6月24日に厚生労働省が公表した「介護給付費等実態統計月報(令和8年3月審査分)」によれば、介護サービスの受給者数は約480万人にのぼり、受給者1人当たりの費用額は19万3600円となっています。

長寿化が進む中、こうした現実的なデータを目にすると、将来への備えの重要性を改めて感じます。

多くの方が老後の年金や生活費に関心を持つ一方で、医療費については具体的な金額をイメージできていないかもしれません。

かつて銀行員として若年層から富裕層まで数多くのお客さまのライフプランニングをサポートしてきた経験からも、加齢とともに増える通院や入院の負担、そして介護費用への備えは非常に重要な課題だと実感しています。

本記事では、年代別の医療費の実態や高齢者世帯の所得状況、後期高齢者医療制度の仕組みを確認するとともに、将来の医療費負担に備えるために知っておきたいポイントについて解説します。

1. 【年代別データ】シニアの医療費はどのくらい増える?

年齢階級別1人当たり医療費(令和5年度、医療保険制度分)1/5

年齢階級別1人当たり医療費(令和5年度、医療保険制度分)

出所:厚生労働省「年齢階級別1人当たり医療費(令和5年度、医療保険制度分)」

シニア世代の医療費は、年齢を重ねるごとにかさんでいくのが一般的です。

厚生労働省「年齢階級別1人当たり医療費(令和5年度、医療保険制度分)」より、60歳以上の各年齢層における、1人当たりの医療費計、および診療費における「入院+食事・生活療養」の割合について見てみましょう。

1.1 【60歳以上】1人あたり医療費計の推移

  • 60~64歳:39万7000円 「入院+食事・生活療養」の割合:37%
  • 65~69歳:49万5000円 「入院+食事・生活療養」の割合:40%
  • 70~74歳:63万円 「入院+食事・生活療養」の割合:43%
  • 75~79歳:78万1000円 「入院+食事・生活療養」の割合:45%
  • 80~84歳:93万7000円 「入院+食事・生活療養」の割合:51%
  • 85~89歳:108万7000円 「入院+食事・生活療養」の割合:59%
  • 90~94歳:120万2000円 「入院+食事・生活療養」の割合:65%
  • 95~99歳:127万8000円 「入院+食事・生活療養」の割合:69%
  • 100歳以上:124万2000円 「入院+食事・生活療養」の割合:69%

医療費計は、60歳代前半の39万7000円から90歳代後半の127万8000円へと、約3.2倍に増加しています。

この金額の増加を特に押し上げているのは、「入院+食事・生活療養」にかかる費用です。

70歳代までは通院が中心ですが、80歳以降では医療費の50%超を「入院+食事・生活療養」のための費用が占め、90歳代後半以降では約70%(69%)に達します。

また、生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる一時費用(※1)は平均47万円、月額費用(※2)は平均9万円となっています。

国の高額療養費制度を使っても、毎月の上限額の自己負担に加え、食事代や差額ベッド代(全額自己負担)といった出費が続く点にも留意が必要でしょう。

※1:住宅改造や介護用ベッドの購入費など
※2:いずれも公的介護保険サービスの自己負担費用を含む

2. 高齢者世帯の平均所得はいくら?

厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」をもとに、高齢者世帯()の所得状況を見てみましょう。

上記調査によると、高齢者世帯の年間平均総所得は314万8000円で、月額換算ではおよそ26万円となっています。

※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯

2.1 【内訳】高齢者世帯の平均所得

総所得:314万8000円 (100.0%)

【内訳】(カッコ内は総所得に占める割合)

  • 稼働所得:79万7000円(25.3%)
    • うち雇用者所得(※):66万5000円(21.1%)
  • 公的年金・恩給:200万円(63.5%)
  • 財産所得:14万4000円 (4.6%)
  • 公的年金・恩給以外の社会保障給付金:1万8000円 (0.6%)
  • 仕送り・企業年金・個人年金等・その他の所得:18万9000円(6.0%)

雇用者所得:世帯員が勤め先から支払いを受けた給料・賃金・賞与の合計金額で、税金や社会保険料を含む

所得の内訳を見ると、公的年金・恩給が約3分の2を占めており、月額換算では約16万6000円です。

次いで、雇用者所得が約5万5000円となっています。

このことから、高齢者世帯の収入は公的年金を中心に構成され、それを就労収入が補う形になっていることが分かります。

3. 【医療費以外にも必要】高齢期に増える支出とは

老後に必要となる支出は、医療費だけではありません。

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯では、食費が消費支出の28.7%を占めるほか、光熱・水道費、交通・通信費、教養娯楽費などさまざまな支出が発生しています。

