日本を代表するメガバンクであり、私たちの生活にも馴染み深い三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)。
直近の決算では純利益が2.4兆円に達するなど、圧倒的な業績を誇っています。
しかし、その巨大さゆえに「一体どの事業で、どのようにしてこれほどの利益を生み出しているのか」を正確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。
複雑に見えるメガバンクのビジネスモデルは、どのような仕組みになっているのでしょうか。この秘密について、元機関投資家の泉田良輔氏がMUFGの事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。
この記事のポイント
- MUFGの収益は5つの事業セグメントに分散され、グローバルに展開されている
- 利益の約4分の1を、リーマンショック時に出資した「モルガン・スタンレー」(持分法適用会社)が稼ぎ出している
- 金利上昇による「預貸金利回りのスプレッド(利ざや)拡大」が業績を強力に牽引している
- ネット銀行への流出を防ぐため、AIを活用した新リテール戦略「エムット」で反転攻勢に出ている
1. 純利益2.4兆円超。MUFGの巨大な収益構造を分解する
MUFGが発表した直近の通期決算は、非常に力強い数字となりました。一般企業の売上高に相当する「経常収益」は前期比7.3%増の14兆6,208億円、本業の儲けを示す「経常利益」は同27.7%増の3兆4,102億円に達しています。
さらに、最終的な儲けである「親会社株主に帰属する当期純利益」は前期の1兆8,629億円から30.3%増となる2兆4,272億円を記録し、大幅な増収増益を達成しました。
次期の目標についても、当期純利益2.7兆円というさらに高いハードルを掲げており、業績の好調さが窺えます。
しかし、これほど巨大な利益が一体どこから生まれているのか、全貌を把握するのは容易ではありません。泉田氏も、多くの投資家が抱く疑問を次のように代弁します。
「正直、何で儲けているのかよく分かんないっていうことだと思うんですよ」
泉田氏は、MUFGのビジネスを理解するためには、事業部門(セグメント)ごとの「営業純益」を分解して見ることが重要だと指摘します。決算資料によると、MUFGの収益は主に以下の5つの柱で構成されています。
- コーポレートバンキング事業本部(7,070億円):主に国内の企業に対する貸出などを担う最大の収益源。
- GCIB(グローバルコマーシャル・インベストメントバンキング、5,803億円):グローバルな大企業向けの投資銀行業務。
- 法人ウェルスマネジメント事業本部(4,080億円):法人および富裕層向けの資産管理・運用ビジネス。
- GCB(グローバルコマーシャルバンキング、3,876億円):海外のパートナーバンクを通じた商業銀行業務。
- リテールデジタル事業本部(2,859億円):私たちが日常的に利用する国内の個人向けサービス。
このように分解してみると、私たちがイメージしやすい「国内の個人向け銀行業務(リテール)」は、全体の収益の一部に過ぎないことがわかります。
「もう本当に事業ポートフォリオが分散されてて、かつ国内だけじゃなくてグローバルで商売してるっていうのがこのMUFGです」(泉田氏)
2. 意外な収益源?利益の約4分の1を稼ぐ「モルガン・スタンレー」
事業セグメントの分散に加えて、MUFGの収益構造を理解する上で絶対に外せない「もう一つの巨大な柱」があると泉田氏は強調します。
それが、アメリカの世界的投資銀行である「モルガン・スタンレー」の存在です。
MUFGはモルガン・スタンレーを持分法適用会社(出資比率に応じて利益を自社の業績に取り込める関連会社)として抱えています。
なぜ日本のメガバンクがアメリカのトップ投資銀行を傘下に収めているのでしょうか。その背景には、歴史的な金融危機の際の劇的な決断がありました。
「リーマンショックの後、もう本当にただ同然であったモルガン・スタンレーをMUFGが買うという奇跡が起きたわけです」(泉田氏)
2008年のリーマンショック時、世界の金融機関が次々と危機に陥る中、MUFGは巨額の資金を投じてモルガン・スタンレーに出資しました。
「投資の世界でよく『落ちてくるナイフは掴むな』っていう格言があるんだけど、MUFGはナイフを掴んだんですよ。そしたらそれが大成功だった」(泉田氏)
この「大成功」は、現在の決算数字に色濃く反映されています。当期純利益が前期から約5,863億円増加した要因を示す「増減ウォーターフォールチャート」を見ると、本業の儲けである顧客部門の伸び(+2,500億円)に次いで、「持分法投資損益」が+2,100億円と大きく貢献しています。
泉田氏の推計によれば、このうち約2,000億円がモルガン・スタンレーの増益効果によるものです。
さらに全体に占める割合を見ると、その存在感は圧倒的です。MUFG全体の当期純利益2兆4,272億円のうち、モルガン・スタンレーからの利益取り込み分は6,764億円に上ります。
泉田氏は「4分の1ぐらいある」と、その規模の大きさを指摘します。
