ここ半年ほどのFinTech(以下、フィンテック)ブームにより、国内外のフィンテック領域(レンディング、オンライン決済、ブロックチェーン、P2P海外送金、ロボアドバイザー、個人資産管理サービス等)が、日本でもよく知られるようになってきました。
しかし、実はまだ日本でそれほど知られていないフィンテックの領域がもうひとつあります。
その分野が「金融包摂」です。
金融包摂とは
日本では個人が銀行に口座を持てないということはほとんどありませんが、いわゆる途上国の大半の国では、今でも銀行に口座を持つことができたり銀行から借り入れを行える人の方が少数派です。その原因は貧困です。
貧困によって伝統的な金融へのアクセスの無い人に金融へのアクセスを提供することを、金融包摂と言います。
金融包摂はもともと1980年代にグラミン銀行を創設したムハマド・ユヌス氏が2006年にノーベル平和賞を受賞したことで、マイクロファイナンスという言葉とともに一躍世界的に脚光を浴びました。近年ではいわゆるフィンテックと呼ばれる金融技術とIT技術を用いたデジタルファイナンス(特にモバイルバンキング)が、途上国における金融の姿を一変させています。
デジタルファイナンスとは
この傾向は「デジタル」とは言われていますが、その本質はプリペイド方式の携帯電話が普及し、路上の出店でお金のやり取りを行う資金管理の仕組みができたことによって様々なプリペイドのビジネスができるようになった(とりっぱぐれがなくなった)ものです。
そのため、モバイルを用いた新サービスの範囲は、送金や融資のような伝統的な銀行が提供してきたサービスにとどまらず、保険や水道、ガス、電気といったライフラインにまで及んでいます。
意外なことに、水汲み、薪、ランプは水道、ガス、電気より高価なため、モバイルでのプリペイメントによるライフラインの普及は極貧層の生活費負担を軽減するということが起こっています。
この流れは、人口密度がアジアやラテンアメリカと比べて低いため移動コストが高く、伝統的なマイクロファイナンスの発達が遅れていたケニアやモザンビークを中心とするアフリカ地域でまず普及しています。
続いてペルーやフィリピンなど、新たなファイナンス手法の普及に政府が積極的な国がこの流れに追随しており、ペルーではちょうど2016年にモバイルバンキングに関わる新しい法制が施行されます。
その一方で、バングラデシュやインドといったグループレンディング・モデルで成功体験を積んだ国の事業モデルの変更の遅れも指摘されています。それほど、途上国における金融モデルは新たな変革期に入ってきているのです。
クラウドファンディングによる金融包摂
日本でも知名度が上がってきている投資型クラウドファンディングも、金融包摂の流れが年々加速する中で広がりを見せています。
金融包摂のためのクラウドファンディングとしては、2005年にサービスを開始した、日本でも名の知れたkivaが最も早く事業を開始したといわれています。
近年はフィンテックの一分野としての投資型クラウドファンディング・サービスのうち、途上国に資金を供給するものも多く出てきており、近年立ち上がったクラウドファンディング・サービスは、kivaのように元本(から貸倒れを引いた額)のみを投資家に返還する「応援型」のものと、投資家にリスクに見合ったリターンを提供することを目指す「投資型」のもの、その中間に位置するものなど、バリュエーションが豊富になってきています。
応援型は貧困層にマイクロファイナンス資金を供給し、投資型は中間層の中で伝統的な金融機関にまだアクセスできていない、いわゆるミッシングミドルと呼ばれる、中間層の中でも比較的所得の低い層に対して与信を行うことが多くなっています。
日本の金融包摂に関わるクラウドファンディング・プラットフォーム
上記の通り、世界では金融にとどまらずライフラインの提供サービスにまで広がりをみせている金融包摂ですが、日本における途上国の金融包摂に関わるフィンテックのサービスは、クラウドファンディングによって途上国に資金を供給するものが圧倒的に多くなっています。
これまでに、ミュージックセキュリティーズ、大和証券、日本クラウド証券が途上国のマイクロファイナンス機関に投融資を行うファンドを販売した実績を持っています。
また近年は、資金供給の手法が寄付型、応援型、投資型、また運営会社の類型も大手証券会社、ベンチャー企業、外資系ファンドの日本法人と多様になってきています。
金融包摂に関わるクラウドファンディング・サービスの成長、またクラウドファンディング以外の観点からの金融包摂に関わるフィンテック・サービスの出現が、今後の国内市場の見どころと言えます。
【2016年3月11日 クラウドクレジット】
■参考記事■
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クラウドクレジット