多いでしょう。
実際にソフトバンクグループは、高い利回りの社債を頻繁に発行して巨額の資金を調達しており、その財務体質を不安視する声は常に存在します。
しかし、同社はこのリスクに対して明確なルールを設け、厳格なコントロールを行っています。その要となる指標が「LTV(Loan to Value)」です。
LTVとは、保有している資産の価値に対して、純負債(借入金など)がどの程度の割合を占めているかを示す指標です。
2026年3月期末時点での同社のLTVは17.0%に抑えられています。これは、100の価値がある資産に対して、借金が17しかないという状態です。
同社は財務方針として「通常時はLTVを25%未満で運用し、市場が暴落するような異常時でも上限を35%に留める」と宣言しています。
LTVと財務方針3/4
出所:ソフトバンクグループ「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月13日)
仮に現在の投資先の価値が半分に暴落したとしても、LTVは倍の34%になるだけであり、異常時の上限である35%の範囲内に収まります。泉田氏はこの財務コントロールについて次のように評価します。
「万が一暴落相場が起こったとしても、借りてる額が時価評価を上回るってことはないように(コントロールされている)」
さらに同社は、最低でも今後2年間に満期を迎える社債を返済できるだけの現金(流動性)を常に手元に保持するというルールも徹底しています。
ただし、泉田氏は機関投資家ならではの視点として、未上場株の評価額(NAV:Net Asset Value=時価純資産)特有の不確実性リスクにも言及します。
未上場株の価値は市場で日々取引される株価とは異なり、会社側が一定の計算式に基づいて算出した「エクセル上の評価」に過ぎない側面があります。実際に上場して市場で価格がつくまでは、その数字が本当に実現できるかは誰にもわからないという難しさがあるのです。
5. 次なる成長の鍵「ASI(超知能)」戦略の全貌
ソフトバンクグループは単なる投資ファンドとして利益を追求するだけでなく、投資先を組み合わせて新たなテクノロジーの世界を創り出そうとしています。
その中心にあるのが「ASI(アーティフィシャル・スーパーインテリジェンス=超知能)」戦略です。
同社はAIの世界を構築するために、不可欠な4つのテーマを設定し、それぞれに合致する世界的企業をポートフォリオに組み込んでいます。
- AIモデル:頭脳となる生成AI分野には、巨額の評価益をもたらした「OpenAI」
- フィジカルAI:AIを現実世界の物理的な動きに変換する分野には、産業用ロボット大手の「ABBロボティクス」
- AIインフラ:膨大な計算処理に必要な電力を供給する分野には、「SB Energy」
- AIチップ:計算処理を担う半導体の設計分野には、傘下の「Arm」
ASI(超知能)戦略の4つのテーマ4/4
出所:決算説明会資料を基にイズミダイズム作成
このように、AIの進化に必要な「頭脳」「肉体」「電力」「半導体」のすべてを自社の投資先エコシステムの中で完結させようとしているのが、現在のソフトバンクグループの真の姿です。
6. まとめ:事業構造から読み解く今後の焦点
売上高とほぼ同額の5兆円超という最終利益を叩き出したソフトバンクグループ。その業績好調の背景には、OpenAIへの集中投資という大胆な決断と、借入を活用しながらも暴落リスクをコントロールする緻密な財務戦略がありました。
未上場企業を中心とする複雑なポートフォリオを持つ同社は、一般的な事業会社と同じ指標で評価することが極めて困難です。
泉田氏も、機関投資家として同社を分析することの難しさを認めた上で、最後に投資家が着目すべき本質的な価値について次のように結論づけました。
「ソフトバンクグループは今日見たように分析しにくいんですよ。ただ、僕はやっぱり一つ評価すべきだなと思っているのは、孫さんにしかできない投資というのがあるんですよ」
ソフトバンクグループの業績と成長性は、AIという歴史的な技術革新の波を捉え、世界最高峰の企業群を束ねる経営トップの「目利き力」と「実行力」に懸かっていると言えるでしょう。
※本記事は決算情報および動画内容の解説を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。
参考資料
- ソフトバンクグループ株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月13日)
- ソフトバンクグループ株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月13日)
- ソフトバンクグループ株式会社「2026年3月期 投資家向け説明会資料」(2026年5月13日)
- ソフトバンクグループ株式会社「2026年3月期 データシート」
- ソフトバンクグループ株式会社「2020年3月期 投資家向け説明会資料」
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