2. 「キャッシュリッチ」が仇に?投資家が突きつける資本効率の課題
株価低迷の大きな要因として泉田氏が挙げるのが、デンソーの「資本効率」に対する株式市場からの厳しい評価です。
デンソーのバランスシートを確認すると、総資産8.7兆円に対して、株主資本(親会社の所有者に帰属する持分合計)は5.4兆円にのぼり、自己資本比率は約63%と非常に強固な財務体質を持っています。
さらに注目すべきは、手元にある資金の豊富さです。現金および現金同等物が約1兆1,891億円、さらに現金化しやすいと考えられる「その他金融資産」が約1兆7,997億円あり、これらを合わせると約3兆円近いキャッシュ性資産を抱えている計算になります。
いわゆる「キャッシュリッチ」な企業です。
これだけお金を持っていれば安心ではないか、と考える初心者の方も多いかもしれません。しかし、機関投資家の視点は異なります。
投資家は「自分たちが投資したお金(資本)を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」を重視します。その代表的な指標が「ROE(自己資本利益率)」です。
デンソーの26年3月期のROEは8.5%でした。これは、日本企業が目指すべき水準として広く知られる「伊藤レポート」の基準である8%をかろうじてクリアしている状態です。しかし、泉田氏はこの水準が現在の株式市場では不十分だと分析します。
「周りの会社がどんどんこのROE意識して8%を超えるような、いわゆる時価総額の大きい大型株が増えてくると、デンソーも大型株の1つなんだけども、それと比べて売り買い決められちゃうんで」
つまり、他の大型株が資本効率を改善し、より高いROEを叩き出している中で、相対的にデンソーの魅力が薄れてしまっているのです。
潤沢な資金を持ちながら、それを十分に利益成長に結びつけられていない状況に対し、投資家は「あえてデンソーに投資する理由が見当たらない」と判断していることになります。
泉田氏はこの市場の声を次のように代弁します。
「資本構成にまだ改善の余地がある。あとは資産に無駄があるんじゃないかというのは、株式市場が突きつけて、株価のアンダーパフォームに繋がってると思います」
【動画で解説】【デンソー】なぜ好決算なのに株価低調?元機関投資家が紐解く市場の評価
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日