2. 「イベントDX」への巨額投資と、市場が突きつけた冷酷な評価
ブイキューブが株価のピークを迎えていた2021年、同社はさらなる非連続的な成長を求めて大きな勝負に出ます。
それが、2021年5月末から6月にかけて発表された米国のオンラインイベントプラットフォーム企業「Xyvid(サイビッド)」の買収です。
当時、ブイキューブはオンラインセミナーや配信を支援する「イベントDX事業」を今後の成長の柱に据えていました。
コロナ禍で大規模なリアルイベントが開催できない中、情報を発信したい企業にとってオンライン配信は不可欠な手段となっており、この領域に社運をかける戦略は、当時の社会情勢を踏まえれば決して不自然なものではありませんでした。
しかし問題は、その投資の規模でした。ブイキューブはXyvidの買収関連に約36億円を投じました。さらに自社開発のソフトウェアに約14億円など、FY2021の投資キャッシュフロー(投資による現金の流出)の合計は約60億円に達しました。
これがどれほど巨額だったのか。当時の本業で稼ぎ出したお金(営業キャッシュフロー)は約20億円です。
つまり、本業で稼いだ現金の「約3倍」もの資金を投資に回していたことになります。結果として、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローは、約38億円のマイナスとなっていました。
この巨額買収に伴い、ブイキューブは決算の重要指標を従来の「営業利益」から「EBITDA(イービットディーエー)」に変更すると発表しました。
EBITDAとは、利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益のことです。初心者には少し難しい言葉ですが、簡単に言えば「企業が本業でどれだけ現金を稼ぎ出す力があるか」を示す指標です。
企業を買収する際、買収額と買収先企業の純資産との差額は「のれん」として計上され、日本の会計基準では毎年少しずつ費用として差し引かれます(のれん償却)。
そのため、巨額の買収をすると営業利益が目減りしてしまい、本業の稼ぐ力が正確に測れなくなります。会社側は「のれんの償却分を足し戻したEBITDAで見れば、実力値としては十分に稼いでいる」と主張したわけです。
しかし、株式市場の反応は冷ややかなものでした。Xyvidの買収が発表された2021年5月末から6月にかけて、ブイキューブの株価は下落トレンドに入っていきます。
泉田氏はこの市場の反応について、機関投資家としての経験から次のように分析します。
「投資する先が自分たちのリターンよりも高いものを生み出すかどうかっていうところがポイントなんだ」
企業が成長のために投資を行うのは当然ですが、投資家はその投資額に見合うだけのリターン(将来の利益)を本当に生み出せるのかをシビアに評価します。
当時の投資家たちは、本業の稼ぎの3倍にも及ぶ投資額を見て、「過剰な投資ではないか」「本当に回収できるのか」という警戒感を抱いたのです。
「その時に会社が説明したところの賛同が得られなかったから、株価って下がったんだと思うんですよ」
会社側が描いたバラ色の成長ストーリーと、投資家が感じたリスクに対する警戒感。この乖離が、コロナ特需の真っ只中であったにもかかわらず、株価が急落を始めた最大の要因でした。
【動画で解説】ブイキューブはなぜ上場廃止に?元機関投資家が語る
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日