高額薬が次々と発売されているが、健康保険の適用は限定的なものにすべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張しています。

高額薬が健康保険を破壊する?

薬価が数千万円の薬が次々と開発されています。今のところ、使用する患者数が少ないようですから、健康保険が適用されても大きな問題にはならないようですが、今のうちに本質的な問題を議論しておく必要があります。

今後仮に「100歳の末期ガン患者を1日延命させるために1億円かかる薬」が開発されたら、1万人の高齢者を100日延命するためのコストは100兆円、国家予算と同じです。

日本人の大人一人あたり100万円の負担となります。それでも認めるべきでしょうか。その時になってから議論しても遅いかもしれません。

「人の命は地球より重い」という言葉があります。人命が救えるならばコストを顧みずに救うべきだ、という考え方です。考え方としては立派ですが、現実を見ると、違和感も感じます。実際には、「100万円あれば救えた命」が数多く存在するでしょうから。

「健康保険を適用しないと、金持ちだけが助かり、貧乏人は死ぬことになる。それは許せない」という意見もあるでしょうが、これも現実を見れば、生活資金を稼ぐために無理をして働いて寿命を縮める貧しい人などがいるわけです。

政府に何か要求するなら、負担を覚悟すべき

日本人は、「税金はお上が召しあげるもので、行政サービスはお上が下さる物だ」と考える所があるようで、「行政サービスを要求するならば税金の負担が増えることを覚悟すべきだ」とは考えない人が多いようです。

そこで、かわいそうな人を見ると「政府が何とかしてやれ」と言うわけですが、「政府が何とかしてやれ。そのための費用なら、喜んで増税に応じるから」という人は少ないですね。

米国では、かわいそうな人に政府が何かしようとすると、「我々の税金が増えてしまうのは嫌だから、そんなことはしなくて良い」という反対意見も多いようです。さすがは「代表なくして課税なし」をスローガンに独立戦争を戦った国ですね。

年金についても、「老後は年金だけでは暮らせない」と聞くと「それなら年金支給額を増やせ」という人はいても、「年金支給額を増やせ。そのために必要なら現役世代の払う年金保険料を増額しろ」という人は多くないようです。

現役世代のみならず、高齢者たちの中にも「年金支給額は増やせ。でも、現役世代の負担は増やすな」と主張している人も多いようです。難しい問題ですね。

最大多数の最大幸福は正義か