また、三菱UFJ銀行単体の利益(1兆1,352億円)とモルガン・スタンレーの利益(6,764億円)を合計すると約1.8兆円となり、これだけでグループ全体の純利益の約4分の3(74.6%)を占める計算になります。
つまり、複雑に見えるMUFGの業績も、「国内の銀行ビジネス」と「アメリカの投資銀行ビジネス」の2つを注視することで、その大半を把握できるということです。
3. 金利上昇で儲かる仕組み「スプレッド(利ざや)」の拡大
特に昨今、金利が上昇する局面において銀行の業績が伸びている理由について、泉田氏は銀行ビジネスの基本原理に立ち返って解説します。
「預金者から安い金利でお金を預かって、それをどんだけ鞘(さや)乗せて企業に貸し出すかっていう商売なので、手元にやっぱり原資があることが大事なんですよ」(泉田氏)
銀行の最大の収益源は、預金者から預かったお金に金利を上乗せして企業や個人に貸し出し、その金利差(利ざや=スプレッド)から得る利益です。
現在、日本国内では長らく続いたゼロ金利政策が転換点を迎え、金利が上昇傾向にあります。
決算資料の「国内預貸金利回りの推移」を見ると、貸出金利回りは約1.0%から約1.3%台へと上昇している一方で、私たちが銀行に預ける預金の利回りは約0.26%とほぼ横ばいにとどまっています。
貸し出す際の金利(収入)は上がるのに、預金者へ払う金利(コスト)はそれほど上がらないため、結果として銀行の手元に残る利益の幅(スプレッド)が拡大しているのです。これが、金利上昇局面で銀行が儲かる最大のカラクリです。
泉田氏は、海外(インドネシアやタイなど)の貸出金利回りの差は横ばいであることから、「今変化が起きてるのは日本」であると分析します。
長年の低金利環境から抜け出しつつある国内市場の変化が、MUFGの好業績を強力に後押ししているのです。
4. 預金獲得競争を勝ち抜く新リテール戦略「エムット」
金利差で儲けるためには、貸し出すための「原資」、つまり「預金」をどれだけ集められるかが生命線となります。しかし、ここでメガバンクは大きな課題に直面しています。
インタビュアーが「自分はネット通販やクレジットカード、NISAの利用をきっかけに、完全にネット銀行(楽天経済圏)に移行してしまった」と実体験を語ると、泉田氏はまさにそれが現在の銀行業界の最大の競争であると応じます。
「預金が取れなかったらどんどん事業規模縮小していかないといけないからね。貸し出す種がないってことになるわけです」(泉田氏)
若年層や働く世代を中心に、利便性の高いネット銀行へ顧客が流出している状況に、MUFGも強い危機感を抱いています。そこで反転攻勢に出るために打ち出したのが、新たなリテール戦略です。
決算資料に示されたリテール戦略の進捗を見ると、MUFGの必死の取り組みが実を結びつつあることがわかります。
4.1 フェーズ1:顧客基盤の反転
長らく減少傾向にあった個人顧客数が、8年ぶりに増加に転じました。新規獲得口座数は100万口座を突破し、下げ止まりから明確な反転を見せています。
4.2 フェーズ2:資産形成層の取り込み
預金を集めるだけでなく、働く世代の資産形成ニーズを取り込むため、2027年度に「三菱UFJ eスマート証券」と、買収したロボアドバイザー最大手の「ウェルスナビ」を統合し、強力なネット証券サービスを展開する予定です。
4.3 フェーズ3:金融×AIによるサービス進化
さらに先を見据え、AIを活用した利便性の飛躍的な向上を計画しています。OpenAIの最新GPTと連携し、「ChatGPT」のアプリ上で家計簿アプリ「マネーツリー」の金融データ基盤を接続するなど、最先端のテクノロジーを導入します。
この一連のデジタル戦略を象徴するのが、新ブランドの「エムット」です。三井住友銀行の「Olive(オリーブ)」や、みずほ銀行の楽天との連携に対抗し、MUFGもグループの枠を超えてシームレスにサービスをつなぎ、次世代の顧客と預金を確保しようとしています。
メガバンクという巨大な組織でありながら、デジタルとAIを駆使して柔軟にビジネスモデルを進化させている点に、MUFGの真の強さが隠されていると言えるでしょう。
5. まとめ
今回は、巨大メガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループの決算から、その複雑な収益構造を紐解きました。
一見すると何で儲けているのか分かりにくいMUFGですが、泉田氏の分析によれば、その本質は「預金を集めて貸し出す」という銀行ビジネスの基本と、リーマンショック時に出資した「モルガン・スタンレー」という強力な投資銀行(持分法適用会社)の利益貢献の2本柱に支えられています。
そして今、金利上昇という追い風を受けながら、AIを活用した新たなリテール戦略で次世代の成長基盤を固めようとしています。
参考資料
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信」(2026年5月15日)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算説明会資料」(2026年5月15日)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)
- Youtubeチャンネル「イズミダイズム」



