日本を代表する自動車メーカーであり、「技術の日産」として世界中にファンを持つ日産自動車は、スポーツカーから電気自動車まで幅広いラインナップを誇ってきました。
しかし、直近の決算では2期連続の巨額赤字を計上し、3期連続の無配が予想されるなど厳しい財務状況に直面しています。
一体なぜ、かつて一時代を築いた名門企業がこれほどの苦境に陥り、日本市場での存在感が薄れているのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が日産自動車の事業構造と財務体質を分析し、業績不振の本当の理由と立て直しの行方を解説します。
この記事のポイント
- 日産自動車は2期連続の巨額赤字に陥り、株価も長期低迷が続いている
- 立て直しに向けた2026年度の「V字回復計画」は、全地域での販売増が前提となっている
- 日本市場での新車投入が少ない背景には、「トヨタ強すぎる問題」と海外偏重の戦略がある
- 業績回復の鍵は、市場に受け入れられる「魅力ある車づくり」ができるかどうかにかかっている
1. 過去2期連続の巨額赤字。日産自動車が直面する厳しい現状
自動車メーカーの決算において、投資家が最も注目するのは「どれだけ車が売れて、どれだけ利益が出たか」というシンプルな指標です。
しかし、日産自動車の2026年3月期通期の決算短信を開くと、非常に厳しい現実が浮かび上がってきます。
主要業績の推移(24年度〜26年度計画)1/4
出所:日産自動車「2026年3月期 決算短信」「決算説明会資料」を基にイズミダイズム作成
直近の2025年度(2026年3月期)の業績を見ると、売上高は前年比4.9%減の12兆79億円、本業の儲けを示す営業利益は同16.9%減の580億円と「減収減益」に陥っています。
さらに深刻なのは、最終的な利益を示す親会社株主に帰属する当期純利益が5,331億円という巨額の赤字(純損失)となっている点です。
前期も6,709億円の赤字であったため、2期連続の巨額赤字となり、株主への配当も3期連続で「ゼロ(無配)」となる見通しです。
インタビュワーがこの厳しい状況について尋ねると、泉田氏は日産の株価が長期にわたって低迷している背景に触れました。日産の株価は、日本株全体の動きを示すTOPIX(東証株価指数)と比較して、2018年頃を境に大きくアンダーパフォーム(基準となる指標を下回る推移)しています。
この低迷の転換点となったのは、経営トップの交代劇でした。泉田氏は、カルロス・ゴーン元会長の体制から経営陣が交代した2017年以降、株価が下落基調にあると指摘します。
「ゴーン体制って一体何だったの、みたいなハテナマークが消えないまま今に至るんだけど、まさにこの2017年の交代劇からぐーっと下がっているよね」(泉田氏)
経営の混乱という構造的な問題が、長年にわたって企業価値の向上を妨げてきたことが、現在の株価の低迷に表れていると言えます。
2. 全主要地域で販売減。25年度の苦境と「V字回復」への道筋
自動車メーカーの業績を左右する最大の要因は「販売台数」です。しかし、日産の2025年度の販売実績は、グローバル全体で厳しい結果となりました。
25年度地域別販売台数の前年比2/4
出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会 参考資料」を基にイズミダイズム作成
地域別の販売実績を見ると、お膝元である日本市場が前年比13.5%減と大きく落ち込んでいます。
また、かつて強みを持っていた中国市場も同6.3%減、欧州市場も同9.7%減となりました。最も販売台数が多い北米市場(全体の約4割を占める)でさえ、前年比0.9%減と微減にとどまったものの、プラス成長には至りませんでした。
「どの地域もマイナス成長なんですよね」(泉田氏)
このように全地域で苦戦を強いられた日産ですが、会社側は2026年度に向けて強気の「V字回復計画」を掲げています。
26年度地域別販売台数計画3/4
出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会資料」を基にイズミダイズム作成
2026年度の計画では、グローバル全体の販売台数を前年の315.1万台から330万台(前年比4.7%増)へと引き上げる目標を設定しています。
地域別に見ても、日本で7.9%増、中国で8.7%増、北米で2.2%増と、すべての主要地域で一転してプラス成長を見込んでいます。これにより、最終利益も200億円の黒字へと転換させる計画です。
この強気な計画に対し、泉田氏は機関投資家ならではの冷静な視点を提供します。
「24年度は334万6000台売ってたんで、330万台売ったことはあるんですよ。なので、今年の330万台予想ですよって言われると、できる実力はあるよねっていうところではあるんだけど、その前提をどう見るかってことですね」(泉田氏)
つまり、過去の実績からすれば不可能な数字ではないものの、前年度に全地域でマイナス成長だった状態から、一気に全地域プラスへと反転させる「前提」が本当に達成可能なのか、慎重に見極める必要があるということです。
【動画で解説】日産はなぜ巨額赤字に?立て直し戦略と商品展開を元機関投資家が徹底解説
3. 鍵を握る商品戦略。海外偏重のラインナップと日本の現状
では、日産はこの強気な販売計画をどのように達成しようとしているのでしょうか。その鍵を握るのが「商品戦略」、つまりどのような新車を市場に投入するかです。
25年度商品投入スライド4/4
出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会資料」p.19(2026年5月13日)