また、保健医療費も一定の割合を占めており、加齢に伴って通院や入院の機会が増えれば、さらに負担が大きくなる可能性があります。

さらに、高齢期には住宅の修繕や設備更新にかかる費用、介護サービスの自己負担費用、介護用品の購入費用などが必要になるケースもあります。

そのほか、葬儀や相続手続きなど終活に関連する支出を準備する人も少なくありません。

老後資金を考える際は、医療費だけでなく、こうした日常生活費や将来発生しうるさまざまな支出も視野に入れておくことが大切です。

一方で、高齢期の医療費負担を軽減するためには、「公的な医療保険制度の仕組み」を理解しておくことも欠かせません。

とくに75歳以降は加入する医療保険制度が変わり、自己負担割合や保険料の仕組みも異なります。

そこで次に、原則75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」の概要について確認していきましょう。

4. 原則75歳以上が対象となる「後期高齢者医療制度」

後期高齢者医療制度は、公的医療保険制度の一つで、原則75歳以上の人、または65歳以上74歳以下で一定の障害認定を受けた人が加入対象となります。

75歳になると、国民健康保険や被用者保険、共済組合などから自動的に後期高齢者医療制度へ移行します。

保険料は、加入者全員が負担する「均等割」と、所得に応じて決まる「所得割」を合算して算出されます。

なお、保険料の水準は都道府県ごとに異なります。

5. 75歳以上の医療費自己負担は「1割・2割・3割」

後期高齢者医療制度では、所得状況に応じて医療費の窓口負担割合が1割・2割・3割に区分されています。

一般的な所得水準の人は1割負担、現役並み所得者は3割負担となります。

また、2022年10月からは、一定以上の所得がある人について自己負担割合が2割となりました。

厚生労働省の試算によると、2割負担の対象者は約370万人で、制度加入者全体のおよそ2割とされています。

1割負担から2割負担へ移行した人にとっては、医療費の自己負担が増えることになります。

次に、2割負担となる所得基準を見ていきましょう。

6. 【後期高齢者医療制度】2割負担となる所得基準

後期高齢者医療制度に加入している人で、次の(1)と(2)の両方を満たす場合、医療費の自己負担割合は2割となります。

  • 1:同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の方がいるとき。
  • 2:同じ世帯の被保険者の「年金収入(※1)」+「その他の合計所得金額(※2)」の合計額が、被保険者が世帯に1人の場合は200万円以上、世帯に2人以上の場合は合計320万円以上であるとき。

※1「年金収入」は、公的年金控除等を差し引く前の金額です。遺族年金や障害年金は含みません。
※2「その他の合計所得金額」は、事業収入や給与収入等から必要経費や給与所得控除等を差し引いた後の金額です。

参考として次章では、ご自身やご家族が2割負担の対象となるかどうか、フローチャートで確認してみましょう。

6.1 【フローチャートで確認】医療費2割負担の判定基準

75歳以上の人は、世帯の課税所得や年金収入などをもとに、医療費の自己負担割合が判定されます。

2割負担となる主な基準は次のとおりです。

  • 単身世帯:「年金収入+その他の合計所得」が200万円以上
  • 複数世帯:「年金収入+その他の合計所得」が合計320万円以上

自身や家族がどの負担区分に該当するか確認したい場合は、厚生労働省が公表しているフローチャートを参考にするとよいでしょう。

【後期高齢者医療制度】「窓口負担割合」フローチャート5/5

【後期高齢者医療制度】「窓口負担割合」フローチャート

出所:厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」 

7. 老後の医療費は制度理解と早めの備えが重要

本記事では、60歳以上の年代別医療費の推移や後期高齢者医療制度の仕組みなど、老後の暮らしに直結するポイントについて解説しました。

国の制度を理解しておくことは、将来の家計を考えるうえで重要なポイントです。

老後の医療費は予測が難しい面もありますが、余裕資金の確保や公的制度の確認、日頃からの健康管理など、現役世代のうちからできる準備は少なくありません。

将来の不安を軽減するためにも、早い段階から医療費や介護費を含めた老後資金の計画を立てておくことが大切でしょう。

参考資料