「SHIFT」はソフトウェアのテスト事業で急成長を遂げ、売上高700億円を超えるIT企業です。
しかし、驚くべきことに同社は投資家からの「AIによってテスト業務はなくなるか?」という問いに対し、「将来的になくなる可能性がある」と自らの主力事業の消滅リスクを率直に認めています。
自社の屋台骨を揺るがすAIの進化に対し、一体なぜこれほど潔く答えられるのでしょうか。
そして、AI時代にどのような生き残り戦略を描いているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がYouTubeチャンネル「イズミダイズム」にてSHIFTの事業構造と戦略転換を分析します。
- SHIFTの主力は売上の約65%を占める「ソフトウェアテスト事業」
- 会社自身が「AIの進化により将来テスト業務がなくなる可能性」を想定している
- 既存業務にAIを組み込む段階から、AIありきで業務を設計する「Native AI」への移行を目指す
- 人を増やして成長するモデルから、少数精鋭のハイエンド人材獲得へと人的資本戦略を大転換している
1. 新幹線広告でおなじみ「SHIFT」の知られざる実態と業績
新幹線に乗ると必ずと言っていいほど目にする「SHIFT」の広告。名前は知っていても、実際に何をしている会社なのかは意外と知られていません。
泉田氏はこの点について、次のように端的に解説します。
「システムのバグとかをテストする会社なんだよね」
私たちが普段使っているスマートフォンアプリや企業の業務システムなど、あらゆるソフトウェアは世に出る前に「正しく動くか」「バグ(不具合)がないか」をチェックする必要があります。
SHIFTはこのテスト工程を専門に請け負うことで、大きく成長してきた企業なのです。
では、直近の業績はどうなっているのでしょうか。2026年8月期の中間期(第2四半期累計)決算を見ると、売上高は720億円と前年同期比で16.8%の増収を達成しています。
しかし、利益面を見ると、本業の儲けを示す営業利益は69億円で14.3%の減益、親会社株主に帰属する純利益も40億円で10.7%の減益となっています。
このように表面上は「増収減益」という状態ですが、SHIFTは投資家に対して「調整後営業利益」という独自の指標も開示しています。
これは、通常の営業利益に「のれん償却費(企業買収時に発生する無形資産の目減り分)」や「顧客関連資産に関わる減価償却費」、「M&A(合併・買収)に関わる諸経費」などを足し戻したものです。
この調整後営業利益は79億円(前年同期比12.5%減)となっています。泉田氏は、会社がこの指標を重視する理由を次のように説明します。
「どっちかというとキャッシュフローに近い概念、お金の流れに近い概念だから、会社がこっち見てくださいというのも分かる」
会計上のルールで差し引かれる費用を除外し、企業が実際に生み出している現金の流れ(実力値)を見せたいという会社の意図があると泉田氏は指摘します。
ただし、この調整後利益で見ても前年を下回る減益となっているのが現在の実態です。
SHIFTの事業ポートフォリオをさらに分解すると、その構造がより明確になります。
売上高の内訳は、主力である「ソフトウェアテスト関連」が約470億円、「ソフトウェア開発関連」が約194億円、「その他近接サービス」が約56億円となっています。
つまり、テスト関連事業が全体の売上の半分以上(約65%)を占める大黒柱なのです。
2. SHIFTの回答「主力事業はAIでなくなる可能性がある」
テスト事業への依存度が高いSHIFTにとって、現在最も大きな脅威となっているのがAI(人工知能)の急速な進化です。
インタビュワーが最近のAIニュースに触れ、「高精度なAIがシステムのバグを自動で見つけ出せるようになれば、SHIFTのテスト事業は真正面から打撃を受けるのではないか」という疑問を投げかけました。
実は、この懸念は多くの投資家も抱いており、SHIFTの決算説明会資料には「投資家の皆様から多数いただく質問」に対する会社の回答が掲載されています。
その代表的な質問の一つが、「AIによって開発・テスト業務はなくならないのか?」というものです。これに対する会社の回答は、非常に率直なものでした。会社は「将来的になくなる可能性があると予想しています」と明記しているのです。
自社の売上の6割超を占める主力事業が消滅するかもしれないと、会社自らが認めている事態にインタビュワーも驚きを隠せません。しかし、泉田氏はこの会社の姿勢を次のように評価します。
「会社としてはもう織り込んでますよと。織り込んでるよと、心配ないよ、ということではあります」
つまり、AIの進化による事業環境の激変を単なるリスクとして恐れるのではなく、すでに前提条件として受け入れ、次の打ち手を準備しているという会社からの力強いメッセージだと読み解けるのです。
また、もう一つの代表的な質問として「AIによって内製化(企業が自社内でシステム開発を行うこと)が進み、SHIFTへの発注は減らないのか?」というものがあります。
これに対し会社は、「先進的な企業では内製化が進むが、多くの事業会社は外注の活用を継続する」と予想しています。
AIを使いこなせる一部のトップ企業を除き、世の中の多くの企業は依然としてSHIFTのような専門企業の手助けを必要とするだろう、という現実的な見立てです。
【動画で解説】SHIFT、主力事業はAIでなくなる可能性があると回答
3. 「With AI」から「Native AI」へ。SHIFTが描く未来図
主力事業の将来的な縮小を見据え、SHIFTはどのような生き残り戦略を描いているのでしょうか。決算説明会資料では、AIへの向き合い方を「With AI時代」と「Native AI時代」という2つのフェーズに分けて整理しています。
現在のSHIFTの売上構成を見ると、旧来のコンサルティング・開発・テストといった「既存事業」が全体の88%を占めています。
そして、この既存事業のプロセスにAIを組み込んで効率化を図る「With AI」の領域が11%となっています。
