6月も後半を過ぎ、梅雨明け前の蒸し暑さとともに、本格的な夏に向けたエアコンの電気代が一段と気になる季節になりました。

現役世代が夏のボーナスに沸く一方で、リタイア後の生活を意識し始めたシニア層にとっては、「これから先の収入と支出のバランスをどう保つか」がより切実な問題として浮き彫りになってくる時期でもあります。

日本の社会保障制度は緻密に作られていますが、その盲点は「役所の論理」による申請主義、つまり「自分で気づいて手続きをしなければ、存在しないものとして処理される」という点です。

年齢の節目(60歳・65歳)で受け取れる雇用保険の手当や、医療費の負担を劇的に減らす公的制度、さらには各地方自治体が独自に行っている経済支援など、知っていれば防げた「もらい損ね」が発生しているかもしれません。

さらに最近では、手元の老後資金を補うために「住みながら自宅を売却して現金化できる」という民間のリースバックサービスも注目を集めていますが、ここにも契約上の大きな落とし穴が存在します。

本記事では、国や自治体が用意しているセーフティネットの全貌と、民間の不動産活用に潜むリスクを、客観的な事実に基づいて分かりやすく整理します。

1. 見落とし厳禁!60歳・65歳以上の生活を支える注目の公的給付・セーフティネット

シニア世代が対象になりやすい給付をピックアップし、ひとつずつ詳しく見ていきます。

要件や申請の窓口は、それぞれ異なります。自分が該当しそうな制度から確認してみてください。

1.1 再就職手当

再就職手当とは、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)の受給者が、給付日数を多く残して安定就職したときに受け取れる給付のことです。支給残日数が所定給付日数の3分の2以上なら70%、3分の1以上なら60%を、基本手当日額に乗じて計算します。

定年後に再び働き始めるシニアでも、条件を満たせば対象です。ここ数年は60歳以上でも働く方が増えているため、対象になる可能性は十分にあります。

1.2 高年齢求職者給付金

高年齢求職者給付金とは、65歳以上で雇用保険に加入していた人が、離職したときに受け取れる一時金です。65歳未満が対象の基本手当とは違い、一括で支給されます。

加入していた期間に応じて、基本手当日額の30日分または50日分が支給されます。老齢年金と併給できるため、生活費を支える助けになります。離職後は、ハローワークで求職の申し込みを行いましょう。

1.3 年金生活者支援給付金

年金生活者支援給付金とは、所得の低い年金受給者へ、年金に上乗せして支給される給付です。たとえば、老齢年金生活者支援給付金は、65歳以上で、世帯全員が住民税非課税であることなどが要件になります。

年金生活者支援給付金請求書2/3

年金生活者支援給付金請求書

出所:厚生労働省「年金生活者支援給付金特設サイト」

2026年度の給付基準額は月額5,620円で、前年度から170円の増額となりました。消費税を財源とし、暮らしを下支えする目的で設けられています。新たな対象者には請求書(はがき)が届くため、放置せず早めに返送してください

1.4 高額療養費制度

高額療養費制度とは、医療費の自己負担に1カ月ごとの上限を設ける仕組みのことです。上限を超えて支払った分(「保険適用される診療に対する自己負担額」のみ。入院時に発生する「食費」や「居住費」、希望して利用する「差額ベッド代」、および「先進医療にかかる費用」などは対象外)は、あとから払い戻されます。

「限度額適用認定証」などの交付を受けて医療機関の窓口で提示すれば、窓口での支払い自体を最初から自己負担の上限額までに抑えることも可能です。

上限額は年齢や所得によって変わり、70歳以上には別の区分が設けられています。

70歳以上の方の上限額(2026年7月診療分まで)3/3

70歳以上の方の上限額

出所:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

医療費に上限が設けられるため、入院や手術で医療費が高額になっても、家計へのダメージを抑えられる仕組みです。

1.5 加給年金

加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持する年下の配偶者や子がいる場合に上乗せされる給付のことです。

配偶者が対象の場合、特別加算を含めて年額およそ40万円が加算されます。ただし、配偶者が65歳に達すると加算は原則として終了します。一定の要件を満たす場合は、配偶者自身の老齢基礎年金に振替加算が付くことがあります。

1.6 自治体独自の支援制度

国の制度だけでなく、自治体が独自に設ける支援にも目を向けましょう。お住まいの市区町村によっては、高齢者向けの給付金や医療費・介護費の助成、補聴器購入の補助などが用意されています。また、住民税非課税世帯へ独自の上乗せ給付を行う自治体もあります。

自治体独自の支援制度も、原則として申請しなければ受け取れません。内容や金額は地域によって異なるため、広報誌や市区町村のホームページなどで、自分が使える制度を確認してみてください。

2. 自宅を活かす前に知りたい「リースバック」の注意点

老後資金が心もとないとき、自宅を売ってお金に換える「リースバック」を勧められる場合があります。リースバックとは、自宅を業者へ売却し、その後は家賃を払って住み続ける仕組みのことです。

「老後資金に充てられて、そのまま住み続けられる」というセールストークがよく使われるものの、内容を確かめずに契約すると後悔しかねません。

国土交通省が2025年に公表した実態調査では、買い取り価格を相場の6〜7割程度と答えた事業者がおよそ半数にのぼりました。賃貸借契約のうち、「定期建物賃貸借」も約半数存在したというデータもあります。

定期借家とは、契約期間が満了すると原則として更新されず、住み続けるには再契約が必要になる賃貸契約を指します。

たとえば、本来であれば4000万円の価値がある家を2500万円程度で買い取られるうえに、数年後に退去を求められる可能性があります。つまり、住まいと資産の両方を失いかねません。

実際に、トラブルの増加を受け、国は解約条件や更新の可否を契約前に告知するよう求める指針を整える方針です。利用を検討するなら、買い取り価格と契約形態は必ず確認しましょう。

3. 役所の「仕様」を賢く利用し、公的保障と民間サービスのバランスを見極めよう

2026年6月現在、長引くインフレによって日々の可食費が圧迫されるなか、老後資金を増やす方法を「民間の金融商品や不動産サービス」だけに求めるのは早計です。

まずは、国がすでに用意している「再就職手当」や「高額療養費制度」といった公的セーフティネットを漏れなく使い倒し、出ていく固定費を最小限に抑えることが優先の防衛策となります。

この記事を読み終えたら、まずはご自身が住んでいる自治体の公式ホームページの「福祉・シニア」の欄を一度検索するか、広報紙のバックナンバーをめくってみてください。

また、離れて暮らす親御さんに対して「医療費が上がったときは払い戻される制度があるよ」「自宅を売る契約の前に一度相談してね」と、具体的な注意喚起の声を掛けてみることも、家族の資産を守る上で有効です。

複雑な制度に振り回されず、「国に頼りすぎず、国を賢く利用する」ための正しい知識を武器に、安心のセカンドライフを構築していきましょう。

参考資料