3. なぜ株式分割しない?「値がさ株」である理由と日経平均への影響
キーエンスの株を語る上で避けて通れないのが、その株価の高さです。動画撮影時点での株価は1株あたり7万3,000円台。日本株は通常100株単位(単元株)で取引されるため、キーエンスの株を購入するには最低でも700万円以上の資金が必要になります。
このように1株あたりの株価が高い銘柄を「値がさ株」と呼びます。インタビュワーから「ここまで株価が高くなったら、株式分割をして一般の個人投資家が買いやすくした方が市場から喜ばれるのではないか?」という疑問が投げかけられました。
これに対し、泉田氏は企業のスタンスを次のように読み解きます。
「機関投資家中心に投資される銘柄なので、その状態でいいというふうに思ってるのであれば、分割して個人投資家を増やすこともないのかなとは思いますね」
キーエンスはBtoB(企業間取引)のビジネスを展開しているため、個人投資家を増やして消費者向けの知名度を上げるメリットがそれほど大きくありません。そのため、あえて株式分割を行わず、現在の株主構成を維持する方針をとっているのではないかと泉田氏は推測しています。
一方で、個人投資家にとってもキーエンスの存在は無視できません。なぜなら、同社は日経平均株価(日経225)に採用されているからです。
「日経225に採用されていて、それなりに比率があってインパクトがある銘柄なので、このキーエンスの動きを知っておくことで、日経225のインデックスファンドとかに投資している人であれば気になる銘柄の1つなのかなと思います」
日経平均株価は、構成銘柄の「株価の高さ」に影響を受けやすいという特徴があります。
そのため、値がさ株であるキーエンスの株価変動は、日経平均に連動する投資信託(インデックスファンド)を持っている多くの個人投資家の資産にも間接的に影響を与えているのです。
【動画で解説】キーエンス、決算発表直後に株価が10%近くも急伸
4. 株価が長期横ばいだった本当の理由と「変化率」の壁
ここまで見てきたように、キーエンスの業績は極めて順調です。しかし、最初のセクションで触れた通り、株価は2022年から長らく横ばいの状態が続いていました。なぜ業績が良いのに株価が上がらなかったのでしょうか。
泉田氏は、機関投資家ならではの視点でその理由を「変化率」という言葉で説明します。
「株価見るときにはやっぱり変化率っていうのが大事なんで、(中略)変化率だけ求める投資家からすると物足りないなっていう気はします」
株式市場、特に成長株を好む投資家は、単に「利益が出ていること」だけでなく、「利益がどれくらいのスピードで増えているか(成長率)」を重視します。
キーエンスの今回の決算は売上高が+10.4%、営業利益が+8.4%と素晴らしい実績ですが、過去の爆発的な成長を知っている投資家からすれば、1桁台後半から10%前後の成長率では「少し物足りない」と映ってしまっていたのです。
事業規模が1兆円を超えてくると、どうしてもパーセンテージでの成長率は鈍化しやすくなります。この「変化率の鈍化」に対する市場の懸念が、長らく株価の重しになっていたと泉田氏は分析しています。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日