衣替えの季節を迎え、少しずつ夏の気配を感じる頃となりましたが、老後の生活設計について改めて考えている方も多いのではないでしょうか。

公的年金は老後の生活の大きな柱ですが、実はそれ以外にも国から受け取れるお金があることをご存知ですか。

これらの多くは、自分で手続きをしないと受け取れない「申請主義」が基本です。

せっかく対象になっているのに、制度を知らない、手続きを忘れていた、ということでは非常にもったいないです。

この記事では、60歳や65歳以上の方を対象とした、年金や雇用保険に関連する「申請しないともらえないお金」について、5つの制度をピックアップして詳しく解説していきます。

ご自身の状況と照らし合わせながら、利用できる制度がないか確認してみましょう。

1. 公的なお金の多くは「申請しないと」受け取れない?

老齢年金、障害年金、遺族年金といった公的年金制度は、私たちの暮らしを支える重要な基盤です。

しかし、これらの年金は受給資格を満たせば自動的に支給が開始されるわけではない点に注意が必要です。

年金の受け取りを開始するためには、ご自身で「年金請求書」を提出し、請求手続きを行う必要があります。

これは国や自治体が提供する給付金や補助金も同様で、原則として「申請」が前提となっています。

もし申請期限を過ぎてしまったり、提出書類に不備があったりすると、受け取れるはずの金額が減ってしまったり、最悪の場合受け取れなくなったりする可能性も考えられます。

利用できる支援制度を最大限に活用するためにも、まずはご自身が対象となる制度について正しく理解し、忘れずに手続きを済ませることが大切です。

2. 【老齢年金】上乗せで受け取れる2つの給付制度

老齢年金を受給している方が、特定の条件を満たした場合に、基本の年金額に加えて受け取れる2つの制度についてご説明します。

2.1 制度1. 年金版の家族手当「加給年金」

「加給年金」とは、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になった時点で、その方に生計を維持されている「年下の配偶者」や「子」がいる場合に年金額が加算される制度です。

年金における「家族手当」のようなものと考えると分かりやすいかもしれません。

以下の支給要件を満たし、「65歳未満の配偶者」または「18歳になった年度の3月31日までにある子、もしくは1級・2級の障害がある20歳未満の子」がいる場合に、年金が上乗せされます。

加給年金の支給要件とは

  • 厚生年金の加入期間が20年(※)以上ある方:65歳到達時点、または定額部分の支給開始年齢に達した時点
  • 65歳到達後(または定額部分の支給開始年齢到達後)に加入期間が20年(※)以上となった方:在職定時改定時や退職改定時(または70歳到達時)

(※)共済組合などの加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が、40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降に15年から19年ある場合も含まれます。

それぞれ上記のタイミングで、条件に合う配偶者や子がいる場合に年金が加算されます。

ただし、配偶者が20年以上の加入期間がある老齢厚生年金や退職共済年金を受け取る権利がある場合、または障害年金などを受給している場合は、配偶者加給年金額は支給停止となります。

2026年度における加給年金の金額

加給年金の加給年金額2/8

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

「加給年金」の金額(2026年度の年額)は、対象者によって異なります。

  • 配偶者:24万3800円
  • 子(1人目・2人目):各24万3800円
  • 子(3人目以降):各8万1300円

また、老齢厚生年金を受け取っている方の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額には3万6000円から17万9900円の特別加算が上乗せされます。

加給年金終了後の「振替加算」について

加給年金の対象であった配偶者が65歳になると、加給年金の支給は終了します。しかし、特定の条件を満たすことで、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として一定額が加算される仕組みがあります。

2.2 制度2. 所得が低い方向けの「老齢年金生活者支援給付金」

「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受給している方のうち、所得が一定の基準を下回る場合に、生活を支える目的で支給される給付金です。

この制度は年金とは別の法律に基づいており、「給付金」として扱われます。

老齢年金生活者支援給付金の対象となる条件

  • 65歳以上で老齢基礎年金を受給している
  • 同じ世帯の全員が市町村民税非課税である
  • 前年の公的年金などの収入金額(※1)と他の所得の合計額が、昭和31年4月2日以降生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下である(※2)

※1 障害年金や遺族年金といった非課税収入は含まれません。
※2 基準額をわずかに超える方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される場合があります。

給付基準額はいくら?

