5. ロームへの提案取り下げと今後の「2つの選択肢」
このような厳しい状況を打開するためには、手元にある潤沢なキャッシュを活用し、自社の事業よりも高いリターンを生み出す領域へ「成長投資」を行う必要があります。
その一環として市場から注目を集めていたのが、半導体メーカーであるローム株式会社への株式取得提案でした。自動車の電動化が進む中、キーデバイスとなる半導体の内製化を目指すデンソーにとって、理にかなった戦略に思えました。
しかし、直近の適時開示で、この株式取得提案が取り下げられたことが発表されました。
泉田氏はこの動きについて、投資家の視点から次のように分析します。
「M&Aして、キャッシュよりも高いリターンが出るものを買えば株主価値としてはプラスに働いてくるんで、そういう取り組みをしたかったんだとは思うんだけど、今回そこは思うようにはいかなかった」
成長投資を通じたリターン向上の道が一つ閉ざされたことで、デンソーは再び振り出しに戻り、市場から「次の一手」を厳しく問われることになりました。
「次の打ち手で自分たちのビジネスよりも高いリターンを出せるものを買ってくるとか、できないんだったらバランスシートをスリムにしてより効率化する。逆に言うと2つの選択肢しかない」
泉田氏が指摘するように、デンソーに残された道は限られています。
一つは、M&Aなどによって高い利益率を生む成長領域に資金を投じ、資本効率(ROICやROE)を劇的に改善すること。
もう一つは、使い道のないキャッシュを自社株買いや配当といった形で株主に還元し、分母である「資産」をスリム化することで効率を高めること。
現在のデンソーは、この「2択」の決断を株式市場から突きつけられている状態なのです。
6. まとめ
デンソーは、日本が世界に誇る技術力と強固な事業基盤を持つ優良企業です。しかし、株式市場の評価は「どれだけ利益を出したか」だけでなく、「どれだけ効率よく資本を使ったか」というシビアな基準で下されます。
潤沢なキャッシュを抱えながら、資本コストを下回るリターンしか見込めない現状に対し、経営陣が今後どのようなアクションを起こすのか。成長投資に舵を切るのか、それとも株主還元によるバランスシートのスリム化を進めるのか。その決断こそが、今後の株価の方向性を決定づける最大の鍵となります。
投資を検討する際は、目先の売上や利益の数字だけでなく、企業が発信する「資本の使い道」というメッセージにも耳を傾けることが重要です。
※本記事は動画内容を紹介するものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株式投資には価格変動リスクが伴います。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。
参考資料
- 株式会社デンソー「2026年3月期 決算短信」
- 株式会社デンソー「2026年3月期 決算説明会資料」
- 株式会社デンソー「ローム株式会社に対する株式取得に関する提案の取下げについて」(適時開示)
-
Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日