人生において「選択」は避けては通れないものです。学生、社会人、そして老後を迎えるにあたっても、私たちは何度も「選択」の機会に直面します。特にリタイア前後のシニア期は、公的年金をどのタイミングで受け取るか、定年後にどのような形で働き続けるかなど、その後の生活水準を大きく左右する重要な決断を迫られる時期です。
ファイナンシャル・アドバイザーとして日々多くのお客様の相談を受ける中で感じるのは、お金の運用だけでなく「公的な給付制度をいかに賢く選択し、活用するか」という視点の重要性です。公的年金や雇用保険の制度は複雑であり、選択次第で受け取れる金額に大きな差が生まれることも少なくありません。
今回は、シニア世代が知っておくべき「年金の上乗せ給付」と「働くシニア向けの雇用保険給付」、そして今後の働き方に影響を与える「社会保険の制度改正」について、見落としがちなポイントを整理して解説します。
1. この記事の3つのポイント
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公的年金の加給年金や雇用保険の手当は自動支給されず、自ら手続きを行う「申請主義」 -
働くシニア向けの「高年齢雇用継続給付」などは、受け取り方によって在職老齢年金の一部が支給停止になる「相殺・調整リスク」がある -
「106万円の壁」撤廃による社会保険の適用拡大は将来の年金額を増やし保障を厚くする好機に
2. 申請しないと受け取れない公的なお金の基本
公的年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)は、私たちの暮らしを支える大切なセーフティーネットです。
ただし、支給要件を満たしたら自動的に振り込まれるわけではありません。年金を受け取るためには「年金請求書」を提出して請求手続きをおこなう必要があります。
国や自治体による「手当」「給付金」「補助金」などの多くもまた、受け取るためには申請手続きが必要です。
申請期限や添付書類などのルールを守れなかった場合、本来受け取れるはずのお金が減額されたり、受け取れなくなってしまったりする可能性もあります。
公的な支援制度を必要に応じて確実に活用するためには、自分がどのような支援内容の対象となるかを理解し、手続きをしっかりおこなうことが大切です。
3. 老齢年金に上乗せして受給できる2つの給付金
シニア世代の生活を支える公的年金には、通常の老齢年金に加えて、受給額を補完する制度がいくつか用意されています。
今回はその中から、老齢年金を受給している人が一定の条件を満たした場合に、年金に上乗せして受け取れる2つの給付制度を紹介します。
3.1 年金生活者支援給付金とは
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給中で、かつ一定の所得基準を下回る方を支援するための給付金です。
老齢・障害・遺族の各基礎年金にそれぞれ設けられていますが、ここではシニアの暮らしに直結する「老齢年金生活者支援給付金」について解説します。
老齢年金生活者支援給付金を受け取るための条件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
給付基準額はいくら?
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。
この基準額をもとにして、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。
給付額の計算方法について
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
※保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
3.2 配偶者や子がいる場合に加算される「加給年金」
加給年金は、いわば「年金の扶養手当(家族手当)」とも例えられる制度です。
老齢厚生年金を受給している方が、年下の配偶者や子どもを扶養している場合、一定の要件を満たすと年金に上乗せして支給されます。
加給年金を受け取るための条件
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
上記の時点で、生計を維持している以下の対象者がいる場合に加算されます。
- 65歳未満の配偶者
- 18歳到達年度の末日までの間の子(または1級・2級の障害状態にある20歳未満の子)
配偶者自身が「被保険者期間が20年以上ある老齢厚生年金や退職共済年金」を受け取る権利がある場合、あるいは障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金は支給されません。
加給年金の給付額はいくら?
「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
さらに、老齢厚生年金を受給する本人の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が上乗せされます。
なお、配偶者加給年金は、対象となる配偶者が65歳に到達すると支給が終了します。ただし、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る際、一定の要件を満たしていれば、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として引き継がれます。
4. 60歳以降も働くシニアを支える雇用保険の給付・手当3種類
60歳以降も働き続けるシニアが増えている一方で、現実問題として「60歳を境に収入が大きく下がる」ケースは珍しくありません(※)。また、若い頃と違って再就職活動がスムーズに進まないこともあるでしょう。
そんなシニア世代の就労を力強くサポートしてくれるのが、雇用保険の制度です。今回は、知っておきたい「3つの給付金・手当」について、もらえる条件や金額の目安をわかりやすく解説します。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
4.1 65歳未満の方向け「再就職手当」
再就職手当は、早期の再就職を促進するための手当で、「失業~再就職」「失業~事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなります。
再就職手当を受け取るための条件
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
再就職手当の給付率
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
再就職手当をもらって再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が「前の職場より下がってしまった」という場合には、さらに「就業促進定着手当」というサポートを受けられる可能性があります。
4.2 60歳から65歳未満の方向け「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付は、「60歳以降も同じ会社などで働き続けるけれど、給与が大きく下がってしまった」という人を経済的にカバーするための給付金です。
高年齢雇用継続給付を受け取るための条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳時到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
高年齢雇用継続給付の支給率
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に留意しておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
4.3 65歳以上の方が対象「高年齢求職者給付金」
65歳以上で退職・失業した場合、通常の失業手当の代わりに受け取れる給付金です。
高年齢求職者給付金を受け取るための条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
高年齢求職者給付金の給付額
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
なお、65歳未満が受け取る「失業手当」は4週間に1回ずつ認定を受けて少しずつ受け取りますが、この高年齢求職者給付金は「一括支給」というのが大きな特徴です。
5. 社会保険「106万円の壁」撤廃に向けた今後の法改正
2025年の年金制度改正により、社会保険の加入要件が見直され、いわゆる「106万円の壁」は解消される方向へと進みます。
5.1 パート・アルバイトの社会保険加入要件が緩和へ
収入額の要件が撤廃される見込み
これまで加入基準の一つだった「月額8.8万円以上」という賃金要件が、最低賃金の状況を踏まえつつ2028年6月までに撤廃されます。今後は収入額によらず、週20時間以上働くかどうかが判断の柱となります。
企業規模の要件も段階的に撤廃
勤務先の従業員数による制限も、2027年10月から10年かけて段階的に引き下げられます。最終的にはすべての企業において、労働時間等の条件を満たせば社会保険の対象となります。
今後の働き方を考える重要性
制度の変更に伴い、保険料負担による手取りの変化や将来の年金増、健康保険の保障内容など、個々の家庭状況やライフプランに合わせた働き方の選択がこれまで以上に重要になります。
また、扶養の基準である「130万円の壁」についても、この適用拡大の流れの中で相対的にその重要性が変化していくことが予想されます。







