4. 預金獲得競争を勝ち抜く新リテール戦略「エムット」
金利差で儲けるためには、貸し出すための「原資」、つまり「預金」をどれだけ集められるかが生命線となります。しかし、ここでメガバンクは大きな課題に直面しています。
インタビュアーが「自分はネット通販やクレジットカード、NISAの利用をきっかけに、完全にネット銀行(楽天経済圏)に移行してしまった」と実体験を語ると、泉田氏はまさにそれが現在の銀行業界の最大の競争であると応じます。
「預金が取れなかったらどんどん事業規模縮小していかないといけないからね。貸し出す種がないってことになるわけです」(泉田氏)
若年層や働く世代を中心に、利便性の高いネット銀行へ顧客が流出している状況に、MUFGも強い危機感を抱いています。そこで反転攻勢に出るために打ち出したのが、新たなリテール戦略です。
決算資料に示されたリテール戦略の進捗を見ると、MUFGの必死の取り組みが実を結びつつあることがわかります。
4.1 フェーズ1:顧客基盤の反転
長らく減少傾向にあった個人顧客数が、8年ぶりに増加に転じました。新規獲得口座数は100万口座を突破し、下げ止まりから明確な反転を見せています。
4.2 フェーズ2:資産形成層の取り込み
預金を集めるだけでなく、働く世代の資産形成ニーズを取り込むため、2027年度に「三菱UFJ eスマート証券」と、買収したロボアドバイザー最大手の「ウェルスナビ」を統合し、強力なネット証券サービスを展開する予定です。
4.3 フェーズ3:金融×AIによるサービス進化
さらに先を見据え、AIを活用した利便性の飛躍的な向上を計画しています。OpenAIの最新GPTと連携し、「ChatGPT」のアプリ上で家計簿アプリ「マネーツリー」の金融データ基盤を接続するなど、最先端のテクノロジーを導入します。
この一連のデジタル戦略を象徴するのが、新ブランドの「エムット」です。三井住友銀行の「Olive(オリーブ)」や、みずほ銀行の楽天との連携に対抗し、MUFGもグループの枠を超えてシームレスにサービスをつなぎ、次世代の顧客と預金を確保しようとしています。
メガバンクという巨大な組織でありながら、デジタルとAIを駆使して柔軟にビジネスモデルを進化させている点に、MUFGの真の強さが隠されていると言えるでしょう。
5. まとめ
今回は、巨大メガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループの決算から、その複雑な収益構造を紐解きました。
一見すると何で儲けているのか分かりにくいMUFGですが、泉田氏の分析によれば、その本質は「預金を集めて貸し出す」という銀行ビジネスの基本と、リーマンショック時に出資した「モルガン・スタンレー」という強力な投資銀行(持分法適用会社)の利益貢献の2本柱に支えられています。
そして今、金利上昇という追い風を受けながら、AIを活用した新たなリテール戦略で次世代の成長基盤を固めようとしています。
参考資料
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信」(2026年5月15日)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算説明会資料」(2026年5月15日)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)
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Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日