2026年6月も中旬を迎え、各自治体から送付された新しい住民税の決定通知書や、日本年金機構の「年金額改定通知書」がご自宅に届き始めている頃ではないでしょうか。
今年度の公的年金は物価高を反映して増額改定となりましたが、介護保険料などの天引き額も更新されるため、「額面は増えたのに手取りがあまり増えていない」と日々の生活に不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
長生きが当たり前となり、定年後も働き続けることが一般的になった現代において、シニア世代の生活を守る鍵となるのが、基本の老齢年金とは別に国や雇用保険から支給される「シニア向けの公的給付」です。
これらの制度は、条件を満たせば数十万円単位のお金や毎月の上乗せを受け取れる大切な支援策ですが、最大の注意点は「自分から窓口で申請しない限り、国や役所から支給されることはない」という点です。
本記事では、定年退職や再雇用といった人生の節目で忘れずに手続きしたい「5つの給付金」を整理し、それぞれの受給条件をわかりやすく解説します。
さらに、2026年4月に見直されたばかりの、現役シニアの働き方に直接影響する「在職老齢年金」の最新動向についても詳しく見ていきましょう。
1. 申請しないと受け取れない?定年後やセカンドライフで知っておきたい公的支援
老齢年金や障害年金、遺族年金といった公的年金は、私たちの生活を支える大切な社会基盤です。
しかし、これらの年金は受給条件を満たしたからといって自動的に支給されるわけではありません。
年金を受け取るためには、ご自身で「年金請求書」を提出し、請求手続きをする必要があります。
同じように、国や自治体が設けている多くの「手当」「給付金」「補助金」なども、受け取るためには申請が必須です。
もし申請期限を過ぎてしまったり、必要な書類が不足していたりすると、本来受け取れるはずのお金が減額されたり、最悪の場合には受け取れなくなったりする可能性もあります。
公的な支援制度を必要な時に確実に利用するためには、どのような支援が自分に関係するのかを把握し、手続きをきちんと進めることが重要です。
2. 毎月の年金収入を増やす2つの上乗せ制度
シニア世代の生活を支える公的年金には、基本的な老齢年金に加えて、受給額を増やすための制度がいくつか用意されています。
ここではその中から、老齢年金を受給している方が特定の条件を満たすことで、年金額に上乗せして受け取れる2つの給付制度についてご紹介します。
2.1 【支援制度1】年金生活者支援給付金とは
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給していて、なおかつ所得が一定基準を下回る方を対象とする支援制度です。
この給付金は老齢・障害・遺族の各基礎年金にありますが、今回はシニアの生活に深く関わる「老齢年金生活者支援給付金」に焦点を当てて解説します。
年金生活者支援給付金の受給対象となる条件
- 65歳以上で老齢基礎年金の受給者であること
- 世帯全員の市町村民税が非課税であること
- 前年の公的年金などの収入金額(※1)と、その他の所得の合計額が、昭和31年4月2日以降に生まれた方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前に生まれた方は80万6700円以下(※2)であること
※1 障害年金や遺族年金といった非課税収入は含まれません。
※2 昭和31年4月2日以降に生まれた方で合計額が80万9000円を超え90万9000円以下の場合、また昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下の場合は、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます。
給付金の基準額はいくら?
2026年度の老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度から3.2%の増額となりました。
この基準額をもとに、保険料の納付状況などに応じて実際の給付金額が計算されます(後述の①と②の合計額)。
給付額の具体的な計算式
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480カ月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480カ月
※保険料免除期間に乗じる金額は、毎年度行われる老齢基礎年金の額の改定に応じて変動します。
2.2 【支援制度2】加給年金とは
加給年金は、「年金の扶養手当」や「家族手当」のような制度と説明されることがあります。
これは、老齢厚生年金を受け取っている方が、ご自身より年下の配偶者やお子さんを扶養している場合に、一定の条件を満たすと年金額に上乗せして支給されるものです。
加給年金の受給対象となる条件
- 厚生年金の加入期間が20年(※)以上ある方:65歳に到達した時点(または定額部分の支給が始まる年齢に達した時点)
- 65歳到達後(または定額部分の支給開始年齢に達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった方:在職定時改定時や退職改定時(または70歳に到達した時)
※または、共済組合などの加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が、40歳(女性や坑内員・船員は35歳)以降で15年から19年ある場合も含まれます。
上記のいずれかの時点で、生計を共にしている以下のご家族がいる場合に加算の対象となります。
- 65歳未満の配偶者
- 18歳になった年度の末日を迎えていないお子さん(または1級・2級の障害状態にある20歳未満のお子さん)
ただし、配偶者自身が「被保険者期間20年以上の老齢厚生年金や退職共済年金」を受け取る権利を持っていたり、障害年金などを受給していたりする場合には、配偶者加給年金は支給されません。
加給年金の支給額はいくら?
