女性の社会進出が進んでいますが、老齢厚生年金の受給額は男女間で大きな差があります。離婚した場合、年金額が少ない女性の中には老後生活に不安を感じる人も多いでしょう。この年金額の格差を埋めるものが年金分割制度です。
本記事では、年金分割で年金額がいくら増えるかについて解説します。制度内容や2026年4月からの請求期限延長なども紹介しますので、離婚時に損をしないように確認しておきましょう。
1. 【女性の老後資金】厚生年金の受給額「男女で年金月額5万円以上の差も」
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給権者の平均受給額(老齢基礎年金を含む)は15万289円です。
ただし、男性平均が16万9967円に対し女性平均は11万1413円と、その差は5万8000円以上もあります。これまで家事や育児の主な担い手であった女性の方が就業期間が少なく、その結果が年金額の格差として現れていると考えていいでしょう。
直近の総務省・家計調査によると、65歳単身無職世帯の平均支出額はおよそ月16万2000円です。離婚した女性が一人で老後生活を送る場合、平均的な金額の年金を受給すると家計収支は月5万円以上の赤字です。このような男女格差を埋めるのが、年金分割制度です。
2. 【年金分割】婚姻期間の年金記録を分ける「2つのしくみ」をみる
年金分割とは、婚姻期間中に夫婦の「標準報酬(厚生年金の保険料納付記録)」を、離婚時に分割する制度です。年金分割によって標準報酬が高い方の老齢厚生年金額は減少し、低い方は増加します。
なお、年金分割には、離婚した2人の合意により按分割合を決定する「合意分割」と、国民年金第3号被保険者であった人の請求により年金記録を1/2ずつに分割する「3号分割」の2種類があります。
「3号分割」は相手の同意を必要としないため手続きは簡単ですが、分割の対象期間が2008年(平成20年)4月以降の第3号被保険者であった期間に限定されます。
ここまで、厚生年金受給権者の平均受給額と男女格差、年金分割制度の概要について解説しました。次章では、年金分割で増加する年金額と2026年4月からの請求期限延長を紹介します。
3. 【年金分割】平均で月3.3万円の増額「20年間受給で約800万円の差」になることも
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢年金受給権者のうち年金分割によって配偶者(第1号改定者)の標準報酬を受け取った人(第2号改定者)の年金月額は約3.3万円(月6万934円→月9万4509円)増えています。
年間約40万円、20年間受給したと仮定すると約800万円の差になります。ただし、3号分割の場合、分割の対象期間が限定されるため年金分割による増額は月8000円程度(月4万8668円→月5万6985円)に留まります。
4. 【年金分割】年金額の増額大きいケースと少ないケース
年金分割による増額幅は、婚姻期間の長さや配偶者の厚生年金加入状況などによって大きく異なります。年金分割によって年金額が大きく増える可能性があるのは次のケースです。
- 婚姻期間が長い
- 婚姻期間中の配偶者の厚生年金加入期間が長い
- 婚姻期間中の配偶者の賃金水準が高い(標準報酬が多い)
- 自身の第3号被保険者期間が長い(厚生年金加入期間が短い、標準報酬が少ない)
- 合意分割で按分割合が2分の1
一方、年金額があまり増えない可能性が高いのは次のケースです。
- 婚姻期間が短い
- 婚姻期間中、配偶者が自営業者・フリーランスなどで国民年金のみに加入(標準報酬がないため分割できない)
- 婚姻期間中、配偶者の賃金水準が低い(標準報酬が少ない)
- 3号分割、または合意分割で按分割合が小さい
事前に年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取り寄せ、分割対象となる標準報酬の内容を確認することが重要です。
5. 【2026年4月改正】請求期限の延長(2年→5年)
2026年3月までは、年金分割の請求期限は「離婚した日の翌日から原則2年以内」でした。改正により、2026年4月1日以降に離婚した場合、請求期限は「原則5年以内」へと延長されました。
離婚直後は精神的・経済的な負担などが大きく、手続きをする余裕がないケースも考えられます。前述の厚生労働省資料では、離婚件数に対して、実際に年金分割の手続きを行ったのは約2割です。改正により年金分割できる期間は長くなります。
5.1 離婚調停で按分割合を決めると手続きはスムーズ
年金事務所の現場感覚では、離婚調停などで按分割合が決まっていると手続きがスムーズに進みます。一方が按分割合を定めた調停調書を持参すれば、簡単に手続きが済みます。また、按分割合は基本的に2分の1です。
離婚した元夫婦が来所して合意書を提出することも可能ですが、2人の都合が合わずに手続きが先延ばしになったり、按分割合で揉めたりするケースも散見されます。
6. おわりに
老齢年金の平均受給額は、男女間で大きな格差があります。年金分割は、離婚後の男女格差を埋めるために効果的な制度です。年金分割によって第2号改定者(老齢年金受給権者が対象)の年金額は平均で月額約3.3万円(20年受給すれば約800万円)も増えています。
ただし、年金分割には請求手続きが必要です。請求期限は「離婚した日の翌日から原則5年以内」へと延長されましたが、年金事務所や社会保険労務士など専門家に相談して、早目に手続きを行いましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「2024年(令和6年)家計の概要」
- 日本年金機構「離婚時の年金分割」
- 日本年金機構「離婚時の年金分割制度のお知らせ」
- 日本年金機構「離婚時の年金分割について」
西岡 秀泰