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/8

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」

2026年度における老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は、月額5620円です。これは前年度から3.2%の増額となりました。

この基準額を基に、保険料の納付状況などに応じて実際の給付金額が計算されます(後述の①と②の合計)。

給付額の具体的な計算方法

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額)= 5620円 × 保険料納付済期間 / 480カ月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額)= 1万1768円 × 保険料免除期間 / 480カ月

※保険料免除期間に乗じる金額は、毎年度の老齢基礎年金額の改定に応じて変動します。

3. 【雇用保険】働くシニアを支える3つの給付制度

次に、働き続けるシニア世代にとって関心の高い、就労に関連する給付金や手当について見ていきましょう。

高齢者の就労を支援する制度は増えてきていますが、一般的に60歳を境に収入が減少する傾向が見られます。国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、年齢階層別の平均給与は50歳代後半から60歳代にかけて減少しています。

また、若い頃と同じようにスムーズに就職活動や就労継続ができるとは限りません。ここでは、シニア世代が知っておきたい雇用保険関連の手当や給付金を3種類ご紹介します。

3.1 制度3. 65歳未満の早期再就職を支援する「再就職手当」

再就職手当は、失業後の早い段階での再就職を後押しするための制度です。失業してから再就職、または事業を開始するまでの期間が短いほど、多くの手当が支給される仕組みになっています。

再就職手当の支給要件

  • 対象者:雇用保険の受給資格者で、基本手当の受給資格がある方
  • 支給要件:基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、雇用保険の被保険者となる、または事業主として被保険者を雇用するなど、一定の要件を満たす場合に支給されます。

再就職手当の給付率

  • 手当の額:就職する前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数に応じて、給付率が変わります。
    • 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合:「支給残日数の60%」
    • 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合:「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/8

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受け取った後、再就職先で6カ月以上働き、その間の賃金が離職前の賃金より低い場合には、「就業促進定着手当」の対象となることもあります。

3.2 制度4. 60~64歳で働き続ける方のための「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が働き続ける中で、賃金が60歳時点よりも下がってしまった場合に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付の支給要件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳に到達した時点の75%未満の状態で就労を継続する場合

高年齢雇用継続給付の支給率

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)に相当する額
    ※2025年3月31日以前に支給要件を満たした方は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/8

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

注意点として、老齢年金を受け取りながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」も受給する場合、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する額が支給停止となることを覚えておく必要があります。
※2025年3月31日以前に要件を満たす方は6%

3.3 制度5. 65歳以上で失業した方向けの「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上の方が失業した場合に受け取れる給付金です。

高年齢求職者給付金の支給要件

  • 対象者:65歳以上の雇用保険加入者(高年齢被保険者)で失業した方
  • 支給要件:以下のすべての条件を満たす必要があります。
    1. 離職日より前の1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
    2. 失業の状態にあること(就職の意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態)

高年齢求職者給付金の給付金額

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満の場合:30日分の基本手当に相当する額
    • 被保険者であった期間が1年以上の場合:50日分の基本手当に相当する額

65歳未満の方が受け取る「失業手当」は4週間に一度、失業認定を受けてから支給されますが、高年齢求職者給付金は一括で支給される点が特徴です。

4. 【2025年金改正】在職老齢年金制度の変更点

2025年に成立した年金制度改正法により、2026年4月から在職中に年金が減額される基準が見直されました。これまでは、給与と老齢厚生年金の合計額が月51万円を超えると年金が減額対象でしたが、この基準額が65万円へと引き上げられます。

この改正は、平均寿命や健康寿命が延び、高齢になっても意欲的に働き続けたいと考える方が増えている社会状況を反映したものです。年金の減額を気にせず働きやすい環境を整えることで、高齢者の就労意欲や社会参加をさらに後押しする狙いがあります。

4.1 在職老齢年金制度の見直しのポイント

2026年4月スタート 働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます8/8

2026年4月スタート 働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます

出所:日本年金機構「2026年4月スタート 働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます」

在職老齢年金とは、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、年金額(※)と給与・賞与などの報酬の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。
(※)老齢基礎年金は対象外で全額支給されます。

年金が全額支給される基準額の推移

年金の支給が停止される基準となる「支給停止調整額」は、毎年度見直されてきました。

  • 2022年度:47万円
  • 2023年度:48万円
  • 2024年度:50万円
  • 2025年度:51万円
  • 2026年度:65万円

2025年度の基準額51万円から、2026年度には65万円へと14万円も引き上げられることになります。

厚生労働省の試算によれば、この見直しによって、新たに約20万人が年金を全額受け取れるようになると見込まれています。

この基準額の引き上げにより、これまで年金の減額を気にして働く時間を調整していたシニア世代も、より柔軟な働き方を選択しやすくなることが期待されます。

5. まとめ

ここまで、60歳や65歳以上の方を対象とした、年金や雇用保険に関連する申請しないともらえないお金について、5つの制度を解説してきました。

老後の安心を支えるこれらのお金は、国から自動的に支給されるわけではなく、自ら手続きを行う申請主義が基本です。

せっかく支給対象に該当しているにもかかわらず、制度を知らないまま手続きを忘れてしまうのは非常にもったいないことです。

まずはご自身の現在の年齢や就労状況と照らし合わせながら、利用できる制度がないか一つずつ確認することから始めてみましょう。

参考資料

筒井 亮鳳