「加給年金」の年金額(2026年度)は、以下の通りです。
- 配偶者:24万3800円
- お子さん(1人目・2人目):各24万3800円
- お子さん(3人目以降):各8万1300円
さらに、老齢厚生年金を受け取るご本人の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額には3万6000円から17万9900円の特別加算が上乗せされます。
なお、配偶者加給年金は、対象の配偶者が65歳になると支給が終了します。
しかし、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る際に一定の条件を満たしていれば、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一部が引き継がれることがあります。
3. 60歳代以降も働くシニアを支える雇用保険の3つの給付金
60歳を過ぎても働き続けるシニアは増えていますが、現実には「60歳を境に収入が大幅に減少する」というケースも少なくありません(※)。
また、若い頃のように再就職活動がスムーズに進まないこともあるでしょう。
そうしたシニア世代の就労を力強く支援するのが、雇用保険の制度です。
ここでは、知っておきたい「3つの給付金・手当」について、受給条件や金額の目安を解説します。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、年齢階層別の平均給与は50歳代後半の男性で735万円、女性で356万円ですが、60歳代前半では男性604万円・女性294万円、60歳代後半では男性472万円・女性240万円となっています。
3.1 【支援制度3】再就職手当(65歳未満が対象)
再就職手当は、早期の再就職を促進するための制度です。
「失業してから再就職まで」または「失業してから事業を開始するまで」の期間が短いほど、多くの手当が支給される仕組みになっています。
再就職手当の支給条件
- 対象者:雇用保険の受給資格者で、基本手当の受給資格を持つ方
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者として就職するか、または事業主として被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、その他一定の要件を満たす場合に支給されます。
再就職手当の給付率は?
- 手当の額:就職する前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数に応じて、給付率が以下のように変わります(1円未満の端数は切り捨て)。
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の70%」
再就職手当を受け取って新しい職場で6カ月以上働き、その間の賃金が「前の職場よりも低くなった」という場合には、さらに「就業促進定着手当」という支援を受けられる可能性もあります。
3.2 【支援制度4】高年齢雇用継続給付(60歳~65歳未満が対象)
高年齢雇用継続給付は、「60歳以降も同じ会社で働き続けるものの、給与が大幅に下がってしまった」という方を経済的に支援するための給付金です。
高年齢雇用継続給付の支給条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳時点の75%未満に低下した状態で働き続ける場合
高年齢雇用継続給付の支給率は?
- 支給額:最大で賃金額の10%(※)に相当する額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は15%となります。
老齢年金を受け取りながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」も受給する場合、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)相当額が支給停止となる点には注意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は6%となります。
3.3 【支援制度5】高年齢求職者給付金(65歳以上が対象)
この給付金は、65歳以上の方が退職や失業をした場合に、通常の失業手当(基本手当)の代わりに受け取ることができる一時金です。
高年齢求職者給付金の支給条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で、失業状態にある方
- 支給要件:以下のすべての条件を満たす必要があります。
- 離職日より前の1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
- 失業の状態にあること(就職への積極的な意思と能力があり、求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態)
高年齢求職者給付金の給付額は?
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満の場合:基本手当の30日分に相当する額
- 被保険者であった期間が1年以上の場合:基本手当の50日分に相当する額
65歳未満の方が受け取る「失業手当」は4週間に一度の認定を経て分割で支給されますが、この高年齢求職者給付金は「一括で支給される」という点が大きな特徴です。
4. 働くシニアの収入に影響する「在職老齢年金」制度の見直しと最新情報
2025年に成立した年金制度改正法にもとづき、2026年4月から、働きながら年金を受け取る場合の減額基準が緩和されました。
これまでは、給与と老齢厚生年金の合計が月51万円を超えると年金が減額されていましたが、この基準額が65万円へと引き上げられます。
この変更は、平均寿命や健康寿命が延び、高齢になっても意欲的に働き続けたいと考える方が増えている社会状況を反映したものです。
年金の減額を気にせず働きやすくなる環境を整えることで、高齢者の就労意欲や社会参加をさらに促進することを目的としています。
4.1 在職老齢年金制度の主な変更点
2026年4月スタート 働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます7/7
在職老齢年金とは、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、年金額(※)と月々の報酬(給与・賞与)の合計が基準額を超えると、年金の一部または全額が支給停止になる制度です。
(※)老齢基礎年金は減額の対象外で、全額支給されます。
年金カット基準額の変更内容
年金が支給停止となるかどうかの基準額は、毎年度少しずつ見直されてきました。
- 2022年度:47万円
- 2023年度:48万円
- 2024年度:50万円
- 2025年度:51万円
- 2026年度:65万円
2025年度の基準額51万円から、2026年度には65万円へと引き上げられ、14万円の大幅な増額となります。
厚生労働省の試算によれば、この見直しによって、新たに約20万人が年金を全額受け取れるようになると見込まれています。
この基準額の引き上げにより、これまで年金の減額を気にして働く時間を調整していたシニア世代も、より柔軟な働き方を選択しやすくなることが期待されます。
5. 受け取り漏れを防ぐために。通知書の確認とライフステージごとの申請を
6月中旬は、新年度の税額や年金支給額が固まり、各家庭に重要な書類がまとめて届く時期です。
専門用語が並ぶ通知書を「難しくてよくわからない」と開封しないままにしてしまうことは、ご自身の正当な権利を放棄することと同じです。
今回ご紹介した5つの公的給付は、管轄が「日本年金機構(年金事務所)」と「ハローワーク」で異なるため、手続き漏れが起こりやすいという特徴があります。
まずは、自分やご家族が対象になる支援制度がないか一つずつ確認してみてはいかがでしょうか。
退職、再就職、そして60歳や65歳を迎える誕生日など、ライフステージが変化する節目には「どこかに申請できるお金がないか」と自らアンテナを張る習慣が、老後の家計を守ることにつながります。
※当記事は再編集記事です。