6. ファイナンシャル・アドバイザーからのアドバイス
シニア期のマネープランにおいて最も重要なのは、「制度の仕組みを知り、リタイア後の生活を逆算して最適な選択肢を組み合わせる」ということです。今回ご紹介した公的年金の上乗せ給付や雇用保険の手当は、老後の家計を支える強力な武器になりますが、活用にあたっては以下の3つの視点を持つことが不可欠です。
第一に、「在職老齢年金や給付金同士の『相殺・調整リスク』を把握すること」です。例えば、60歳以降も働きながら年金と「高年齢雇用継続給付」をダブルで受け取ろうとする場合、両者の調整ルールによって年金の一部が支給停止になります。「もらえるものはすべて全額もらえる」と思い込んでいると、事後の手取り額に狂いが生じるため、事前に年金事務所やハローワーク等で試算を行うことが鉄則です。
第二に、「社会保険の適用拡大をポジティブにキャリアに組み込むこと」です。「106万円の壁」が撤廃されると、パートや短時間就労でも社会保険への加入が義務付けられ、短期的には社会保険料の負担により手取りが減るかもしれません。しかし、これは見方を変えれば「将来受け取る老齢厚生年金を増やせるチャンス」であり、万が一の際の傷病手当金などの保障が手厚くなるメリットもあります。就労時間を抑えて扶養内に収める選択よりも、週20時間以上の就労を前提として「長く元気に稼ぎ、将来の年金の土台を太くする」選択の方が、インフレ時代の老後対策としては合理的と言えます。
最後に、これらはすべて「自ら動かなければ1円も支給されない申請主義」であるという現実を忘れてはなりません。国や自治体から「あなたはこの手当の対象です」と親切に通知が届くケースは稀です。定年や退職、家族の年齢の変化といったライフイベントを迎えるごとに、自身が使える制度がないか確認する姿勢が、最終的な生涯手取り額の差となって現れます。
7. まとめ
本記事では、シニア世代の生活設計に関わる重要な公的給付金や、今後の働き方を大きく変える社会保険の制度改正について見てきました。
公的制度は、その仕組みを正しく理解し、適切なタイミングで申請を行うことで初めて有効に活用できます。裏を返せば、知識が不足しているだけで申請漏れが生じ、本来受け取れるはずの支援を逃してしまうリスクがあるということです。
資産運用や保険の見直しを行う際にも、まずはこうした「公的制度でどこまでカバーできるか」を確認し、足りない部分を私的年金や貯蓄で補っていくというアプローチが基本となります。また、国の制度だけでなく、お住まいの地方自治体独自でシニア向けの給付や優遇措置を設けているケースも少なくありません。ぜひ一度、自治体の広報やホームページ等を確認し、自身が活用できる制度がないかチェックしてみてください。
参考資料
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「「年収の壁」への対応」
渡邉 珠紀