しかし、SHIFTが真に見据えているのはその先の「Native AI時代」です。ここでは「AIモダナイゼーション」と「AI BPaaS(ビジネス・プロセス・アズ・ア・サービス)」という2つの新しい事業概念が提示されています。
泉田氏は、このNative AIの発想について、従来のアプローチとは根本的に異なると解説します。人間が作った既存の業務プロセスをAIでどう手助けするかではなく、最初からAIが最大限に力を発揮できるように業務そのものを設計し直すというのです。
「AIが最適化したプロセスっていうのをちゃんと考えて、そういったものを作ってSaaSみたいな形で提供していく」
つまり、業務の進め方やシステムの構造(アーキテクチャ)をAI主導で再構築する支援を行うのが「AIモダナイゼーション」であり、その最適化されたプロセスそのものをクラウドサービスのように提供するのが「AI BPaaS」です。
SHIFTのAI戦略と売上構成比(既存事業88% / With AI 11% / AIモダナイゼーション・BPaaS 約0.3%)3/5
出所:出所:株式会社SHIFT 2026年8月期第2四半期 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成
【動画で解説】SHIFT、主力事業はAIでなくなる可能性があると回答
ただし、この未来図には大きな課題もあります。現在の売上構成比を見ると、このNative AI領域(AIモダナイゼーションおよびBPaaS)の売上は「ほぼゼロ(約0.3%)」に過ぎません。
会社が将来の柱と位置づける事業が、まだ業績の数字として表れていない段階なのです。
既存のテスト事業がAIに取って代わられる前に、この新しい事業をどこまでスピーディーに立ち上げ、利益を生み出す柱に育て上げることができるか。これがSHIFTの今後の成長を左右する最大のポイントとなります。
4. 人的資本戦略の大転換。人を増やすモデルからの脱却
AIの進化は、SHIFTのもう一つの重要な経営の柱である「人的資本戦略(人材の活用方針)」にも大きな転換を迫っています。
これまでSHIFTは、M&Aを含めて積極的に人員を拡大することで売上を伸ばしてきました。「人が増えれば増えるほどテストや開発の仕事がこなせる」という、いわば人を成長のドライバーとするビジネスモデルでした。
しかし、直近の決算資料の「販売管理費(販管費)」の内訳を見ると、興味深い変化が起きています。
2026年8月期の上期において、人件費は前年の73億円から86億円へと18%増加しています。さらに注目すべきは「採用費」で、前年の14億円から今年は32億円へと倍以上に膨れ上がっているのです。
これだけ見ると「さらに人を増やそうとしている」ように思えますが、実は会社は同時に「年収600万円以下の採用ストップ」を宣言しており、対象となる人員をマイナス345人とする計画を立てています。
人を減らそうとしているのに、なぜ採用費が倍増しているのでしょうか。インタビュワーからのこの疑問に対し、泉田氏は次のように分析します。
「仮に人を減らして増えてるんだとすると、単価の高い人を取ってるっていうこと」
つまり、とにかく人数を集める戦略から、高い採用コスト(人材紹介会社への手数料など)を払ってでも、AIを使いこなせる高度なスキルを持った「ハイエンド人材」を厳選して獲得する戦略へと舵を切っているのです。
泉田氏は、AIの台頭によって企業の成長モデルが根本から変わってしまったと指摘します。
「今まで人を集めるのがすごく成長のドライバーだったのが、AIが入ってくることによって本当に真逆になっちゃった」
AIがコードを書き、テストを自動で行うNative AIの時代になれば、大量の人員は必要なくなります。むしろ、AIを適切に設計・管理できる少数の優秀な人材がいれば、巨大な成果を生み出せるようになります。
「いかに少ない人で大きな結果を出すのかみたいな発想が是とされるような環境になっちゃったので、この辺、今ちょうど中間地点にいるのかなという気がしますよね」
この大転換に伴い、SHIFT社内でも既存の社員をAI時代に適応させるための「リスキリング(スキルの再習得・再教育)」が始動しています。
2027年8月期に向けて、コンサルタントやエンジニアのスキル検定を作成し、テスト業務中心の人材をAI活用人材へと生まれ変わらせる取り組みが進められています。
5. まとめ:次の成長事業の開花が焦点
SHIFTはこれまで、「人を増やすことで業績を拡大する」という明確なビジネスモデルで株式市場から高く評価されてきました。
しかし、AIの急速な進化により、主力であるテスト事業の将来性に疑問符がつき、同時に「人を増やす」という成長の前提条件も大きく揺さぶられています。
会社側はこの危機を正面から受け止め、AIありきで業務を再構築する「Native AI」戦略や、少数精鋭のハイエンド人材へのシフト、そして社内のリスキリングといった次の一手を矢継ぎ早に打ち出しています。
既存のコアビジネスがAIの脅威にさらされる中、現在「ほぼゼロ(約0.3%)」である次の成長事業(AIモダナイゼーションやBPaaS)がいつ花開くのか。そして、人的資本の大転換が業績の数字としていつ結実するのか。これが、これからのSHIFTを分析する上での最大の焦点と言えるでしょう。
【動画で解説】SHIFT、主力事業はAIでなくなる可能性があると回答
6. イズミダイズムとは
イズミダイズムは、元機関投資家である泉田良輔の個人YouTubeチャンネルです。プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。
新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。
教科書的な知識だけでなく、プロの実体験に基づいた分析を通じて、ビジネスパーソンや個人投資家に役立てていただけるコンテンツをお届けしています。
## 参考資料
- 株式会社SHIFT「2026年8月期 第2四半期 決算短信」(2026年4月14日)
- 株式会社SHIFT「2026年8月期 第2四半期 決算説明会資料」(2026年4月14日)
- Youtubeチャンネル「イズミダイズム」