泉田氏は、自動車メーカーの業績回復において最も重要な要素を次のように断言します。
「やっぱり自動車メーカーで一番大事なのは、良い車種、良い商品があるかどうかなんで、そこにまず大きな要素はある」(泉田氏)
しかし、2025年度に投入された新型車のラインナップを見ると、ある特徴が浮かび上がります。それは「海外偏重」です。
中国市場向けの「N7」や「ティアナ」、欧州向けの「マイクラEV」や「キャシュカイ e-POWER」、米国向けの「ローグPHEV(プラグインハイブリッド車)」など、海外市場には次々と新車が投入されています。
また、オーストラリアなどで展開されるピックアップトラック「ナバラ」や「フロンティアプロ」といったニッチな需要を捉える車種も海外専用です。
一方で、日本市場向けの新型車は、電気自動車の「リーフ」と軽自動車の「ルークス」のみにとどまりました。さらに、日産の代名詞とも言えるスポーツカー「GT-R」の生産終了も発表され、日本の自動車ファンに衝撃を与えました。
インタビュワーが日本市場でのラインナップの少なさに疑問を呈すると、泉田氏は販売台数減少の明確な理由として指摘します。
魅力的な新車が出なければ、当然ながら販売台数は伸びません。日産は2026年度に向けて、日本市場でも小型SUV「キックス」や高級ミニバン「エルグランド」、SUV「ムラーノ」などの投入を計画しています。
特にエルグランドは、トヨタの「アルファード」や「ヴェルファイア」が独占する高級ミニバン市場への挑戦となります。
これらの新車が日本の消費者にどれだけ受け入れられるかが、日本市場での販売目標(7.9%増)達成の試金石となります。
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4. 「トヨタ強すぎる問題」と業界再編の行方
なぜ日産は、お膝元である日本市場での新車投入を絞り、海外市場に注力する戦略をとってきたのでしょうか。泉田氏は、その背景にある日本独自の構造的な課題を分析します。
日産やホンダといった日本の大手自動車メーカーにおいて、グローバル販売に占める日本市場の比率は約13%程度にとどまっています。
泉田氏は、この「日本比率の低さ」の理由を次のように推測します。
「なんでホンダと日産がこんなに日本での比率が薄いのかって考えた時に、やっぱトヨタ強すぎる問題があるんじゃないかなと。だから消去法的に国内で戦うことをやめて海外に行った結果が、今なんじゃないかなってちょっと思うんだよね」(泉田氏)
日本市場ではトヨタ自動車が圧倒的なシェアと強固な販売網を築き上げています。そのため、日産は国内での真正面からの競争を避け、勝機を見出せる海外市場(北米や中国など)を開拓する道を選んだという分析です。
実際、日産にとって米国市場は年間約90万台を販売する巨大な収益源となっています。
しかし、その海外市場でも競争は激化しています。特に中国市場では現地のEVメーカーが台頭し、北米市場でも競争環境は厳しさを増しています。
こうした中、日本の自動車業界では生き残りをかけた再編の動きが進んでいます。日産はホンダとの提携に向けた協議を進めており、注目を集めています。
かつては業績不振の日産が弱者の立場にあると見られていましたが、直近の決算ではホンダも厳しい数字を発表したことで、両社のパワーバランスに変化が生じている可能性もあります。
とはいえ、泉田氏はこのアライアンス(提携)の枠組み自体が、直ちに業績の劇的な改善につながるわけではないと冷ややかな見方を示します。
企業間の提携によるコスト削減や部品の共通化は重要ですが、それだけで消費者が買いたくなるような革新的な車が生まれるわけではありません。本質的な競争力の源泉は、あくまで各メーカーの企画力と開発力にあるということです。
【動画で解説】日産はなぜ巨額赤字に?立て直し戦略と商品展開を元機関投資家が徹底解説
5. まとめ:魅力ある車づくりが再建の第一歩
日産自動車は、2期連続の巨額赤字というどん底の状態から、2026年度に全地域での販売増と黒字化を目指す「V字回復計画」を打ち出しました。
しかし、前年度にすべての主要地域で販売を落としている現状を踏まえると、この計画の実現には高いハードルが存在します。
コスト削減や他社との提携といった経営効率化の取り組みも進められていますが、自動車メーカーとしての本質的な課題について、泉田氏は最後にこう締めくくりました。
「やっぱりやるべきは魅力のある車を作ること。そのために準備はできてるのかっていうところは、やっぱり繰り返し思っちゃったね」(泉田氏)
投資家が日産自動車の今後を見極める上で最も重要なのは、経営陣が掲げる数字の目標だけでなく、「消費者が本当に欲しいと思える車を、適切な市場に投入できているか」という商品戦略の実態です。
今年度投入される新型車が市場でどのような評価を受けるのか、その動向から目が離せません。
詳しくは、泉田氏が解説するYouTubeチャンネル「イズミダイズム」の動画をぜひご覧ください。
参考資料
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会 発言記録」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 参考資料」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 BS・CFセグメント別補足」(2026年5月13日)
- Youtubeチャンネル「イズミダイズム」